ヒロアカaqua


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試合を終えて客席に戻ると、唄ちゃんと三奈ちゃんは既に控え室に行ったみたいで梅雨ちゃんの隣に腰掛けた

「雫ちゃんお疲れ様」

「ありがとう、でも上鳴くんに悪いことしちゃったなぁ…」

「試合だもの、仕方ないわ」

梅雨ちゃんに励まされ苦笑いをした
今試合は飯田くんとサポート科の女の子が戦っているところ

どうやら飯田くんはサポート科の女の子にまんまと騙されてしまったらしい
アイテムを宣伝するために翻弄されている

「飯田ちゃん可哀想ね」

「…でも飯田くんをあんな風に翻弄しちゃう発目さんも凄いね」

程なくして初目さんが満足したのか試合は飯田くんの勝利で終わった
そして次の試合は

『可愛い外見に騙されるんじゃねえぞ、毒があるぜイェア!芦戸三奈!



綺麗な羽で縦横無尽、まさにエンジェル!舞羽唄!

START!!!!』

「いくよー!」

開始の合図と共に粘液を撒く三奈ちゃん
唄ちゃんはすかさず羽を出して宙に舞う

三奈ちゃんは予期していたのか、唄ちゃん目掛けてジャンプした
さすが三奈ちゃん、運動神経抜群だ

酸が唄ちゃんに襲いかかる
それを巨大化させた羽で受け止めた唄ちゃん
ただ羽はジュワッと溶けてしまっている

これには見ている側も痛そう…と声を漏らしていた

『おーっと、舞羽が押されている!』

唄ちゃんは何かを考えこんでいるみたい

「(唄ちゃん、頑張れ…!)」

三奈ちゃんには悪いけれど唄ちゃんには勝ってほしい
できれば私も彼女と勝負をしてみたい

そして唄ちゃんが音波の個性を使用し地面に向かって衝撃波を放った
フィールドを土煙が覆う

『何だ何だ!?舞羽は音波の個性も使えたのか!!?』

視界を奪われて警戒している三奈ちゃんに向かって最高スピードで飛んでいく唄ちゃんはそのまま三奈ちゃんの体操服を掴んだ

「わわっ!?」

「いっけええ!!」

そのまま三奈ちゃんをつれて場外の壁に向かって飛び、壁の直前で手を離した
唄ちゃんは急上昇しフィールドに戻るけれど、三奈ちゃんは壁に叩きつけられて場外だ

「芦戸さん場外!舞羽さん2回戦進出!」

三奈ちゃんに駆け寄る唄ちゃんを見つめて身震いした

「(やっぱり唄ちゃんも戦闘のセンスの塊なんだ)」

爆豪くん同様唄ちゃんもかなりの戦闘センスの持ち主
見る度に成長している姿は少し恐ろしくもある

「雫ちゃんは本当に唄ちゃんが好きなのね」

「っ、え?」

「嬉しそうだもの」

にっこりと微笑んだ梅雨ちゃんに少し照れくさくなりグラウンドに目を向けた

次は常闇くんと百ちゃんの試合だ
そう思ったのも束の間、開始早々ダークシャドウで百ちゃんの創造を封じ一瞬で勝負がついた

「(百ちゃん落ち込んでないといいけど…)」

人一倍頑張り屋さんだからきっと思い悩んでしまうに違いない
と、その時唄ちゃんが客席に戻ってきた

「あれ?ヤオモモと常闇くんの試合は?」

「開始と同時に常闇くんがヤオモモの創造よりも早く攻撃を仕掛けてさ、一瞬だったよ」

響香ちゃんの言葉にゴクリと息を呑む唄ちゃん

「次はある意味最も不穏な組み合わせね」

「ウチ見たくないかも」

梅雨ちゃんと響香ちゃんがそういうのも無理はない
爆豪くんが女の子相手に加減するとも思えないし

「でもさ、お茶子ちゃんも多分本気で戦って欲しいんだと思う」

グラウンドにいる爆豪くんを見つめて静かに告げる唄ちゃんの様子に私たちは目配せした

「…ねえ、唄ちゃん、私思ったことはすぐに言っちゃうの」

「うん?」

梅雨ちゃんのその一言にこちらを見た唄ちゃんと私たちの目が合った

「爆豪ちゃんのこと好きなの?」

「…え?」

唄ちゃんはしばらく思考停止した後に小さく吹き出した

「あははっ!無い無い、だって勝己だよ?
天地がひっくり返ってもないって!」

「そう、違うのね」

その様子を見る限り好意はなさそうなので納得せざるを得ないけど、爆豪くんを見る唄ちゃんの顔は緑谷くんに向けるものとは少し違う

「(多分無意識なんだろうなぁ…)」

そんなことを考えている間に2人の試合が始まった
お茶子ちゃんは爆豪くん相手に速攻を仕掛け飛び込んでいく

確かにお茶子ちゃんの個性上触れたら勝ちだ
だけど爆豪くんは容赦なく爆破し撃退した

「うわぁ、モロ…」

「女の子相手にマジか…」

客席からも動揺の声が上がる
爆煙の中、その影を見た爆豪くんが2度目の攻撃を仕掛けるものの、それは体操服の上着

お茶子ちゃんの本体は完全に爆豪くんの背後を取っていた

「あれを咄嗟に…すごいっ」

いけると思ったけれど、爆豪くんはそんなお茶子ちゃんを吹き飛ばした
完全に見てから反応しているにも関わらず、反応速度が凄まじい爆豪くんに対して触れなきゃ発動できないお茶子ちゃんの個性は分が悪い

お茶子ちゃんはそれからも突撃を続け爆豪くんは迎撃し続ける
誰がどう見ても一方的な試合

「おい!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」

「そーだ!そーだ!」

その声を聞いた瞬間、唄ちゃんが怒った表情で立ち上がる
けれど、何か言う前に相澤先生の声が会場に響いた

『今遊んでるっつったのプロか?何年目だ?
シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ、帰って転職サイトでも見てろ
ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう
本気で勝とうとしてるからこそ手加減も油断も出来ねぇんだろが』

相澤先生が言いたいことを言ってくれたためスッキリしたのか唄ちゃんが再び椅子に座った
その目には涙が滲んでおり、やっぱり爆豪くんのことが好きなんだろうなと思えてしまう

それにお茶子ちゃんは無策で突っ込んでいたわけじゃない
爆豪くんの上には爆破により生まれた岩の破片たちが無数に浮いている

お茶子ちゃんは低姿勢での突進を続けることで爆豪くんの打点を下に集中させ武器を蓄えてた
そして絶え間ない突進と爆煙で視野を狭め悟らせなかった
完全に作戦勝ちだと思う

個性を解除したお茶子ちゃん
直後降り注ぐ岩の雨
それを迎撃・回避する爆豪くんの隙をついて触れる魂胆だろう

「いける!」

しかし爆豪くんはその雨を一撃で凌いだ、たった一撃で

「デクのヤロウとつるんでっからなてめぇ、なにか企みあるとは思ってたが…」

『会心の爆撃!麗日の秘策を堂々正面突破!』

「危ねぇな…いいぜ、こっから本番だ麗日」

顔を上げた爆豪くんの表情は認めた相手と戦う時に見せるヒール顔
しかし直後お茶子ちゃん倒れた、キャパオーバーを起こしたみたいだ

「麗日さん行動不能、2回戦進出爆豪くん!」

隣で見ていた唄ちゃんはなんだか複雑そうに爆豪くんを見つめていた










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