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飯田くんとの試合を終え客席に戻ると、A組のみんなが出迎えてくれた
「お疲れ雫ちゃん!」
「あの波凄かったよ!」
みんなにありがとうと告げて百ちゃんの横に座るものの、何やら表情が暗い
「百ちゃんどうしたの?」
「雫…いえ、何もありませんわ、流石ですね」
やっぱり落ち込んでる百ちゃん
きっとさっき常闇くんに一瞬でやられたことを気にしてるんだろう
「(人一倍頑張り屋さんだもんね)」
寄り添いその手を握ると、百ちゃんは驚いたような顔をしてから「ありがとう」と小さく呟いた
こんなことしかできないけど、百ちゃんは大事な友達
私に何かできるだろうか
「(元気になるといいんだけれど…)」
グラウンドに目を向けるとそこには唄ちゃんと常闇くんの姿
常闇くん、1体1では最強とまで言われているらしい
そんな相手に唄ちゃんはどう出るのか
『常闇 対 舞羽!START!!!』
常闇くんのダークシャドウがすぐさま唄ちゃんに攻撃を仕掛ける
しかし唄ちゃんはただ避けるだけ
「うわぁ、唄ちゃんなんか策あるんやろか」
「圧倒的に手数は常闇の方が上だもんね」
心配そうに呟いたお茶子ちゃんと響香ちゃん
確かにダークシャドウに突っ込むのは危険すぎる
けれどこのまま防戦一方も苦しいだけ
『ここは防戦一方の舞羽!さすがに常闇を前に手も足も出ないかぁ!?』
唄ちゃんは何かを待つように攻撃を交わし続ける
その様子を見ていた時あることに気がついた
「唄ちゃん…ここまで羽を使ってない?」
「えっ」
「あ」
「ほんとだ!」
ここまで必ずと言っていいほど羽を使っていた唄ちゃんがこの試合は何故か羽を使わないでいる
その事に気が付き、クラスのみんなもどよめく
圧倒的速度を誇れて機動力の要の羽を使わない
つまりそれは何か策があるということ
予想通り、唄ちゃんはここだと言わんばかりに羽を出した
その羽はいつもの羽と違い、ヴィラン相手に羽を撃つ時の硬化したもの
まるで鉄のように固くなったそれに太陽の光が反射し、眩しい
と、その時、常闇くんのダークシャドウが弱体化した
「まさか、ダークシャドウは光に弱いの?」
意外な弱点に驚く
他のみんなも知らなかったと言っているし、多分唄ちゃんも知らなかったはずだ
それを何かのタイミングで気がついてわざと誘導した
「なるほど、つまり舞羽は太陽光が上手く反射するタイミングを狙って羽を出したってわけか」
「でもなんでだよ?初めから出してたらよくね?」
尾白くんと峰田くんの言葉に首を横にふった
「多分初めから羽を出していたら常闇くんがその思惑に気がついて何か策を練ってくると踏んだんだと思う、だからギリギリまで避け続け機会を伺っていた」
さすがとしか言いようがない
みんなは爆豪くんをセンスの塊と言うけれど、その爆豪くんを間近で見てきた唄ちゃんもまたセンスの塊だ
弱体化したダークシャドウを見て口角を上げて常闇くんの懐に飛び込む唄ちゃん
常闇くんは反応が遅れる
すかさず蹴りを一発入れて常闇くんをフィールドに転がす
そこに硬化させた羽を撃ち、服を地面に縫うように止めた
そして常闇くんを跨ぐように立ち、羽を首元に当てる唄ちゃん
一瞬のことだったけど動きに一切の無駄がない
「常闇くん降参!よって舞羽さんの勝利!
舞羽さん、3回戦進出!」
ワアアアと湧く会場
「唄ちゃん凄い…」
隣にいたお茶子ちゃんが頷く
「唄ちゃんって闘うとき爆豪くんみたいやね」
確かに戦いを楽しんでるその表情、動き方はまさに爆豪くんだ
唄ちゃんは幼馴染2人に知らぬ間に似てきている
そしてそれは2人もまた同じ、それぞれがそれぞれに似てきているんだけれど気がついていなさそうな幼馴染トリオに苦笑いした
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