ヒロアカaqua


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辺りには無数のコウモリたち
襲いかかってくるそれに即座に位置を確認しコウモリ達全てをシャボン玉で覆って爆破していく
その爆風を避けるため、唄ちゃんが私を抱え飛んで、離れたところに着地した

「あんな一瞬だったのによく反応できたね」

「唄ちゃんこそ咄嗟に距離を取ってくれてありがとう」

互いにどう行動するのかを見て次に相手が何を求めているのかを読んで立ち回る
入学試験の時から唄ちゃんと私はいつも一緒だった
だからこそできるコンビネーション技

「あなた達本当に仲がいいのね」

いつの間にか宙を舞っていたギルティルージュがこちらを品定めするように見下ろしていた

「でもその仲の良さは本物かしら?」

「何を…?」

どういう意味か理解できないでいると、再びコウモリが襲いかかってくる

「唄ちゃん下がって!」

今度はコウモリと私達の間に水の膜を作り、突撃して来たコウモリを一掃していく
このコウモリはギルティルージュの眷属、彼女の意思のままに動く衛兵
実態があるわけではなく、あくまでギルティルージュの個性で創り出したもののため無限に湧き出るらしい

「すごい反応速度ね、それにとっても個性の使い方が上手」

パチパチと拍手をしながらギルティルージュはふわりと着地した

「なら…やられる前にやるしかないでしょ!」

そう言って飛び出した唄ちゃん
即座に飛んで間合いを詰めギルティルージュの背後を取る
その動きは前より速さを増しており、格段に強くなっていた

唄ちゃんの足を掴んだギルティルージュ、しかし唄ちゃんは受け身をとってすぐに立て直した
彼女の元にいただけあって動き全てに反応できているのは傍から見ていてもすごい

「うんうん、体術はしっかり身についてるわね」

にこにこと笑顔で褒めるギルティルージュに2人して冷や汗を流す
本気の私達に対してギルティルージュはお遊び感覚、ナメられていると悟った

「さ、次はどうするの?」

そう告げる姿はまるで小さな子供に語りかける大人のよう

「(なら…遠慮なんていらないよね)」

この辺り一帯の水分を対象とし凍らせる
唄ちゃんは攻撃を読んで跳び上がり、氷結はギルティルージュに炸裂した

何か合図があったわけじゃない、それでも私の行動を予測した唄ちゃんに流石だと口角が上がる
動けなくなったギルティルージュを見て唄ちゃんが目を逸らす

その時、ピシッと氷に亀裂が入ったので目を見開いた

「唄ちゃん!危ない!!」

氷結を割ったギルティルージュの手が唄ちゃんへ伸ばされる
掴まれた腕、しかし彼女は逆にギルティールージュの懐へ飛び込んで隙を作り出した
その隙を見逃さず地面に羽を撃ち込んで土煙を上げ目眩しをした唄ちゃんと2人で近くの物影に隠れる

「唄ちゃん大丈夫?」

「うん、多分あの時腕を引いてたらやばかったと思う
ギルティルージュの攻撃はわかるけど、それは向こうも同じなんだよね…あの5日間で動きも読まれちゃってるだろうし」

何気なくそう告げた唄ちゃん
そうだ、2人は5日一緒にいたんだ
そしてずっと互いの動きを見ていた

考え込む私を不思議に思ったのか、唄ちゃんが首を傾げた

「唄ちゃん、職場体験中ってずっと近接戦闘だけしてたんだよね?」

「え…あ、うん」

「個性は使ってない?」

「音波は勿論、羽の方も使ってないよ」

あくまで2人が行っていたのは基礎的な体術のみ
そこに個性というアドバンテージは含まれていない

「(体術は癖が出やすい、無意識の内に同じ動きをしていることもある
だからこそ唄ちゃんは先ほどのギルティルージュにつかまれた腕を引かなかった…そうしたらマズいとわかっていたから)」

そしてそれは向こうも同じ
ギルティルージュに唄ちゃんの動きが筒抜けだということだ
なら打開策は1つしかない

「私にいい案があるの」

そう告げた私を見た唄ちゃんは呆気に取られた表情をしている

「私達、お互いの戦い方を見慣れすぎてるせいで見落としてた
唄ちゃんは近距離向き、私は遠距離向きってそう決めつけた戦い方をしてるんだよ」

「た、確かに…最近個性を使わず体術を習ってたから余計にそうなってたかも」

唄ちゃんは飛べることの機動力を活かした近接戦闘
私も大波や氷結で距離をとって戦う遠距離型
そういった印象が相澤先生にはあるんだろう、だからその情報をギルティルージュに伝えているはずだ

「勿論自分の得意分野に持ち込むのはヒーローの戦術として大いにアリだと思う
けれど私達の攻撃は相手に筒抜けである以上オーソドックスは通用しない」

「つまり、私が遠距離、雫ちゃんが近距離で挑むってこと?」

頷いた私に唄ちゃんは顔色が悪くなる
彼女の遠距離、それはつまり音波の個性を使うということだからだろう、羽の攻撃は全てコウモリに相殺されてしまう
私が見る限り唄ちゃんは音波の個性を怖がっている節がある
前に教えてもらった話だとその個性は音の衝撃波を与える物理ダメージ以外にも脳に直接作用し内部破壊するものがあるらしい
多分それが入試の時に見た仮想ヴィランを活動停止まで追い込んだあの一撃

「(でもそれは同時に人を殺すことのできる力)」

USJの時に13号も言っていたように、私たちの個性は簡単に人を殺せてしまう
だから使い方を学ぶ必要があるし、それをコントロールできるよう訓練する必要もある
幼い頃から訓練されてきたのは私のこの個性が危険だからだろう

空気中の水分、それを全て無くしてしまえることもできるこの個性は大げさに言ってしまえば人類滅亡につながりかねない
今となってはあの頃の訓練のおかげで個性を上手く使いこなせるようになったので両親には本当に感謝している

顔色の悪い唄ちゃんの両手を包むように触れた

「唄ちゃんが音波の個性の特訓をしてきたの知ってるよ、人に撃つのが怖いっていうのもわかってる
体育祭でも使わないようにしてたもんね…でも、だからこそ使わないといけないんだよ」

本当は無理強いなんてしたくない
これは唄ちゃんの問題だし、私が介入すべきことではない

「(それでも私は…)」

脳裏を過るのは体育祭で左側を使った焦凍くん
保須で苦悩しながらもヒーローとして立ち上がった飯田くん
上手く使いこなせない個性に振り回されながらも誰かに何かを与えている緑谷くん

ずっと他人に深く踏み込まないようにしてきた
そうすることで私も踏み込まれないよう線を引いてたんだ

でもそれじゃあダメだと気づいた
そんな私は本物じゃない、本心を曝け出すことを教えたのは皮肉にもヒーロー殺し
私は私の大切な人を守れるヒーローになりたい、その大切な人には唄ちゃんも含まれている

彼女みたいになりたい
自由に、素直に、自分に正直でいたい

「(ヒーローの本質はお節介だから)」

足を止めてしまった友達を奮い立たせるのもヒーローの務めだ

「大丈夫、ちゃんと落ち着いて集中すれば絶対できる」

「そんなのわかんないよ…何でそんなこと言い切れるの?
だって今まで一度も…そうだ、腕輪を使ってでも何とかなるかもだし…!」

動揺する唄ちゃんの頬に触れた
そして体育祭の時に彼女がしてくれたことと同じことをする
おでこをくっつけて目を閉じた私に唄ちゃんが目を丸くした

「唄ちゃんは絶対出来るよ、私は本気でそう信じてる」

たとえ失敗しても何回でも立ち上がればいい
唄ちゃんが挫けたなら何度だって立ち上がらせる
唄ちゃんが無理だって嘆くなら鼓舞する
唄ちゃんが怖がっているならその背中を押す

私は…そんなヒーローになる
ゆっくりとおでこを離して目を開けば唄ちゃんの大きな金色の瞳と視線がぶつかる

「前にこうやってくれて本当に勇気をもらったの
私が迷った時、強くありたい時いつだって唄ちゃんが思い浮かぶんだ」

明るくて元気で自由で素直で真っ直ぐで
誰に対しても分け隔てなく接する
そんな唄ちゃんのような…太陽のような存在になりたい

「唄ちゃんは私のヒーローだもん」

前に私のことをヒーローと言ってくれたけれど、それは私も思っている
互いに憧れているなんて不思議な関係な私たち
だからこそ唄ちゃん以上に私は彼女を信じている

「私がギルティルージュを拘束する、唄ちゃんが集中できる時間を稼ぐ
だから私ごと音波の個性で撃ち抜いて」

「なっ!?」

「大丈夫だよ、唄ちゃんならギルティルージュだけを狙うなんて簡単でしょ?」

悪戯気にそう言えば、唄ちゃんが驚いた表情をする
私はいい子じゃないからこういう顔もするんだよ、びっくりした?

「仮に当たっても私は耐えれるよ、だから信じて」

自分の今までの努力に自信がある
どんな攻撃が来ても防いでみせるという自負もある

「…言ってくれるね、あとで痛いって言っても知らないよ
オーケー、それで行こう」

「うん、大丈夫私達ならできるよ」

コツンと拳をぶつけ合った私達は互いのことを信じて物影から飛び出した










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