ヒロアカaqua


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2人して物影から飛び出す
そんな私達にギルティルージュは不思議そうな表情だ

「かくれんぼしないの?てっきりゲートまで逃げ切るんだと思ってたけれど…」

そう告げた彼女目掛けて殴りかかった唄ちゃん
簡単に受け流されすぐに防戦一方になっているけれどこれでいい
ギルティルージュにはあくまで音波の個性を使うと悟られてはいけない

唄ちゃんとギルティルージュを囲むようにシャボン玉を作り、一斉に爆破させた
唄ちゃんは爆発に巻き込まれないよう羽を硬化させて体を覆いやり過ごす
けれど爆撃を躱していたギルティルージュは硬化させたままの唄ちゃんの羽を鷲掴みにして投げ飛ばす
羽につられて地面を転がされた唄ちゃん目掛けギルティルージュの足が振り下ろされた

「あ゛、ぐ…っ!!」

「あら、強すぎた?」

心配したような声色のギルティルージュは一切妥協のない蹴りで唄ちゃんを吹き飛ばす
ゴロゴロと転がった先にある建物に直撃した唄ちゃん
しばらく動けなさそうな彼女を守るためにギルティルージュを閉じ込めるように氷の檻を形成する

「へえー、こういうのも作れるのね」

トンっと軽く触れただけなのに檻は破壊され、出て来たギルティルージュはこちらへと目を向けた
いつどこから攻撃が来てもいいよう構える

「いいわね、とても器用で個性の使い方も上手、頭の回転も早いし色々考えるタイプかしら
唄とは真逆、あの子は肌て感じ取ってみるみる吸収していく、それ故に単純な攻撃が多い」

冷静に分析していくギルティルージュを羽交い締めにする
そして自分の体と彼女の体が離れないよう水の拘束具を作り出してそれを凍らせた
油断していたとはいえ背後をとられたことに少々驚いているようだけれどギルティルージュは落ち着いてる

「その戦い方は身を滅ぼすわよ」

きっと彼女は私が自分を犠牲にしたと思っているんだろう
けれど残念、私はそんな戦い方はしない
自己犠牲なんて一番間違った戦い方であることを知っているから

「さあ、どうでしょうか」

口角を上げた私目掛け眷属のコウモリが大量に降り注ぐ
弾丸のような速さのそれに当たれば良くて気絶、悪ければ致命傷にもなりうるだろう
ギルティルージュにも当たっているけれど自分の個性なので無傷だ

「(良かった、練習していて)」

まだ全身を水にすることはできないけれど、部分的に液体化できるようにはなった
だからコウモリの軌道を読んで当たる箇所全てを液体化し攻撃を避ける
攻撃が止んだ瞬間、液体化を解いて今度は自分とギルティルージュの足元を凍らせていく

「なっ…!?」

違和感に気が付きこちらを振り返った彼女が振り返る

「…あなたは空気中の水分を操るって聞いていたけれど」

「そうですよ、だからこれはまだ練習中なんです」

そう告げた私の手に触れたギルティルージュ
次に彼女が何をするかを悟り触れた箇所の氷の幕で覆った

「"さあ、従いなさい!"」

彼女の個性はサキュバス
唄ちゃんと同じく羽が生えており飛ぶことは勿論、自分の体力で創り出した眷属のコウモリを使役可能
そして一番はこの"魅了"、触れた相手への絶対服従の能力

氷の幕のおかげで効いてはいないが彼女の隙を生むため、そして気を逸らすためにわざとかかったフリをした

「"氷を解除しなさい"」

その言葉にフッと笑いが漏れる
作戦通りに動いてくれるギルティルージュには悪いけれどここまで来たらもう勝ったも同然だ

ハッとした彼女が唄ちゃんを探す
私が近接に持ち込むことで唄ちゃんへの意識を逸らす、そして隙を生みだす
極め付けにこの場に彼女を留めていると言う状況
これ以上にない好条件
私に出来ることは全てやった

「今だよ!唄ちゃん!!!」

あとは任せたよ

そう思いを乗せ叫んだ私たちの頭上には羽を広げこちらを見下ろす唄ちゃんの姿
その手には振動増幅装置の腕輪が握られている
唄ちゃんが何をするか理解したギルティルージュはすぐに腕輪を弾き飛ばした

これで音波の個性は封じた

「(そう思ったでしょう?)」

すうっと息を吸い込んだ唄ちゃんにギルティルージュが目を丸くする
その背後で私も空を舞う彼女を見つめた

「(大丈夫、出来るよ)」

私の顔を見た唄ちゃんがドッと撃ち出した衝撃波
私たちへ直撃したそれはギルティルージュのみを吹き飛ばす

内部ダメージを極力抑え、物理ダメージに特化したそれは唄ちゃんが音波の個性の使い分けを克服したということを意味している

「くっ…頭が…」

脳内をぐわんぐわんと反芻する音と吹き飛ばされた衝撃波によるダメージがギルティルージュを襲う
立ち上がろうと地面に手をついた彼女の腕にカフスをかけた

「捕まえましたよ」

にっこり微笑んだ私に、ギルティルージュは降参だと言うように両手を挙げた


『舞羽・海色チーム条件達成!』


スピーカーからリカバリーガールの声が聞こえる
先ほどから他のみんなの達成もアナウンスされていたので他のチームにもこのアナウンスは届いているんだろう
反動で動けない唄ちゃんへ近づき、手を引いて立ち上がらせる
まるで入試の時と同じ光景
いつだって唄ちゃんは期待以上の成果を見せてくれる

「ね、出来たでしょ」

「ご期待に添えた?」

「うん!」

ハイタッチした私達を見ていたギルティルージュは柔らかい笑みを浮かべていた










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