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ベッドですやすやと眠る雫
その体には包帯が無数に巻かれている
「海色さんまだ起きないね」
「ああ」
あの後病院に運ばれた俺たち
中でも雫は肩と腹部の怪我が結構深くまで刺さってたらしく、多めの麻酔を使った手術が行われた
リカバリーガールのような個性でも治せない程の深いものだったため手術は長時間に及んだらしい
飯田もかなり深手だったらしいが、腕だったこともあり処置は難なく終わったそうだ
「すまない、僕のせいで海色くんが」
「いや、お前のせいじゃねえ」
手術も無事に終わったと聞いた、ただ麻酔が効きすぎてるだけだから気にすんなと告げ自分のベッドに腰掛ける
あの時、ヒーロー殺しが雫を殺すと言った時、正直かなり焦った
雫にとって大切な人を優先すると言っていたがそれがヒーロー殺しは気に入らなかったらしい
"私は私の大切な人達を絶対に守る!!!"
こいつの大切なもん…両親思いだから1番はそこだろう
あとは舞羽、クラス連中のことも気に入ってると思う
「(…俺も入ってんのか?)」
許嫁という関係、俺らは互いにその関係を解消したいはずだ
それなのに日に日に疑問が増してくる
本当に解消していいのか、と
そこまで考えた時、雫がバッと起き上がった
−−−−ーーー
−−−
「っ!」
バッと起き上がると同時に走る右肩と腹部への痛み
「っーーー?!」
「雫!」
聞こえた声に頭をあげればそこには焦凍くん、緑谷くん、飯田くんの3人がいた
「よかった…目が覚めたんだね」
「海色くん、すまない!嫁入り前の女子にこんな怪我を負わせてしまって」
「それなら大丈夫だ、雫は俺の許嫁だから」
「「ええええええ!!!?」」
目の前でいつもと変わらない会話を繰り広げる3人
その光景に思わず涙がこぼれた
「えっ、どうしたの海色さん!」
「どこか痛むのか?」
慌てる3人
慌てて涙を拭って顔を向けた
「生きてて…よかった」
みんなが死ななくて本当によかった
3人がホッとした表情を見せた時、病室の扉が開いた
入ってきたのはグラントリノ、マニュアル、そして保須警察署署長の面構犬嗣さん
「わんちゃん!」
わああっと顔を輝かせた私だったけど、ハッと口を押さえる
焦凍くんはともかくとして緑谷くんと飯田くんは私の今の発言にギョッとした様子だ
や、やばい、外面が…
「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね
ヒーロー殺しだが、火傷に骨折となかなかの重症で現在治療中だワン」
ただ黙って話を聞く私たち4人
わざわざ署長が出てくるようなことなのだろうか
「超常黎明期…警察は統率と規格を重要視し個性を武に用いない事とした
そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン
個人の実力行使、容易に人を殺められる力
本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは先人達がモラルやルールをしっかり遵守してきたからだワン
資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたこと、たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン
君たち4名、及びプロヒーローエンデヴァー、マニュアル、グラントリノ
この7名には厳正な処分が下されなければならない」
やっぱりと思い小さく息を吐くと、焦凍くんが前へ出た
「待ってくださいよ、飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた
緑谷が来なけりゃ2人は殺されてた、誰もヒーロー殺しの出現に気づいてなかったんですよ
規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」
「人をっ…助けるのがヒーローの仕事だろ!」
やけに感情的な焦凍くん
署長さんはこの中で唯一冷静に話を聞く私に目を向けて小さく頷いた
「だから君は卵だ全く、いい教育をしてるワンね。雄英もエンデヴァーも」
「この犬!」
「焦凍くん、待って」
焦凍くんを制して署長さんを見据えた
「続き、あるんですよね?」
「君は冷静に状況を見る能力が優れているワン
先程までのが警察としての意見、で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン
公表すれば世論は君らを褒め称えるだろうが処罰は免れない
一方で汚い話、公表しない場合ヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン
幸い目撃者は極めて限られている、この違反はここで握り潰せるんだワン
だが君たちの英断と功績も誰にも知られることはない
どっちがいい?1人の人間としては前途ある若者の偉大な過ちにケチをつけさせたくないんだワン!」
大人って本当にずるいなと思い微笑むと四人揃って頭を下げた
「よろしく、お願いします」
「大人のズルで君たちが受けていたであろう賞賛の声はなくなってしまうが…せめて共に平和を守る人間として…ありがとう!」
ぺこりと頭を下げた署長さん
そして彼は私に近づいてきた
「違っていたらすまないが…犬が好きなのかな?」
「っ、あ、すみません」
先ほどわんちゃん呼びしてしまったことにとんでもない羞恥心が襲いくる
「いやいいよ、よかったら触るかい?と言っても中年のおじさんの頭だけど…」
「やっぱり犬なんだね」
「犬だったな」
ひそひそと話す飯田くんと緑谷くん
私は恐る恐る署長の頭に手を伸ばす
ふさふさした動物が好きなので嬉しくなる
もう少しで触れると思った瞬間、焦凍くんの手が私の腕を掴んだ
「セクハラで捕まりますよ」
その目は一切笑ってなく、署長を冷たく見ている
「キミにはナイトがついてるから安心だワン」
ぽんぽんと逆に頭を撫でられ、署長は出ていった
「(ナイト?まさか焦凍くんのこと?)」
ちらりと焦凍くんを見ると何やら不服そうに私を見ている
「なに?」
「…何でもねえ」
「え、うそ!何かあるでしょ」
「っ、ねぇよ!」
爆豪くんと唄ちゃんみたいなやり取り
そんな私達を見ていた緑谷くんと飯田くんは私の素を見て目を点にしていた
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