ヒロアカaqua


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その日の晩

A組女子の部屋にやってきたのはB組女子の拳藤さんと小大さん、塩崎さん、そして柳さん
峰田くんの覗きを未然に防いだことを感謝してお菓子を持って来てくれたらしい
そして流れで女子会をすることになったのだけれど、案の定話は恋バナに

「それじゃ付き合ってる人がいる人!」

透ちゃんが話題を振ったが誰も手を上げない
つまりそういうことなんだろう

「えっ、誰もいないの!?」

これにはみんなざわついた
それもそうだろう、ヒーロー科のない普通の高校に進んだ友人達からはみんな彼氏が出来たとかそういう話を聞いている
世間の女子高生達は恋を楽しんで青春を謳歌しているらしい

「中学のときは受験勉強でそれどころじゃなかったけど、雄英入ったら入ったでそれどころじゃないもんなー」

苦笑いした拳藤さんにみんなが頷いた
ヒーロー科は月曜から土曜までびっしりと授業が入っている
演習に加えて普通科目の宿題も出る、時間が足りないのが当たり前だ

「うわー、でも恋バナしたい!キュンキュンしたいよー!ね、片思いでもいいから誰か好きな人いないのー!?」

「それなら雫ちゃんでしょ」

「ちょ?!」

さらっと暴露した唄ちゃんにぎょっとするけれど初耳のB組女子はみんな興味津々で私を見る

「え、何々好きな人いるの?」

「えーっと、それはその…」

しどろもどろになる私を見た百ちゃんが目をキラキラとさせている
いやほんとどうしていつもこうなるんだろうか

「轟さんと雫はお似合いだと思いますの!」

「あ」

言ってしまった
知っている人ということもあり、B組女子のテンションが上がる

「へえ、轟なんだ」

「確かに言われてみれば一緒にいること多いよね」

「ん」

「まさに美男美女、美しい…これが愛」

どうして言っちゃうの!と百ちゃんを見るけれど微笑ましく見守られているので返り討ちに遭ってしまった
何なら唄ちゃんも響香ちゃんと一緒ににこにこしているし、確信犯かもしれない

「ね、轟のこと好きになったきっかけは?」

全員の目がこちらに向けられ観念した私は、流石に許嫁のことは黙っておくけれど、他の部分を話すことにした

「中学1年生の頃から仲はいい方だったんだけど」

「ほうほう」

「本当に恋愛対象として見てなくて、中3の冬手前かな…焦凍くんが告白されてるのを見ちゃって」

「イケメンだもんね」

思い出したのはあの日感じた嫉妬心

「私の方が焦凍くんのこと知ってるのに、全部知ったような顔で話してるのがちょっと悔しくて
それで…拗ねてたら焦凍くんに見つかって…「そんな顔するなら彼女は作らない」って言われたのがきっかけ、です」

思い出して顔に熱が集まっていく
あの時まではずっと友達として好きだと思っていたのにそうじゃないと気がつかされたあの瞬間

読んでいた少女漫画のような展開に驚いたことを覚えている

「えーっ!何それ告白じゃん!!!」

嬉しそうな透ちゃんの言葉にみんなも頬を染めている

「絶対轟って海色のこと好きだよねー!」

「それは前から思ってた!雫ちゃんを見る目が明らかに違うんだもん!」

「そ、そんな事ないって!」

あわあわする私の脳裏を過ぎるのは初めて会った時の彼の姿
エンデヴァーの言いなりにならないと告げた焦凍くんが私を選ぶことは無い

けれど確かに自惚れてしまうことはある
先日の期末試験の後も1番仲がいい男は俺がいいだなんて言われてしまって、友達としてという意味だとは分かっているけれどやっぱり期待してしまう

「(もし…焦凍くんと付き合えたら)」

きっと今の関係は変わらない
それでも彼の1番でいられるのならとても幸せだろう

そんなことを考える内に会話は告白するかされるかという話題に変わっていたのでホッとする

「やっぱり告白されたいよね」

「わかる、壁ドンとか憧れちゃう」

「現実に壁ドンしそうな男子居ないけどね」

あくまでフィクション
残念がる一同だけれど、唄ちゃんと目があった
にっこりと微笑めば彼女が頬をひくつかせる

反撃開始だ

「爆豪くんは壁ドンしそうだけどなあ」

爆豪くんの名前に今度は視線が唄ちゃんに集まる
そりゃそうだろう、誰が見ても爆豪くんは唄ちゃんのことが好きだ
本人は認めてないのかもしれないけれどあからさますぎて分かりやすいし、いちいち唄ちゃんに絡んでいる

「え、何でこっちを見て…」

「ぶっちゃけ爆豪とどうなの?」

「勝己?ただの幼馴染だよ」

「にしてはデクくんとの距離感より近いよね?」

どんどんみんなが唄ちゃんに詰め寄るのでおろおろしている
助けを求める目を向けてくるけどにっこりと微笑んでおいた

「あの、勝己に限って私のこと好きとかは無いはずだし、何も面白い話ないよ?」

「でも最初コスチュームのデザイン見て突っかかってたよね」

「職場体験でニュースになった時も突っかかってたね」

「この前はドレス姿を見て突っかかってましたわ」

なるほどなるほどと頷く女子一同

「「「「好きじゃん!!」」」」

一斉に叫んだその声に唄ちゃんは目を丸くしている

「暴言吐かれてるだけだし」

「小学生男子特有の好きな子ほど虐めたくなるあれでしょ?」

「体育祭見た?顔面爆破されたけど」

「けどその後ちゃんと立たせてたよね」

何を言っても恋愛に結び付けられると察した唄ちゃんが遠い目をした
ちょっと可哀想だけど、いつも私がいる立場を是非味わって欲しい!
もう暫く様子を見守ることに決めた私は彼女の背でパタパタと揺れる羽を微笑ましく見つめていた






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