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合宿2日目
AM5:30
まだ眠いけれど体操服に着替え集まったA組一同
「おはよう諸君、本日から本格的に強化合宿を始める
今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得
具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備だ、心して臨むように
というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
そう言って投げ渡されたのはいつぞやのソフトボール
「これ…体力テストの…」
「前回の…入学直後の記録は705.2m、どんだけ伸びてるかな」
この3ヶ月間でどれだけ伸びたか成長を見ようということらしい
「んじゃ、よっこら…くたばれ!!!」
爆音と共に投げ飛ばされたボール
しばらくしてから相澤先生の手元の計測器がピピっと音を立てた
「709.6m」
その数字に一同がざわつく
「約3ヶ月間様々な経験を経て確かに君らは成長している
だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない
だから今日から君らの個性を伸ばす、死ぬほどキツイがくれぐれも死なないように」
そう告げた相澤先生に一同はゴクリと息を飲んだ
そして今私の周りには空のペットボトルが大量に転がっており、離れたところには的
水泡を的に飛ばす度にペットボトルの水を100mlずつ飲んでいくというもはや拷問に近いこの特訓
私の個性は空気中の水分を凝縮・温度変化させることで水を使うことが可能
使えば使うほど体内の水分も減っていく仕組みで車がガソリンを使って走るようなイメージだ
そのため一定以上の水分は体内に必要なんだけれど、その調整をもっと上手くしようということらしい
これができるようになれば体内の水分量の減りを抑えつつ個性を使用できるようになる
また、体内の水分量を調節せきるようになれば全身液状化も夢じゃないとのこと
理にはかなってる、かなってるんだけれど
「(お腹くるし…っっっ!!!!)」
水責めという拷問が昔はあったらしいけれど、まさにそれ
吐きそうになるところを堪えて個性として捻出する
体内の水分量の消費が多ければ脱水症状、多ければ嘔吐という地獄の二択に挟まれながら一定を保つなんて精神面も鍛えられそうだ
PM4:00
訓練が終了した私達が向かった先は屋外食堂
「さあ!昨日言ったね世話焼くのは今日だけって!」
「己で食う飯くらい己で作れ!カレー!!」
「「「イエッサ…」」」
ずーんと重い空気の生徒達を見たラグドールがゲラゲラと笑う
「アハハハハ!全員全身ブッチブチ!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!!」
「確かに…災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環…さすが雄英!無駄がない!!世界一旨いカレーを作ろう!みんな!!」
元気にそう言った飯田くんにA組のみんなが「おぉー…」と弱々しい声を出す
カレールー組とご飯組に分かれ始まったカレー作り
野菜を切っている私の隣では包丁捌きが凄まじい爆豪くん
「…爆豪くん意外と家庭的なんだね」
「意外って何だァ!」
「包丁めちゃくちゃ上手だし、野菜も均等に切れてる」
「包丁に上手いも下手もねェだろ!!!」
私も料理は好きだからする方だけど爆豪くんは本当に何でもできるんだなあと感心する
性格さえよければモテるだろうに、勿体ない
と、ご飯組の焦凍くんが個性を使って火をつけているのが見えた
体育祭以降は左側を使うようになった焦凍くん、その表情は穏やかで安心する
「いいね、こういうの」
「あ?」
「なんかいいなって、そう思わない?」
こちらを見た爆豪くんがチッと舌打ちして切り終わった食材を鍋に入れていく
傍に他の人がいないのをいいことに仏頂面の彼に問いかけた
「ね、唄ちゃんのことどう思ってるの?」
ピクッとわかりやすく動きを止めた爆豪くんにやっぱりかと口角が上がる
前から唄ちゃんのことをやけに気にしてるとは思ってたけど、そうか、そういうことか
「ンだテメェ…ちょっと前まで白けた面してやがったくせに」
「気づいてたんだ」
「あんなん分かんねー方がどうかしてんだろ」
よく見てるなーと思いにっこりと微笑む
「可愛いよね、唄ちゃん」
「…」
「どこが好きなの?教えてよ」
今自分ができるいい笑顔でそう言えば、爆豪くんがブチ切れた
「上等だァ!泡女テメェもぜってェぶっ飛ばしてやる!!!!」
その叫びに何だ何だとA組のメンバーがこちらを見るけれど傍から見ればキレてる爆豪くんと困ってる私にしか映っていないだろう
わざとからかったんだけれど案外面白かったので今後もいじっていこうと思う
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