ヒロアカaqua


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そして客席に帰ってきた唄ちゃんに飛びつく峰田くんを梅雨ちゃんが地面に叩きつけた
突然のことにびっくりして固まっている唄ちゃんの足元で峰田くんが興奮しながら見上げている

「たまんねぇ…たまんねぇよ舞羽!戦闘中あんな狂人モードなのも常闇を跨いだのもあの時の目も最っ高だぜ!」

「え」

「オイラも跨いでくれよぉ、ローアングル堪能させてくれよぉ」

「ひいっ」

唄ちゃんは梅雨ちゃんの後ろに隠れると響香ちゃんが峰田くんの耳にイヤホンを刺し爆音を流し撃退した

「あ、ありがとう響香ちゃん」

涙目になりながら響香ちゃんに抱きつく唄ちゃんからは先ほどの狂人ぶりは感じられない

「「「「(これがギャップ萌え)」」」」

色々ハイスペックすぎる唄ちゃんにざわついていると、響香ちゃんが「お、そろそろ爆豪の試合始まるよ」と告げた
フィールドへ視線を移すと、爆豪くんと切島くんが向かい合うのが見えた

『切島 対 爆豪!START!!』

すぐさま爆破を仕掛ける爆豪くん
ただ、切島くんはその硬化で凌ぎ、すかさずカウンターを仕掛ける

「おおー、爆豪くんが傷つけられてるの初めて見た」

「切島くんすごい」

すぐさま距離をとる爆豪くん
しかし切島くんはすかさず追い打ちをかける
まさに防戦一方と思っていたが、突如切島くんに爆豪くんの爆破がきいた

『ああーー!!!効いた!!?』

なるほど、爆豪くんは切島くんの硬化の綻びを見つけたらしい
そしてカウンターを仕掛けた爆豪くんが切島くんを盛大に爆破させた

『爆豪えげつない!絨毯爆撃で3回戦進出!これでベスト4が出揃った!!!』

焦凍くん、私、唄ちゃん、爆豪くん

この4人で争うことになるらしい

「やっぱりA組のトップ4人の対戦かー」

「唄ちゃんも雫ちゃんも頑張ってね!」

クラスのみんなが応援してくれているんだから頑張らなきゃ!
そう意気込み、グラウンドへ進む
そこには既に準備万端の焦凍くんの姿

いつか戦ってみたいと思ってたけど、実現するなんて

『準決勝1試合!

この2人の個性は相性最悪だぜ!

轟焦凍 対 海色雫!』

ステージで焦凍くんと向き合う
吹っ切れたような表情だけれど多分まだ内心整理がついていないんだろう

『START!!!』

案の定すぐさま氷結を使ってきた焦凍くん
その氷結が届く前に水蒸気に変える

『海色、早速轟の氷結を封じた!』

「(雫相手に正面突破は厳しいか…なら)」

近接戦に持ち込むつもりなのか、走ってきた焦凍くん目掛けて波を起こす

しかし、その波は瞬時に凍らされてしまう
その氷を足場に滑ってくる焦凍くんが跳躍した

「っ」

そして、真下の私目掛けて近距離で氷結を使用する
焦る心を落ち着けながら焦凍くんと私の間に水の膜を張ることでなんとか凌ぐ

「(危な…)」

と思ったのもつかの間、焦凍くんの蹴りが入った

「ぅあっ」

『痺れる一撃入ったぁ!』

飛ばされた私は即座に背後にシャボン玉を出し、クッション代わりにし衝撃を吸収する

「悪ぃな、手加減しねぇぞ」

そう言った焦凍くんに口角が上がった

「ならこっちも」

すぐさま焦凍くんを囲むように氷の壁を作り閉じ込める
そのまま地面から氷の剣山を出し攻撃、焦凍くんが宙に舞う
無防備な彼にすかさず水のロープを作り出して足に巻き付け、地面に叩きつけた

「っ!!」

『両者互角!!!』

焦凍くんは立ち上がり私を見据える
私も焦凍くんの動き全てに集中する

先に動いたのは焦凍くんだ
氷結を出して私が温度変化により水蒸気にするタイミングを狙ってもうひとつ氷結を出した

「!」

間に合わない
そう思ったとき、足元が凍らされる
氷を無効化される前に何発も攻撃を仕掛けるって魂胆かと思い、再度氷結を撃とうとしている焦凍くんに手を向けた

「甘いよ」

空気中の水分を集めて小さな氷のボールを何個も作った
そしてそれを一斉に焦凍くんへ撃ち込んだことでフィールドは煙に包まれる

その隙に足元の氷を溶かし、距離をとって様子みる
煙が晴れると焦凍くんは氷で壁を作りそれを防いでいた

『おーっと!轟これを防ぐ!互いに譲らない戦いが繰り広げられている!!
フィールドは寒いが、熱い戦いだなオイ!』

会場が盛り上がる中、私は焦凍くんの表情に焦りを見た

「(もう体温が下がり始めたんだ)」

炎を使うのかどうかは分からないけど、本気で行く!
焦凍くんに向かって走る、距離を取られないように彼の背後に水の壁も用意した

「くそっ」

氷結を出してきてもすぐに打ち消す
彼が弱体化している今、私の方が上だ
焦凍くんの左腕を掴んでその頬に手を触れる

「ごめんね」

すぐに彼の頭を覆う水泡を作り出し、呼吸を奪う

「(あとは手足を縛るだけ)」

そう油断した私が悪かった
掴んでいた腕を逆に反対の手で掴まれ、そこから氷がじわじわと広がっていく
まずいと思ったものの、水泡の維持のため氷を上手く溶かせない

このまま凍らされたら負ける
そう思った時、水の中で焦凍くんが小さく笑った気がした

「…え?」




−−−−ーーー
−−−




雫の個性で水泡に顔面を包まれた
まずい呼吸ができねぇ

「(一か八か)」

俺の左手を掴んでいたその腕を右手で掴んだ

右手を掴まなかったのが悪かったな雫
炎を使われることを危惧しての行動が仇になったなと思いながらも、炎を使うんじゃないかと思ってくれていたことがむず痒い

そう思い小さく笑うと、水の向こうで雫が驚いた表情になる

「(悪ぃな)」

その瞬間、俺は持っていた力を全部使って大氷結を繰り出した
瀬呂の時よりやや小さいながらもゼロ距離で撃ったことでかなりのダメージが入ったらしい

雫は氷結の中ぐったりしており、直後俺の顔を包んでいた水泡が弾ける

「げほっ、ごほっ…」

個性が解けた、つまり雫が戦闘不能になったってことだ

「海色さん行動不能!轟くん、決勝進出!」

鳴り響く歓声の中、すぐさま雫の周りの氷を熱で溶かす

どうやら気を失ってるらしい
少しやり過ぎたかと思うものの、手加減してたらやられてたのは自分の方かもしれないと思った

氷を溶かして雫を横抱きに抱えると客席からまた違ったヤジが飛んでくる

『轟まさかの海色を横抱きぃい!!いいね青春!痺れるねぇ!』

『お前そこはそっとしといてやれよ』

が、そんなの関係ねえ

「(早く医務室に連れてってやらねぇと)」

慌てて担架を持ってくるのを横目に医務室へ急いだ




−−−−ーーー
−−−




「んっ…」

うっすらと目を開けると、そこにはリカバリーガールと焦凍くんがいた

「…えっ!?」

「起きたか」

ガバッと起き上がった私を見てホッとした様子の焦凍くん
あ、そうだ、確かあのあと大氷結をゼロ距離で撃たれて倒れたんだっけ

リカバリーガール曰く、動いてもいいそうなのでも医務室を出る

「悪ぃな、やり過ぎた」

「ううん、本気で戦ったくれたってことでしょ」

負けちゃったのは悔しいけど、何より焦凍くんと本気で戦えたのが嬉しい

「…お前なんで俺が左側使わなかったのかのか聞かねえのか?」

焦凍くんはそんなことを気にしていたのかと呆気に取られつつも、先程の緑谷くんとの戦闘で使用した炎を思い出す
力強くとても綺麗な炎

「だって理由があるんでしょ?」

「…ああ」

「それはいずれ解決する?」

「…多分」

そこまで聞いて私は頷く

「じゃあ聞かない!解決した時に話してくれるって思ってるから今は聞かないでおく」

何度も言うけれど私は全力の焦凍くんと戦えただけで満足なんだ
「だからその時が来たら教えてね」と小指を突き出す
それは約束するときの指切り
焦凍くんはフッと頬を緩めた

「子どもっぽいな、お前」

「ふふ、そう?焦凍くんの前だけだよ」

私にとって特別な人
君には素直な私でいられる

へらっと笑った私を見て焦凍くんが小さく微笑んだ
きっと焦凍くんはいつか話してくれる、私はただその時を待とう

「あ、唄ちゃんの試合見ないと!」

「ステージの氷を溶かさねえといけねえから、まだ始まってないと思う」










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