ヒロアカaqua


▼ 33



「唄ちゃんお疲れ様」

焦凍くんと別れ、A組の客席へ戻ってきた私はみんなと共に唄ちゃんを出迎えた
へらっと笑う私を見て数秒止まった唄ちゃんが青ざめた顔で駆け寄ってくる

「雫ちゃん、その怪我…!」

ほっぺたや手足にいくつか絆創膏を貼ってあるだけで、ほかの人に比べたら大したことないんだけれど、唄ちゃんはこの世の終わりみたいな表情だ

そういう唄ちゃんの方がボロボロだったりする
だって顔面爆破だもん…恐ろしすぎる

「轟くんめ…」

「私は大丈夫だから、ね?」

焦凍くんに何かしかねないその眼光に嫌な予感がして止めに入ると渋々ながらも納得してくれた

「それより、ほら決勝戦始まるよ」

フィールドを見れば向かい合う爆豪くんと焦凍くん
クラスのみんなも会場も大盛り上がりだ

『さぁ!いよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!決勝戦 轟 対 爆豪!

今!スタート!!!!』

その合図と共に焦凍くんが大氷結を繰り出す

『いきなりかましたぁ!爆豪との接戦を嫌がったか!早速優勝者決定か!?』

いや、まだだ
微かに聴こえる爆破音

焦凍くんも分かっているから少し威力を弱めて次を警戒した

その瞬間、凄まじい音とともに爆豪くんが氷を割って出てきた

「爆発で氷結を防いでモグラみてえに掘り進めたのか!」

客席から飛んだその声に唄ちゃんが「モグラって、うける!」と爆笑している
良かった思いの外元気そうだ

「…焦凍くんの個性どう思う?」

「んー、そうだねぇ…強い個性故、攻め方が大雑把かな
強いて言うなら動きが読みやすい」

冷静に告げた唄ちゃんに「だよね…」と返して再度2人を見る

「(爆豪くんもそれに気がついていて、だからこそ攻撃を読んでいる)」

再び氷結を出した焦凍くんに対して爆破の威力でジャンプし、氷を避け、さらに右側を掴んだ

「ナメ…てんのかバァアアアカ!!!」

投げ飛ばされた焦凍くんは背後に氷を作り出し滑る

『氷壁で場外アウトを回避ー!!!!楽しそう!』

爆豪くんの腕を左手で掴んだ焦凍くん
炎を使うかに見えたけれど何もしない

「俺じゃあ力不足かよ」

それに対して爆豪くんの苛立ちが募る

『左側をわざわざ掴んだり爆発のタイミングだったり…研究してるよ、戦う度にセンスが光ってくなアイツは』

『ほうほう』

『轟も動きはいいんだが…攻撃が単純だ、緑谷戦以降どこか調子が崩れてるなぁ』

相澤先生の解説通りだ
爆豪くんに流れは傾いている

「てめぇ!虚仮にすんのも大概にしろよ!ぶっ殺すぞ!」

「!」

「俺が取んのは完膚無きまでの1位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねえんだよ!
デクより上に行かねえと意味ねぇんだよ!勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!
なんでここに立っとんだクソが!!!!」

今回ばかりは爆豪くんに賛同だ
みんな必死に戦ってる

焦凍くんが思い悩んでるのは知ってる、私はそれでもいいと思う
けれど、本気で頑張っている人たちはよく思われないのも確かだ

「(悪い爆豪、緑谷と戦ってから自分がどうするべきか自分が正しいのかどうかわかんなくなっちまってんだ)」

爆豪くんは跳びあがり回転をかける

「負けるな!頑張れ!!」

焦凍くんに向かって叫んだ緑谷くん

「(クソナードが!そうだ!そうだよ!俺の前に!ここに立つ以上!勝つためだけに!)」

その応援を聞いて焦凍くんは俯いた
その左側には炎

「(頭回してりゃいいんだよ!)」

爆豪くんは回転をさらに加速させ突っ込んでいく
しかし、焦凍くんは受ける寸前でその炎を消した

爆豪くんの大技、ハウザーインパクトが決まる
衝撃により変化する地形

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾!
轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが…果たして』

煙が晴れたとき、そこには場外で倒れている焦凍くんの姿

「は?オイ…ふっ、ふざけんなよ!こんなの意味ねぇって言っただろ!こんっ…」

ミッドナイトの個性により眠らされた爆豪くん
焦凍くんに掴みかかっていたあたりかなりショックだったんだろう

「轟くん場外!よって爆豪くんの勝ち!」

『以上で全ての競技が終了!今年度雄英体育祭1年優勝はA組 爆豪勝己!!!!』

ちらりと唄ちゃんを見ると意外となんともない表情で見ていた

「ん?どしたの?」

「いや、唄ちゃんはこの結果に納得してないんじゃと思って」

そう言えば、唄ちゃんは少し目を丸くしたあとでにっこりと微笑んだ

「してないよ、けど私は負けたんだし何も言えない…言えるのは勝己だけ」

そう言い切った唄ちゃんに今度は私が目を丸くした

そっか、そうだよね
これは爆豪くんと焦凍くんの問題だ

私が介入する話じゃない

「そんなことより雫ちゃん、表彰式行かなきゃ!」

「あ、そうだね」

フィールドに降りるとそこには1.2.3と書かれた表彰台

2人して3位のところに立つと、1位のところには暴れている爆豪くんがいた
あまりの暴れっぷりに拘束されてる…顔怖すぎる…
その目線は2位のところにいる焦凍くん

メダル授与はオールマイトが行ってくれるらしい

「海色少女、おめでとう!君のその個性は強力だ使い方も上手い、だからこそもう一歩先を目指してほしい、君はきっといいヒーローになる」

ギュッとオールマイトに抱きしめられて背中をポンポンとされる

「はい!」

オールマイトは唄ちゃんを見る

「舞羽少女、おめでとう!その頭の回転の速さと思い切りは群を抜いている
あとは個性に頼りすぎないことだ、そうすればキミはもっと強くなれる、期待しているよ」

「はい」

唄ちゃんも抱擁と背中のポンポンがあったあと、オールマイトは焦凍くんのところへ行く

「轟少年おめでとう、決勝で左側を収めてしまったのにはわけがあるのかな」

「緑谷戦でキッカケをもらって…分からなくなってしまいました
あなたが奴を気にかけるのも少しわかった気がします、俺もあなたのようなヒーローになりたかった
ただ…俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃダメだと思った、清算しなきゃならないものがまだある」

焦凍くんのその言葉に私は小さく微笑んだ
今の焦凍くんなら大丈夫そうだ
復讐に燃えているあの顔つきと全然違う

「さて爆豪少年!伏線回収みごとだったな」

「オールマイトォこんな1番なんの価値もねぇんだよ、世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない
受け取っとけよ!傷として!忘れぬよう!」

「要らねっつってんだろが!」

これでもかってほどに反論している爆豪くん
オールマイトのいなし方が完璧すぎる

「さぁ!今回は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!
ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!

てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーの!」

「「「「「Plus ultra!!」」」」」
「お疲れ様でした!」

1人だけ全然違うことを叫んだオールマイト


教室に戻った私たちに相澤先生は明日明後日が休校だと告げた
こうして私たちの初めての雄英体育祭は幕を閉じたのでした









prev / next



- ナノ -