ヒロアカaqua


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職場体験 当日


駅に集まったA組の面々に相澤先生が諸注意をしていく

「コスチューム持ったな、本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」

百ちゃんに「頑張ろうね」と告げると、彼女もまた「ええ」と返してくれた
体育祭以降元気ないけど、大丈夫かな

「(心配だ…)」

職場体験が終わったら一度話した方がいいかもしれない
そんなことを考えていると焦凍くんが声をかけてきた

「雫、お前何番ホームだ」

「4だよ」

「同じか、途中まで一緒に行くか?」

「うん!」

焦凍くんについて行くと電車待ちの列に見慣れた雄英の制服を見つけた

「舞羽もこっちなのか?」

「え、あ…轟くん、それと雫ちゃんも」

こちらを向いた唄ちゃんはにこりと微笑んだ

「すぐそこなんだけどね、2人は?」

「俺は親父のとこだ」

「え!嘘!」

焦凍くんの思わぬ一言に驚いてしまう
あれだけ嫌っていたし絶対違うところなんだろうと思っていたのに

「まさか…お前も」

「黙っててごめん、でも学べることも多いかなって…」

わたわたしている私たちを眺めていた唄ちゃんはにっこりと意味ありげに微笑んだ

「本当に2人とも仲良しだね」

「仲はいいと思う」

素直に返事する焦凍くん、唄ちゃんがどう言う意味で言ったかを理解した私は真っ赤になった
いつもは可愛い唄ちゃんが今日はにまにましているので調子が狂ってしまう

「じゃあ私この電車だから行くね」

「ああ」

「唄ちゃん、頑張ろうね」

「うん!」









焦凍くんと共にエンデヴァーのところに職場体験に来てみたはいいものの、コスチュームを着て出てきてみれば既に2人の言い合いが始まっていた

「焦凍、お前に全てを叩き込んでやろう」

「俺はお前を認めたわけじゃねぇ、ただ見定めに来ただけだ」

「フン、まだそんなガキみたいな事を言ってるのか…いいか、お前は俺の上位互換なんだぞ!」

「んなもん知るかよ」

これにはサイドキックのみなさんもあたふたしているし、なんせ親子の問題だから口出ししていいのか戸惑っているに違いない
するとエンデヴァーが私に気がついたのか、こちらに目を向けた

「よく来たな海色の娘」

「スカウトありがとうございます」

「お前には焦凍の嫁として強くなってもらう必要がある」

「テメェ…雫まで道具にするなっつっただろうが!」

怒りを露わにする焦凍くんを制してエンデヴァーの前に立つ
こうやってまっすぐ目を見るのは体育祭以来だ

「前も言いましたけど、それを決めるのは焦凍くんです
けど私がここに来たのは強くなる為、そこに偽りはありません」

「雫…」

「あともう一つ…私は海色の娘って名前じゃありません、海色雫です
ヒーロー名はシャボン、宜しくお願いしますエンデヴァーさん」

言いたいことを全て告げてにっこりと微笑むとエンデヴァーは勿論事務所の方々も呆気に取られた表情だった


職場体験は5日

今日はスタミナ強化ということでエンデヴァー直々に考えたメニューをこなしている

「反応が鈍い!集中しろ!」

「っ、はい!」

さすがNo.2なだけあって身体が悲鳴をあげているのがわかる
焦凍くんは普段から行っているためか息ひとつ乱れてない

「(さすがだなぁ…)」

「雫!もう一度だ!」

「はい!」

いつの間にかちゃんと名前で呼んでくれるエンデヴァーに、自分の中での評価は上がりつつあった
勿論、焦凍くんに聞いた話も、彼が私の人生を握っていることも忘れてはいないけど、少なくとも今のエンデヴァーからは敵意などは見受けない

もしかしてちゃんと話せばお互いの誤解があるのかもしれない、そう思うのは甘いんだろうか

「(家族の問題は私は口出ししないけど、仲直りできるといいな…)」

「焦凍!俺を見ろ!」

「うるせえよ」

まだまだ無理そうだけれど

「よし、一旦休憩を挟む」

日頃からヒーロー科の授業でそれなりに身体は鍛えているつもりでいたけれど、これがプロの世界
見渡す限りこの場で息が上がっているのは私ただ1人のみ
きっとこの休憩も私に合わせて取ってくれたにすぎない

「(悔しい)」

私だってずっと訓練してきた
それなのにもっともっと訓練してきた人がこんなにいる

「雫、大丈夫か」

焦凍くんが心配そうに私に水を差し出してくれる
それを有難く受け取って口に含む、個性的に水分補給が鍵になるためこまめに水を飲む必要がある
体力が回復していくのを感じた

「ありがとう、生き返ったよ」

へらっと笑う私に安心したように微笑み返してくれる焦凍くん

「あんま頑張りすぎんなよ」

「ふふ、やっぱり焦凍くんにはお見通しだね」

「ふふじゃねえ、分かったか?」

呆れた焦凍くんの表情に頷く
焦っていることも食らいつこうとしていることも全部バレている
こうやって見透かされるから彼の前では自然体でいられるのかもしれない

「ちゃんと気をつけます…でも、無理してたら焦凍くんが止めてね」

「お前のことはちゃんと見てるから安心しろ」

私たちのその会話を眺めていたサイドキックの方々が「何アレ、眩しい」「青春羨ましい」「今時の高校生は進んでんなー」等話してたとは露知らず

「(やはり焦凍が心を許しているように見える…雫を嫁にすれば焦凍の良きストッパーにもなるか)」

なんだかエンデヴァーの視線を感じて思わず身震いする
するとボウッとエンデヴァーが燃えた
元々燃えてたけど更に燃えた

「気に入ったぞ雫!この俺が1から100まで鍛えてやる!」

「え!?」

面倒を見てくれるのはありがたいけれど嫌な予感しかしないし、そもそも私だってエンデヴァーが苦手だ
警戒しまくっていると、焦凍くんがキッと彼を睨みつけた

「どういう風の吹き回しだ」

「そうと決まれば再開だ!」

有無を言わせずエンデヴァーに連れられる私と焦凍くん
それからは私たちの個性に応じたメニューを考えてくれ、強化に励んだ
エンデヴァーはオールマイトの事になると周りが見えなくなるけれど、意外と面倒見のいい人なのかもしれない
父親としては大問題でもヒーローとしての実力は間違いない

「焦凍ォ!」

「うるせえっつってんだろ!」

「(そしてものすごく親バカ)」

ふと脳裏をよぎったのは両親がエンデヴァーに救われたことがあるということ
何か事件にでも巻き込まれたのだろうか









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