ヒロアカaqua


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「え?」

飯田くんの言葉に時が止まったような気がした

「左手、後遺症が残るそうだ
両手ボロボロにされたが…特に左のダメージが大きかったらしくてな、腕神経叢という箇所をやられたようだ
とは言っても手指の動かしづらさと多少のしびれくらいなものらしく、手術で神経移植すれば治る可能性もあるらしい
ヒーロー殺しを見つけた時何も考えられなくなった、マニュアルさんにまず伝えるべきだった
奴は憎いが…やつの言葉は事実だった、だから…俺が本当のヒーローになれるまでこの左手は残そうと思う」

飯田くんは本当のヒーローになるために進んでる
じゃあ私は?
多分焦凍くんと一般人だったら迷わず焦凍くんを選んでしまう

なら私はどうしたら

「海色くん」

飯田くんに声をかけられてハッとした

「…キミも本当のヒーローになりたいと思うか?」

「私は…」

たとえ何があっても家族を焦凍くんを…クラスのみんなを最優先にするのは変わらないんだと思う

「(けれど、私もヒーローにならないといけない…)」

なんて答えるべきかわからなくて口を噤んでいると焦凍くんが割って入ってきた

「難しいことは考えなくていい、雫が守りてぇ奴らことを救うならその分俺が他の人を守る」

「…何それ」

「そういう事じゃねェのか?」

その言葉に苦笑いしてしまう
きっと本当のヒーローになれるかどうかはその時にならないとわからない
飯田くんは「すまない、余計なことを聞いたな」と微笑んだ

「飯田くん、海色さん…一緒に強く…なろうね」

緑谷くんと飯田くんを見ていた焦凍くんはなにかに気がついたのか冷や汗を流し始めた

「なんか…わりぃ…」

「なにが?」

「俺が関わると…手がダメになるみてぇな…感じに…なってる…呪いか?」

いたって真剣なんだろうけど真面目な顔してとんでもないことを言う焦凍くんに私たちは爆笑した

「あっはははは何を言っているんだ!」

「轟くんも冗談言ったりするんだね」

「いや冗談じゃねえ、ハンドクラッシャー的存在に…」

「「ハンドクラッシャー!」」

げらげら笑っていると通りかかった看護師さんに怒られた
だけれどこれで良かったと思う
みんなが前に向かって進み始めた
あとは振り返らずに走るだけだ

「海色さん、診察よ」

「あっ、はい」

よいしょとベッドを降りて看護師さんの元へ向かう
3人に見送られて診察室へ向かうと、なにやら深刻そうな顔をしたお医者さんが待っていた

「海色さん、君の個性は水を操るものだね?」

「あ、はい…水の他にも水蒸気と氷が使えます」

なにやら不穏な空気に心臓がバクバク言っている
お医者さんは再びカルテを見てから私に目を向けた

「その個性は空気中の水分限定で発動してるものだね?」

「はい、体内の水分は操れません…でも私の体内の水分量や体力に比例して個性の威力が変わります…あの、何か変なところありましたか?」

不安になり尋ねると、先生は不思議そうに私を見た

「君、どうやら体内の水分も使えるみたいだね」

「…え」

定期個性診断では体内の水分は使えないと言われたので思わず静止する
今までもそのつもりで訓練してきた

「いやね、個性って些細なことで変化するんだよ。例えば昨日まで風を操っていたのに、実は気流だったとかね
君の場合はその右肩そこにスイッチがあったんだろうけど、傷つくことでそれが作用したんだろうね」

「なるほど…」

自分の水分を使えるとはどういうことだろうか
ちょっとした興味本位で思わず先生の前で右手水に変えてみる

「おお」

「み、水?!」

嘘みたいだけれど右手が水となり、そこにふよふよと浮いている
まるで昔見た映画のヒーローみたいだ

「怪我から発現した個性だけど君は運がいい、個性が使えなくなるような怪我をする人もいるからね…その幸運を無駄にしてはいけないよ」

「はい」

3人のいる病室に戻り、すぐさま聞いたことを報告すると3人がまじまじと水状の右腕を見てきた

「これ感触あるのか?」

「ないよ、本当に身体とは別のものって感じ」

自分でつついてみるけどやはりただの水
あんまり長時間はできないので元に戻す

「つまり、今後戦闘において攻撃を食らっても水状態になれば攻撃を受けないってことか」

「それが、この状態で空気中の水を操るって併用はできないみたいで…それに水になれるのも今は腕くらいまでしか無理なんだよね…練習しなきゃ」

「でもこれすごい個性だよ!水系最強なんじゃ…!」

ちゃんと使いこなせれば緑谷くんの言う通り色んな場面で活躍できる強い個性だと思う
この個性を使いこなすために今まで以上に訓練をしなきゃいけない

「それで…あの、ずっと気になってたんだけど」

緑谷くんがそーっと挙手するので首を傾げる

「海色さんって結構喜怒哀楽がはっきりしてるんだね」

「あ」

忘れてた、2人には色々素の部分を見られてたんだった

「えーっと、なんと言うか…外面がいいといいますか…」

「そっちの方がいいよ、話しやすいし
あっ!勿論今までが話しにくかったわけじゃなくて…ほら!クールなイメージが強かったから!!」

そう告げた緑谷くんに少し気恥ずかしくなる

「ん…じゃあちょっとずつ…素を出して…みる、ね」

照れてどんどん声が小さくなる
そんな様子を見ていた緑谷くんと飯田くんは笑いかけてくれた
焦凍くんも穏やかな表情で見守っている

今までそうすることが当たり前だった素と外面の使い分け
この先もずっとそうだと思ってたけれど、そっか、素を出してもいいんだ

「(完璧じゃなくていいんだ)」

そう気がついて心が軽くなった気がした










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