ヒロアカaqua


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お茶子ちゃんと爆豪くんの試合が終わり、2回戦の4チームが決まる
まずは緑谷くんと焦凍くんだ

次の自分と飯田くんとの試合も気になるものの、この2人の試合が気になりすぎて控え室ではなく、フィールドの入口で見守ることにした

『今回の体育祭両者トップクラスの成績!まさしく両雄並び立ち今!
緑谷 対 轟!!START!!!!』

開始直後、緑谷くんに氷結を仕掛ける焦凍くん、しかし緑谷くんはそれを読んでいたのか指1本であの凄まじい威力の衝撃波を起こした

「やっぱそうくるか…」

緑谷くんは個性の制御が上手くできないためモロに反動を受けるという認識
焦凍くんの氷結を凌ぐにはそれしかないものの、さすがにこれは…痛々しい
何度も焦凍くんが出す氷結を個性を使い凌ぐ緑谷くん

「(あの指…絶対折れてるよね)」

明らかに色が変わってしまっている指
痛いなんてものじゃないだろうによく放てるな

ただし焦凍くんも何連発も氷結を出せるわけじゃない、個性には基本限度がある
それを見越して緑谷くんは耐久戦に持ち込むつもりだ

「耐久戦か、すぐ終わらせてやるよ」

再び氷結を繰り出す焦凍くん
緑谷くんは再び弾くも右手の指が全て折れている

『轟、緑谷のパワーに怯むことなく近接へ!』

ついに近接戦に出た焦凍くん
しかし緑谷くんは再びそれを弾き飛ばす

「…さっきよりずいぶん高威力だな、近づくなってか」

「う゛うう…」

痛みに顔を歪める緑谷くんに対して、焦凍くんは判断力、応用力、機動力すべての能力において強い

「守って逃げるだけでボロボロじゃねえか」

そう告げ近づく焦凍くんの手が少し震えていることに気がついた

「(震え…?)」

「悪かったな、ありがとう緑谷…おかげで…奴の顔が曇った」

客席の中にいるエンデヴァーを横目で見た焦凍くんがそう告げた

「その両手じゃもう戦いにならねぇだろ、終わりにしよう」

そして焦凍くんがトドメの氷結を繰り出す、だけど彼は諦めてなかった

「どこ見てるんだ!!」

折れた指でさらに氷結を吹き飛ばした緑谷くん
もう満身創痍のはずなのにどうして

「てめぇ…何でそこまで」

「震えてるよ、轟くん
個性だって身体機能の1つだ、君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?
で、それって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか…!?」

緑谷くんの言葉に納得する
焦凍くんの右側は左側を、左側は右側を支えるためにある

「…っ、みんな本気でやってる
勝って目標に近づく為に…1番になるために!
半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷1つつけられちゃいないぞ!全力でかかって来い!!!!」

その気迫に私まで圧倒された
緑谷くんは焦凍くんがエンデヴァーしか見ていないことへの悔しさ故の行動だろうけれど




−−−−ーーー
−−−




脳裏に母がよぎる

“いいのよ、お前は…”

この先をいつの間にか忘れてしまった

「…何のつもりだ、全力?クソ親父に金でも握らされたか?」

緑谷に対して苛立ちが募る

「イラつくな!」

近距離ならお前は対抗出来ないだろ!
そう思い攻め入った俺の前には既に緑谷がいた

「(右足が上がった瞬間に…こいつ)」

動きが鈍くなっている俺に緑谷の一撃が決まった

『モロだー!生々しいの入ったぁ!』

殴られた所を抑えながらも立ち上がる
そして氷結を出すものの、明らかに威力が落ちている
対する緑谷は握れない指を噛んででも衝撃波を撃ち込む

「何でそこまで…」

「期待に応えたいんだ!笑って応えられるようなカッコイイ人に…なりたいんだ!!!」

決死の覚悟で飛び込んでくるコイツに記憶の中の母が何度も蘇る

「だから全力でやってんだ!みんな!君の境遇も君の決心も僕なんかに図り知れるもんじゃない…でも…
全力も出さないで1番になって完全否定なんてフザけるなって今は思ってる!」

脳裏を過ぎるのはあの辛い日々

“立て、こんなもので倒れていてはオールマイトはおろか雑魚ヴィランにすら…”

“やめてください!まだ5つですよ!”

“もう5つだ!邪魔するな!!”

訓練に無理矢理付き合わされ、その度に殴られる母

「うるせえ…」

やめろ思い出すな

そう思えば思うほど蘇る記憶

“嫌だよお母さん…僕…お父さんみたいになりたくない、お母さんをいじめる人になんてなりたくない”

“でもヒーローにはなりたいんでしょ?いいのよお前は、強く思う将来があるなら”

いつしか母に泣きついた時の記憶だ
俺は何も出来なかった、母は1人耐えていた

「だから…僕が勝つ!!!君を超えて!」

緑谷に再び吹き飛ばされる

“焦凍見るな、兄さんらはおまえとは違う世界の人間だ”

やめろ
もう思い出したくねぇ

“お母さん…私へんなの…もうダメ、子供たちが日に日にあの人に似てくる…焦凍の…あの子の左側が時折とても醜く思えてしまうの…私…もう育てられない、育てちゃダメなの”

“お…母さん…?”

俺は…

“お母さんは?”

“お前に危害を加えたので病院に入れた
全く大事な時だと言うのに…”

俺は親父を

“おまえのせいだ!!!”

ふらつく身体で何とか立ち上がろうとする

「君の!力じゃないか!!!」

緑谷のその叫びに思わず顔を上げた
緑谷の向こう側、逆サイドの入口に雫が見える

不安そうな、今にも泣き出しそうな表情

「(違う、お前にそんな顔させたいわけじゃ…)」

その瞬間、あの言葉の続きを思い出した

“でもヒーローにはなりたいんでしょう?いいのよお前は、血に囚われることなんかない”

母と一緒に見たテレビでオールマイトに憧れたあの日のことを

“なりたい自分に、なっていいんだよ”

ああ…そうだ、お母さんは…あの時そう言ってくれたんだ
それを思い出した時、無意識に左側を使っていた




−−−−ーーー
−−−




ぶわっという熱気とともに私の目には綺麗なオレンジ色の炎が映った

「勝ちてえくせに…ちくしょう…敵に塩送るなんてどっちがフザけてるって話だ…俺だってヒーローに…!」

そう告げた焦凍くんの目には涙が見えた

「焦凍ォオオ!!!やっと己を受け入れたか!そうだ!いいぞ!ここからがお前の始まり!俺の血を持って俺を超えていき俺の野望をお前が果たせ!!」

客席から叫んだエンデヴァーに拳を握る
しかし今の焦凍くんには目の前の緑谷くんしか見えてない

焦凍くんは涙を拭い、緑谷くんを見た

「凄…」

「何笑ってんだよ、その怪我でこの状況でお前…イカレてるよ…どうなっても知らねぇぞ」

そう告げて踏み込んだ焦凍くんは氷結を撃つ
緑谷くんも凄まじい勢いで飛び出し、互いが攻撃体制に入る

「緑谷、ありがとな」

衝撃波を撃った緑谷くんと、炎を使用した焦凍くん
2人の攻撃はぶつかり合い凄まじい威力となり爆発した

フィールドは煙が覆い何も見えない

『何今の…お前のクラス何なの…』

『さんざん冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』

『それでこの爆風ってどんだけ高熱だよ!ったく何も見えねー…オイこれ勝負はどうなって』

そんな私たちの目に入ったのはフィールドの壁に叩きつけられている緑谷くん

「緑谷くん場外、よって轟くん3回戦進出!」

歓声の中、焦凍くんはこちらに目を向けた
まさか目が合うとは思っていなかったので、慌てて涙を拭う

すると彼はこちらに向かって歩いてくる

「(え!?ちょっと待って!心の準備が!てゆーか焦凍くんの出入り口は向こう側だよ!)」

あたふたしている私の前で立ち止まり、彼は薄く笑った

「悪ぃ、心配かけた」

多く語るわけでもない
それでもその言葉に私の頬を一筋の涙が伝った

「ありがとう…雫」









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