ヒロアカaqua


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飛び出した唄ちゃん
敵の奇襲に動けない私と違い唄ちゃんも爆豪くんも切島くんも即座に対応していた

不用意に突っ込むのは得策じゃない
けれどこんな時に動くこともできない私は歯を食いしばった

「雫!」

傍にいた焦凍くんが私を引き寄せる
周りにいたはずのみんなの声が聞こえなくなる、視界には真っ黒な霧だけ

「いいか、飛ばされた先が見えたらすぐに地面から離れろ」

「っ、わかった」

焦凍くんは敵を凍らせるつもりなんだろう
ただそれは私も巻き込んでしまうかもしれない、その為に地面から浮く必要がある

「来るぞ」

一気に視界が開けた先は土砂ゾーン
私たちを待ち構えるように待機していたヴィランの軍団を見つけて焦凍くんは静かに息を吐いた

私も地面に落下する前に大気中の水分をかき集め大きなシャボン玉を自分の周りに作り出し宙に留まる
土砂ゾーンなため大気中の水分は少ないのか耐久性に難ありなシャボン玉になってしまったけれど、焦凍くんが凍らせるには十分
その証拠にシャボン玉が弾け、着地した頃には焦凍くんは辺り一帯を凍らせ終えていた

「子供1人に情けねぇなしっかりしろよ、大人だろ」

そう言った焦凍くんに賛同する
雄英に乗り込んできたくせにそこまで反応速度もよくない
先ほどの手がいっぱいの男と霧の男は強者だろうけど他はそうでもない

「散らして殺す…か、言っちゃ悪いがあんたらどう見ても個性を持て余した輩以上には見受けられねぇよ」

「こいつ…移動してきた途端に…本当にガキかよ…いってて…」

ヴィランは凍らされた部分が痛むのか苦しそうな表情

「(オールマイトを殺す…初見じゃ精鋭を揃え数で圧倒するのかと思ったが、フタを開けてみりゃ生徒用のコマ…チンピラの寄せ集めじゃねぇか…見た限りじゃ本当に危なそうな人間は4、5人程だった…とすると)」

何やら考え込んでいる焦凍くんはヴィランと目線を合わせるようにしゃがんだ

「なあ、このままじゃあんたらじわじわと身体が壊死していくわけなんだが、俺もヒーロー志望、そんな酷えことはなるべく避けたい
あのオールマイトを殺れるっつう根拠…策って何だ?」

ヴィランが渋るように目線を泳がせる
焦凍くんはその様子をただじっと眺めている

「アイツらだ…」

「おい!」

「うるせえ!このまま死んでもいいのかよ!?」

ざわざわしているヴィランたち
どうやら話す気になったらしい

「アイツら…死柄木と黒霧がオールマイト殺しを実行するために俺たちは寄せ集められた駒だ
俺らの任は、お前ら雄英の学生を始末することにある…元々配置された位置に黒霧が飛ばしてくる生徒を殺すだけ…簡単な仕事だったはずなのに畜生!」

悔しそうに顔を歪めるヴィランに焦凍くんはなるほどと呟いた後で私を振り返った

「雫、こいつらの拘束頼めるか?」

「あ、うん!」

このフィールドにある焦凍くんの氷を水に変化させ、敵たちの手足を拘束する水の枷を作り出す
それをもう一度凍らせれば固くて冷たい枷の出来上がりだ

「こいつらはこのまま放っておいていいだろ、それより主犯格を止めに行くぞ」

焦凍くんに頷き駆け出そうとするけれど、その時ヴィランの男の声が耳に届いた

「てか、舞羽唄っつーガキの捕獲はどうなったんだ」

その名前に咄嗟に立ち止まる
焦凍くんは私に気づいてないのか、そのまま入口を目指して走っていた

「なんで唄ちゃんを狙ってるの…?」

脳裏によぎるのは可愛らしい笑顔を見せる天使のような唄ちゃん

「知らねぇよ!ただ、アイツが10年前のリベンジだとかで羽持ちを狙ってるって聞いただけで…」

「わ!バカお前!それは死柄木に口止めされてただろ!」

前回の戦闘訓練の時、個性について互いに話していた私たち
唄ちゃんの羽は普通の羽と異なるためか昔誘拐されたことがあると言っていた
その時の犯人はまだ捕まってないとも…

「っ、助けないと…!!」

急いで焦凍くんを追いかける
早く唄ちゃんを見つけないと取り返しがつかないことになる



「つまり敵の連中の狙いはオールマイトと舞羽ってことか?」

入口まで走りながら焦凍くんに先程のヴィランから聞いた情報を共有する

「そう!唄ちゃんが狙われてるのは珍しい個性だからだと思う!」

「人身売買目的か、それとも別の理由か」

「どっちにしろ唄ちゃんを助けないと!」

焦凍くんの速さに追いつくため全力疾走、口の中が切れて血の味がしてきた
正直しんどい、けれど唄ちゃんを助けたい気持ちの方が何万倍も強い

「見えたぞ」

そこにはヴィランと交戦中のオールマイト
そして緑谷くんと梅雨ちゃん、峰田くん

良かった無事だったんだ
安心したのも束の間、黒い霧の中からぐったりしている唄ちゃんが引きずり出される

その首を掴んでいるのは主犯格のヴィラン、あの手がいっぱいの男だ
まだ距離はある、けれど唄ちゃんの苦しそうな顔が目に映った途端気がつけば個性を使い飛び出していたた

助けたい、その一心で複数のシャボン玉を作り出しヴィランの目の前へ飛ばす

「なんだ…?」

シャボン玉がヴィランに触れた瞬間、それを一斉に爆発させた

仕組みは水蒸気爆発
それを可能にする為の高温剤としてコスチュームの備品にアルカリ金属の欠片を練りこんだ水溶性のボールを要望に上げていて正解だった
シャボン玉内にボールを仕込み、あとはボールが溶けるタイミングを見計らって飛ばすだけ
正しく計算しないと危ないけれど、生憎こっちは完璧でいるために勉強も一切手を抜いてこなかったので得意だ

爆発の勢いで唄ちゃんから手を離したヴィラン
その隙に地面を凍らせスケートの要領で加速し、爆風の中から唄ちゃんを抱え距離をとる

「雫…ちゃ…」

苦しさと恐怖のあまり涙を滲ませている唄ちゃんに微笑む

前に子供達にどうしてヒーローになりたいのか聞かれて答えられなかったんだっけ
両親を楽させてあげたい、それも勿論理由の1つだけれどヒーローじゃないといけない理由じゃない

「(ずっと考えてた、どうしてヒーローなんだって)」

でも今ならわかる、私は私の大切な人達を守るためにヒーローになりたいんだ

「助けに来たよ、唄ちゃん」

ボロボロと涙を落とす唄ちゃんの背中をさすっていると、オールマイトが私たちとヴィランの間に立つ

「海色少女、キミは立派なヒーローだ!」

オールマイトのその一言に胸がざわめく
この時私は初めてオールマイトというヒーローに憧れた
No.1ヒーローとして誰よりも多くの人を守ってきたその背中に









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