ヒロアカaqua


▼ 24



ずいぶん長い時間眠りについていた気がする

「っ!」

今まで何をしていたのか思い出せないけれど、私と唄ちゃん、そして青山くんはどうやらこの心操人使って人に個性で操られていたらしい
人を操れるなんてとてもすごい個性でいいと思う
けれど心操くんはそうじゃないみたいで表情は暗い

「…あれ?」

「悪かったね、怒ってる?」

心操くんがそう告げる
私が口をつぐんでいると、隣の唄ちゃんが目をぱちぱちさせて首を傾げた

「…なんで?だってそれ個性なんでしょ?使ったらダメなんてルールないよね
むしろ凄い個性だね!全然気がつかなかったよ!」

唄ちゃんのその言葉に心操くんは目を丸くする
唄ちゃんのいいところはこういうところだ、素直故に物事も純粋に受け入れられる
少なくとも心操くんには響いたんだろう

「へぇ…そんなこと言う人初めてだよ」

「そう?雫ちゃんも私も怒ってないよ、むしろ勝ってくれてありがとうね」

「変なやつ」

フィッと顔を背けてどこかへ行く心操くん
よく分からないけどどうやら私たちは決勝トーナメントに出場らしい

「雫ちゃーん、お昼行こー!」

遠くでお茶子ちゃんが手を振りながら声をかけてくれていることに気が付き頷く

「唄ちゃん、みんながお昼行こうって」

女子のみんなと合流してクラス一同のところへ行くと、焦凍くんの姿がなかった
他にも緑谷くんと爆豪くんもいないみたい

「あれ?」

「どこ行ったんだろ…探しに行く?」

「そうだね」

何かと目立つあの3人がいないことに他のみんなの気がついているけど、時間は有限
まずは腹ごしらえをするらしい

「(焦凍くんなんだか様子がおかしかったし、気になるなぁ…)」

そう思いながら探していると、唄ちゃんと目が合った

「ねえ、雫ちゃん」

「なに?」

にっこりと微笑んだ唄ちゃん
相変わらず可愛いなぁと頭の片隅で考えているととんでもない言葉が聞こえた

「轟くんのこと好きなの?」

思わずピシッと固まる

「(え?今唄ちゃんは何て?私が焦凍くんを好き…って…??)」

徐々に顔に熱が集まるのを感じ、慌てて唄ちゃんの口を押さえる
幸い周りには誰もいないみたいだけど誰かに聞かれでもしたら大変だ

「い、言っちゃだめ!!」

「あ…ということは…」

コクコクと頷けば唄ちゃんの顔がぱああっと明るくなる
つい勢いで素が出てしまったけど気がついていないらしい

「(唄ちゃんといると焦凍くんの時のように自然体でいられることが多い気がする)」

それは私が唄ちゃんみたいになりたいからなのかわからないけど…
それから再び3人を探していると角を曲がった所に爆豪くんが見えた

「いたいた、勝己ー!」

「黙れ」

即答で告げた爆豪くんにムッとした唄ちゃん
何やら喧嘩しそうな2人にまずいと思ったけれど、緑谷くんの声が聞こえたため中断される

「あの…話って何?早くしないと食堂すごい混みそうだし…えと…」

「気圧された、自分の誓約を破っちまうほどによ」

焦凍くんの声も聞こえる
2人が何の話をしているのか瞬時に悟ってしまう
不思議そうにしている唄ちゃんに「左側の個性のことだよ」と伝えた

「上鳴も八百万も常闇も麗日も感じてなかった、最後の場面あの場で俺だけが気圧された…本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ」

「それ…つまりどういう」

「おまえに同様の何かを感じたってことだ、なぁ…オールマイトの隠し事か何かか?」

その言葉に小さく吹き出した唄ちゃんの頭に爆豪くんからゲンコツが落とされた

「(い、痛そう…)」

涙が滲んでいる唄ちゃんが爆豪くんを睨みつけている姿に案外この2人が似たもの同士だなと思えてしまう

「違うよそれは…って言ってももし本当にそれ…隠し子が本当だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて…そもそも逆に聞くけど、なんで僕なんかにそんな…」

「そんなんじゃなくてって言い方は少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな
俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ
万年No.2のヒーローだ、お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は…尚更勝たなきゃいけねぇ」

エンデヴァーの名前に思わず肩がはねた
焦凍くんの父親であり彼の生き方を決めた人
そして私もあの人に生き方を決められた

「親父は極めて上昇志向の強いヤツだ、ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたがそれだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい、自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は次の策に出た」

「何の話だよ轟くん…僕に何を言いたいんだ…」

「個性婚、知ってるよな」

「!…超常が起きてから第2-第3世代間で問題になったやつ」

「自身の個性をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び結婚を強いる、倫理観の欠落した前時代的発想
実績と金だけはある男だ…親父は母の親族を丸め込み母の個性を手に入れた」

唄ちゃんが口を押さえ青ざめる

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった
ましてや雫まで巻き込みやがって…鬱陶しい、そんな屑の道具にはならねぇ
記憶の中の母はいつも泣いている…おまえの左側が醜いと母は俺に煮え湯を浴びせた」

左側の火傷、てっきり個性の影響かと思ったけれど想像以上のものに息を飲んだ
そう言えばずっと前にお母さんが入院中と言っていた
我が子に煮え湯を浴びせるほど精神的に参ってたってことだろうか
それも全てエンデヴァーが追い込んだ故だとしたら

「ざっと話したが俺がお前につっかかんのは見返す為だ、クソ親父の個性なんざなくたって…いや…使わず1番になることで奴を完全否定する」

ただ黙って聞いていた私たち3人
焦凍くんの話は想像よりずっと悲惨だった
私は両親から愛されて育ててもらった
彼は両親のためにヒーローになりたいと言う私をどんな気持ちで見ていたんだろう

「言えねぇなら別にいい、お前がオールマイトの何であろうと俺は右だけでお前の上に行く…時間取らせたな」

「僕は…ずうっと助けられてきた、さっきだってそうだ…僕は誰かに助けられてここにいる
オールマイト、彼のようになりたい
その為には1番を取るくらい強くならなきゃいけない、君に比べたら些細な動機かもしれない
でも僕だって負けらんない、僕を助けてくれた人達に応えるためにも!
さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!」

そう告げて2人は去っていく
爆豪くんも何も言わずにその場を立ち去ったため私と唄ちゃんだけが取り残された
予備に来た側が置いていきぼりなんてちょっとおかしい

「すごい話だったね…」

声をかけてきた唄ちゃんにうまく答えられない
先程の焦凍くんの話が頭から離れない

「…さっきの…轟くんが言ってたことだけど」

聞いていいのか戸惑いながら話す唄ちゃんにハッとして眉を下げる
心配をかけてしまっているこの状況が申し訳ない

「私の家はごく普通の家なんだ、ただ水の個性が代々受け継がれてきてるためか第5世代の私は水以外にも氷や水蒸気を使用できる…これって珍しいしとても強い個性らしいんだ
そんな私のところに急にエンデヴァーが来たの、そして彼は焦凍くんの許嫁になれと…焦凍くんの子供産めと言った」

「それって…」

「そう、個性婚だよ
ずっとどうして私なのか不思議だったんだ、けど今の話を聞いてはっきりした」

エンデヴァーは私の個性が欲しいだけ
焦凍くんが自分の野望を継いでNo.1ヒーローになる、そして更にその子が跡を継ぐ
このレールを敷いたことに焦凍くんは怒ってくれているんだ

「雫ちゃん…そんな」

「両親は私に頭を下げ謝った、エンデヴァーに恩があるって、断れなかったって…だから私は拒まない
私にとって1番大切なのは両親、そんな2人が困るようなことはしたくないの」

「でも!!」

納得できないと言う顔の唄ちゃんに微笑む
人のためにこんなに一生懸命になれるなんて本当に素敵な子だ

「焦凍くんはエンデヴァーの決めたことには従わない
だからきっと…彼は許嫁の私を選ばない」

報われない恋
最初から決まっている結末に向けてただ猶予を与えられているだけの関係

唄ちゃんが言葉に詰まっている様子に気持ちを切り替える

「ごめんね、変な話して!早くご飯食べに行こう!」

心配そうに私を見ているその視線には気が付かないフリをした











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