ヒロアカaqua


▼ 37



焦凍くんと2人で翻弄しながら迎撃していると、後ろで飯田くんが苦しそうな声を出した

「何故…3人とも何故だ…やめてくれよ…兄さんの名を継いだんだ…僕がやらなきゃ、そいつは僕が…」

ちらりと飯田くんを見るとその表情は今にも泣き出しそうで私の知る飯田くんの面影はない

「継いだんだね…でもおかしいな、記憶違い?」

そう告げ焦凍くんと同時に氷結を繰り出し、ヒーロー殺しから距離をとる

「俺らが見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな、お前ん家も裏じゃ色々あるんだな」

距離を取ったのも束の間、作り出した氷結がすぐに砕かれる

「コンビネーションも良い…が、己より素早い相手に対し自ら視界を遮る…愚策だ」

「愚策ねえ…」

「そりゃどうかな」

突如、ドッと衝撃が走り、構えていた肩にナイフが刺さっているのが見えた
焦凍くんの腕にも刺さっているそれ
全く見えなかった軌道に目を見開く

「(いつの間に?!)」

私たちの頭上には刀を構えるヒーロー殺しが待ち構えている

「おまえ達も良い」

やばい
そう思ったとき、目の前を緑色の閃光が駆け抜けた

ヒーロー殺しの服を掴んで壁に押し付けるようにして引きずっていく緑谷くん

「緑谷!」

「なんで!?」

確かヒーロー殺しの個性で動けなくなってたはずなのに、急に動けるようになった彼にギョッとする

「なんか普通に動けるようになった!」

「ってことは時間制限?」

「いや、あの子が1番後にやられたはず」

今だに動けない背後のプロヒーローが告げた一言にハッとした

「(もしかして…)」

その瞬間緑谷くんが引き離され地面を転がる

「下がれ緑谷!」

即座に氷結で攻撃を仕掛ける焦凍くん
距離を取ったヒーロー殺しの動きを見つつ、私は自分の考えをみんなに語った

「緑谷くんだけが先に解けたってことは考えられるのは3パターン
人数が多くなるほど効果が薄くなるか、摂取量か、血液型によって効果に差異が生じるか」

先ほどナイフが刺さった肩の傷口を氷で固めて止血
焦凍くんの傷口にも同様の処置を施す

「血液型…正解だ」

ヒーロー殺しに目を向けながら緑谷くん、焦凍くんと並ぶ

「わかったとこでどうにもなんないけど…」

「さっさと2人担いで撤退してえとこだが…氷も炎も水も避けられるほどの反応速度だ、そんな隙見せらんねぇ」

「プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」

「そうだね…轟くんは血を流しすぎてる、海色さんもその怪我だと右肩上がらないんじゃないかな」

「っ、バレた?」

先ほどナイフが刺さったところが悪かったのか右手に力が入らない
それを察した緑谷くんに痛いところを突かれ思わず不敵に微笑んでしまった

「僕が奴の気を引きつけるから2人は後方支援を!」

「相当危ねぇ橋だが…そだな」

「3人で守ろう!」

そう告げる私たちの背中を見て飯田くんは何を思うんだろうか
ヒーロー殺しの顔から笑みが消えた

「3対1か…甘くはないな」





ーーーーーーー
ーーー





兄貴がやられてからのお前が気になった

恨みつらみで動く人間の顔ならよく知ってたから
そういう顔した人間の視野がどれだけ狭まってしまうのかも知っていたから
傍にいてくれる奴の声すら届かなくなるのを知っていたから

母は泣いて謝り、驚く程あっさりと笑って赦してくれた
俺が何にも捉われずに突き進む事が幸せであり救いになると言ってくれた

以前のままの俺だったら職場体験で親父の事務所を選ぶなんてことは絶対なかった
雫を親父に会わせるようなことは絶対なかった

赦したわけじゃないし赦す気もない
ただ、奴がNo.2と言われている事実をこの目と身体で体験し受け入れるためだった
どんだけクズでもNo.2と言われるだけの判断力と勘の良さは認めざるを得なかった

簡単なことだったんだ全部!
簡単なことなのに見えてなかった!


たった一言
それで救われた、前に進めた

“君の力じゃないか!”





戦闘をしている俺らを動けない体で見ている飯田の顔が歪む

「止めてくれ…もう…僕は…」

「やめて欲しけりゃ立て!!!」

緑谷を撒いたヒーロー殺しが目前に迫る

「ごめんっ轟くん!!!」

「焦凍くん!!!」

緑谷と雫の切羽詰った声

「(俺がお前に言える一言)

なりてえもんちゃんと見ろ!!!」




−−−−ーーー
−−−




焦凍くんに迫るヒーロー殺し

敢えてギリギリまで引き付けて炎熱を繰り出した焦凍くんの攻撃は避けられた

「(っ…んで避けられんだよコレが!)」

「氷に炎…言われたことはないか?個性にかまけ挙動が大雑把だと」

焦凍くんに迫る刀

「バケモンが…!!!」

全身が冷たくなったような感覚になる
助けようと必死に手を伸ばした

けれどだめだ届かない
個性も間に合わない

「だめええええ!!!」

私の叫び声と共に彼の効果が切れた

「レシプロ バースト!!!!」

刀が焦凍くんを刻む前に、凄まじい勢いで飛んできた飯田くん
彼の蹴りでその刀は折れた

「飯…田…くん」

焦凍くんが死んだと思った
それほどまでに絶望的だった
けれど飯田くんのおかげでそれは回避された

こちらに飛ばされてきたヒーロー殺しに向かって氷の檻を作る

この時の私は頭に血が上っていたんだと思う
自分の事しか考えれてなかった、焦凍くんを殺そうとしたコイツを許せなかった

檻の中からこちらを見たヒーロー殺しが私の個人的な殺意に気がついたのか先ほどまでとは異なる嫌悪の表情を見せる

「小娘…お前を少しでも良いと思った自分が恥ずかしい…ヒーローの皮をかぶった偽物
お前も私欲を優先させる偽物だ、そんなにあの小僧が大事かヒーローなら全員の命を平等に見ろよ」

「うるさい」

即座にその顔を覆うように水泡を作ろうとするものの、ヒーロー殺しは檻ごと叩ききった
距離を取って皆の傍に降り立ちヒーロー殺しを見据える

「轟くんも緑谷くんも海原さんも関係ないことで…申し訳ない…」

「またそんな事を…」

「だからもう3人にこれ以上血を流させるわけにはいかない」

顔を上げた飯田くんはもう先ほどまでの表情ではなかった
ヒーローとして決意した表情

「感化されとりつくろおうとも無駄だ、人間の本質はそう易々と変わらない
お前らは私欲を優先させる贋物にしかならない!ヒーローを歪ませる社会のガンだ、誰かが正さねばならないんだ」

「時代錯誤の原理主義だ、飯田、雫、人殺しの理屈に耳貸すな」

焦凍くんが冷静にそう言うが飯田くんはぐっと拳を握る

「いや、言う通りさ…僕にヒーローを名乗る資格などない
それでも折れるわけにはいかない…俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」

「論外」

ヒーロー殺しの雰囲気が変わる
その殺意を受け止め、歯を食いしばった









prev / next



- ナノ -