ヒロアカaqua


▼ 29



先程吹っ切れたような焦凍くんに謝られてから、涙が止まらない
何故かは分からないけど、多分嬉しいんだと思う
焦凍くんが一歩ずつ前に進み始めたことが

それにしても

「(涙が止まらない…!!!)」

控え室でずびずび泣いているけど、次の試合私なんだけどなぁ…

2人の激闘の末、ステージを修復する為小休憩を挟んでいるけれど、すぐに私の試合はやってくる
とりあえず落ち着かなきゃと思い、深呼吸していると扉が開いた
そこにいたのは唄ちゃん

「どうしたの!?」

「うえぇ…唄ちゃん…」

ハンカチを渡されて涙を拭く
外面どこに行ったというようなこの状況

「何かあったの?」

「あのね、焦凍くんが」

先ほどのことをざっくりと唄ちゃんに説明するとポカンとしてる

「…え?」

「お恥ずかしながら焦凍くんの家庭の問題に首を突っ込んでこなかったから、まさか感謝されるなんて思ってなくて…というか、なんで感謝されたのかも分からなくて…でも、とても嬉しくて…わけが分からないけど泣いてる!」

めちゃくちゃなことを言ってる自覚はあるけれどどう話していいか分からない
そんな私の支離滅裂の説明を聞いて唄ちゃんはいつもの微笑みを見せてくれた

「良かったね、雫ちゃん」

「っ、うん」

不思議だ、唄ちゃんといると落ち着いていく
音波の個性も持っているしセラピストとか向いてそうだ

「でも雫ちゃん、その目冷やさないと次の試合大変だよ」

「そうだった…!」

ハッとしてから慌てて氷を作り出して、袋に詰める
そして目に当て冷やす
パンパンの目で全国放送されるなんて考えただけで恐ろしい

「ねえ、雫ちゃん」

「なに?」

「大丈夫?」

唄ちゃんはやっぱり誤魔化せないかと思い少し苦笑いしてから彼女と向き合う

「焦凍くんのことで動揺していたのが半分、もう半分はちょっと緊張しちゃって」

緊張のせいで震えてる手を押さえる
ずっと完璧でいなきゃと、そう思ってやってきた
でも焦凍くんの一件で気が緩んでしまい忘れていた緊張が今更押し寄せてくる
唄ちゃんはしばらく私の手を見つめたあとでポンと手を叩いた

「よし、私の取っておきのおまじないを教えてあげる!」

「おまじない?」

唄ちゃんは私の隣に座って、手を握る
おでこをくっつけて目を閉じるその姿に驚いてしまった

「雫ちゃんは絶対勝てる」

「え、唄ちゃん…?」

「雫ちゃんも目を閉じて、ほら復唱して」

「う、うん…私は絶対勝てる」

戸惑いながらも繰り返すと唄ちゃんは続けた

「雫ちゃんは強い」

「私は強い」

「雫ちゃんは負けない」

「私は負けない」

そこまで告げてからゆっくりとおでこを離し、その綺麗な金色の瞳を見つめた

「あなたと出会ってから私はたくさんのことを学んだよ、それにたくさん助けられた
雫ちゃん、あなたは私のヒーローだよ!」

まさか唄ちゃんにそんなことを言われると思ってなかったので驚いた
私は唄ちゃんみたいに自由に素直になりたいと、そう思っていたのに彼女は私をヒーローと呼んでくれる
お互い似たことを考えてるのでつい笑ってしまう

「ありがとう、唄ちゃん」

と、同時に控え室へ係の人が呼びに来る
部屋を出ようとする私

「雫ちゃん」

トンっと唄ちゃんに背中を押されて部屋から出る
びっくりして振り返ると、彼女はキラキラした笑顔で告げた

「Plus ultra!」

「っ、うん!」





唄ちゃんに見送られてステージに上がる
先程の試合の後だからかかなり湿気が多い気がした

「(これは有利な環境だ)」

向かい側には飯田くんの姿

「海色くん、悪いが本気で行かせてもらう」

飯田くんのその速力を何とかしないと場外へ連れ出されて即アウトだろう

『ステージも直ったところで、続いてはこの組み合わせ!
飯田 対 海色!!!START!!!』

その合図と共にエンジンで即座に距離を詰めてくる飯田くん
私に蹴りが一発入る

「ぐっ」

『おおーっと!飯田の個性で威力増幅された蹴りが炸裂!』

確かに重い
けれどまだいける

飯田くんの顔を囲むように水泡を作ろうにも、その早さで避けられてしまう
まずはあの速さを何とかしないとと思った私の目の前に迫った飯田くん

「(まずい)」

再び蹴りが炸裂するものの、今度は蹴られる時にその足のエンジンに触れた
そしてエンジンから出ているその蒸気をジワジワと凍らせていく
飯田くんはそれに気がついていないみたい

「レシプロ…バースト!」

凄まじい勢いで攻撃を仕掛けてきた飯田くん
あまりの速度でかわせずにいると、腕を掴まれた
そのまま投げ飛ばされ、地面に転がると、飯田くんは「終わりだ」と告げる

「(このまま場外に連れ出す作戦だろうけど)残念」

すぐさま場外に出れないようにフィールドを囲うに氷の壁を作ると飯田くんがたじろいだ

「こんなものレシプロで…っ!!」

プスプスと音を立てているそれの違和感に気がついたみたいだけどもう遅い
掴まれている腕を軸に身体をしならせ飯田くんの顔面へ蹴りを入れて、離れる

こうなればこっちのものだ

「いくよ」

地面に手をつけば氷の壁が崩れ落ち、代わりに手をついた場所から水が勢いよく溢れ出る
それは大波となり飯田くんに襲いかかる

「っ!」

抵抗を試みる飯田くんだけれど、水の力は強力だった
勢いよく彼を場外へ押し出す

「飯田くん場外、海色さん3回戦進出!」

ミッドナイトの声を聞いてふぅと息をついた
これで何とか3回戦に上がれたようだ
飯田くんはずぶ濡れのままこちらに歩み寄ってきた

「完敗だ」

「でも飯田くんの速さ凄かったよ」

さすがインゲニウムの弟だね!と続けると嬉しそうに彼は頷いた
トーナメント表を見ると次は唄ちゃんの試合、そしてその次に爆豪くんの試合があって、そしたら3回戦目は…

轟 海色と並ぶ文字を見て背中がヒヤッとした
焦凍くんのことだから全力で来ると思う
私の個性と焦凍くんの個性は相性が悪い

炎は水が勝てるし、水は凍らせることが出来る
けれど私はその水の温度を操れるので氷を溶かすことも可能

正直あとは体力勝負だと思う

「(頑張らなきゃ…!)」










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