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その日の訓練中、どこかへ行っていた緑谷くんが帰ってきたと思ったら黒鞭で拘束された青山くんも一緒だった
何が起こったのかわからないまま彼はオールマイトたちに青山くんを引き渡し、視聴覚室で経緯を説明される
青山くんはオール・フォー・ワンの内通者だった
USJの時も合宿の時も…全て彼が情報を流していた
無個性で生まれた青山くんはみんなと一緒になりたくて、だから彼の両親はそんな彼のためにオール・フォー・ワンに頼った
オール・フォー・ワンは彼に個性を与えた代わりに雄英へ入るように指示した
その後もUSJの時にクラスが孤立するタイミングを教えるように、変更になった合宿先を教えるように、そして今回は雄英に戻ってきた緑谷くんが1人になるように…そう指示してきた
彼は自責の念から両親を説得していたらしい
その現場を透ちゃんが見つけ、緑谷くんが駆けつけた
「…なるほど、個性を与えてもらい…支配されるに至ったと…
付与は約10年前か…今無事ということはナガンのような裏切ったら爆発する仕掛けはないようだが…」
視聴覚室の真ん中で拘束される青山くんとその両親
彼らの前には根津校長を筆頭とした雄英の教師と塚内さんを筆頭とした警察の面々がいる
「できれば…君たちは下がっていなさい」
根津校長がこちらを振り返りそう告げたけれど、私たちA組は誰もこの場から下がろうとはしない
「下がってられる」
「道理がねェよ…!」
「葉隠さんが見つけてなかったら…何するつもりだったんだ…!」
A組は22人全員でA組
そう思っていたのに、内通者がいると知ってみんなに動揺が広がっている
「青山!嘘だって言えよ…!!」
「てめェも元無個性だとは…世の中狭ぇな」
青山くんはただ涙を流すのみで言葉を発しようとしない
そんな彼らに塚内さんは語りかけた
「生憎まだ我々は秩序に生きようといている
オール・フォー・ワンについて知ってることを洗いざらい喋ってもらう」
「知ってることは…何もない
私たちはただ…頼まれたら実行するだけだ
失敗すれば殺される…嘘をついても…殺される」
「どうやって?」
「見せられた…そうした人間が処分される様を…警察に逃げ込んだ者は…出所後に殺された…逃げられなかった…どこにいても居場所がバレる…必ず…死に追いやられる…!!
言われた通りにしてどうなるか…優雅は知らなかった!!ただ誰にも勘付かれてはいけないとだけ…!!悪いのは私たちだ!!!」
ガタガタ震える青山くんの父親の叫び
オール・フォー・ワンが植え付けた恐怖は計り知れないが、それでも我が子を守ろうとする姿に複雑な感情を抱く
青山くんが静かに口を開いた
「自分が殺していたかもしれない人たちと僕は仲間の顔して笑い合った…笑い合えてしまったんだよ…
同じ元無個性でオール・フォー・ワンと戦う重圧を背負った彼を知って自分の惨めさに絶望した
彼の心配より先に絶望した自分に…絶望したんだ…性根が…腐ってたんだよ…青山優雅は根っからのヴィランだったんだよ」
USJの時、彼が手引きしたから唄ちゃんが死柄木に殺されかけた
合宿では彼のせいでヴィランが襲撃し、私と爆豪くんが連れ去られオールマイトを終わらせてしまった
許せるはずがない
1歩間違えば死んでいたかもしれないんだから
それでも緑谷くんはヒーローだった
「じゃあ何で合宿でかっちゃんと海色さんと常闇くんを助けようとしたんだよ!
あの夜のチーズはオール・フォー・ワンに言われてやったのかよ…!?違うだろ!!?
あれは…僕が気付けなかった…!!SOSだったんだ…!!
だって取り繕いもせずに泣いているのはオール・フォー・ワンの言う通りに出来なかったからじゃあないだろう!?
オール・フォー・ワンに心を利用されても全ては明け渡さなかったヒーローを僕は知ってる!心が圧し潰されただけだ!!
罪を犯したら一生ヴィランだなんてことはないんだ!
この手を握ってくれ青山くん…君はまだヒーローになれるんだから!!」
彼は青山くんを救けようとしている
そんな彼の言葉に自分の中のモヤは消え去った
「待って緑谷くん…三茶、青山の口を塞いでおけ」
塚内さんの命令で警察の人が青山くんの口を拘束する
そして腕も拘束されている状態なので事実上手は取れない
「事情はどうであれオール・フォー・ワンに加担した罪は消えない
それに状況からセーフと推測しているだけでまだナガンのような仕掛けがないと言い切れない、セントラルの検査結果が出るまでこれ以上彼に喋らせるのはよくない」
緑谷くんが悔しそうにする姿を見た塚内さんは目をそらした
「お父さんお母さん、神野の強襲は何故報告しなかった?」
「こちら発の連絡はできない…向こうが求めた時のみ…」
「君たちが捕まっても辿られないように…か…ならばあの戦いは」
淡々と進んでいく話
それを切るように緑谷くんが「塚内さん」と呼びかける
「オール・フォー・ワンは見つからない、それが…今の見方でしょう…!?」
それを聞いていた上鳴くんがハッとした
上鳴くんだけじゃない、クラス全員が…この場にいる誰もがハッとする
「"だからせめて…出方を誘導できたら"…!!」
「そっか…!」
「見方を変えれば現状ただ1人…青山さんだけがオール・フォー・ワンを欺くことが出来るかもしれない…!!」
「待て…待て待てガイズ!飛躍しすぎだ!
罪は罪…言いたかねぇさ、けどな…お前らが1番の被害者だ
今更信じられるのか?」
A組の面々が顔を見合わせる様子をプレゼントマイクが制す
その手には相澤先生と繋がっているタブレットが握られている
プレゼントマイクの言う通り私たちは被害者だ、何度も殺されかけた
「(でも…目の前の青山くんは泣いている)」
後悔している
そんな仲間を放ってなんておけない
「それは過去の話でしょう
彼の心の内を掬いとれなかった俺たちの責任でもあります
だからこそ、今泣いて絶望しているクラスメイトを友として手を取りたい、手を取ってもらいたい
それが…彼と俺たちが再び対等になれる唯一の方法だからです」
飯田くんがクラスを代表して言いたいことは言ってくれた
私たちは誰も青山くんを見捨てたりしない
「ひでー目には遭ってっからなァ…5発くらいハウザーぶちこんでトントンだな」
そう発言した爆豪くんにかなり引き気味に目を向ける
「つっこみ辛すぎるからやめときなよ」
「オメーもぶちこめや」
「無理だって」
暴力を強要しないでほしいと遠い目をしていると、切島くんが青山くんへ語りかけた
「青山はオール・フォー・ワンに勝てねえと思ったから従っちまったんだろ!でも今は違ぇから止めようって親御さんに言ってくれたんだろ!!
緑谷を止めに行った時誰か1人でも無個性を責めたかよ!?涙堪えて隠し事してた奴嫌いになったかよ!?
青山!まだ一緒に踏ん張れるんだよ俺たち!!」
「盛り上がっていること悪いが…青山一家に捜査協力を頼むとして…嘘は通じないと先ほど聞いている、君たちの気持ちは分かるがここは冷静に…」
『緑谷…何か具体策はあるのか?』
声をかけたのは相澤先生
先日の戦いで失った右目と右足のせいでまだ入院中だ
「いえ…それは…」
『だろうな、ったく…塚内さん、この責任は見抜けなかった俺にあります
ただ…気持ちはこいつらと同じです
青山、俺はまだお前を除籍するつもりはない
A組担任として俺に考えがある、塚内さん…一応青山たちには聞こえないよう…』
そして相澤先生が語った作戦を聞いた
先生らしいとても合理的かつ有効的なその作戦にみんなが納得する
「たしかに実現性が高い…!」
「やる価値はあるか…三茶、これ以上は本部で詰めたい
君たちはこのことを決して他言しないように頼む」
そう言って塚内さんは青山くんたちを連れて行く
どんどん遠くなるその背中を見て緑谷くんが彼の名を呼んだ
「青山くん!」
けれど彼は一度振り返っただけですぐに目を逸らす
1人の仲間が消えた寮に戻ってきてみんながそれぞれ普段通りに振る舞うけれど全体的に暗い雰囲気だ
みんな思うことは同じだと思う
「絶対…倒そうね」
ボソッと小さな声でそう告げた透ちゃんに全員が賛同した
元々許せなかったのに仲間を利用されて一層増した怒り
誰もが闘志を滾らせる
その後、今日から本格的に捜索隊に合流することになっていたので雄英バリアの外にいたMt.レディの下へ向かった
「A組に何が起きたかは聞いてます、けれどもう1日も無駄にはできません
解放戦線及びヴィラン連合の早期発見、掃討が最善策なことには変わりありません
決着への近道を放棄するワケにはいきません、戸惑い足を止めることこそ相手の術中!」
「青山…手…取ってくれるかな」
不安そうな三奈ちゃんの呟き
顔を上げた緑谷くんは「信じてる」と言った
「青山くんは必ず戻ってくる」
「呪いになってねーといーけどな」
強すぎる自責の念は呪いとなる
それを危惧する爆豪くんだけれど、焦凍くんが緑谷くんに歩み寄った
「大丈夫だと思う、あいつはきっとなりてぇ自分を誰より見つめてきたハズだ」
その言葉を聞いた緑谷くんと飯田くんと一緒に私も頷いた
青山くんのなりたい姿それはきっと同じ境遇の緑谷くんだったんだろう
文化祭前から緑谷くんと青山くんは仲が良かった
彼はいつだって緑谷くんを見ていたはずだ
「切り替えて!行くよ!緑谷くんを中心に展開!!
雄英高校1年A組ヒーロー科!捜索隊合流!!」
止まっている時間なんてない
私たちは未来を守るために走り続けないといけない
苦しくても辛くても
仲間と一緒なら戦える
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