ヒロアカaqua


▼ 170



緑谷くんが雄英に戻ってきた2日後

寮へやってきたオールマイトが私たちへ「猶予ができた」と告げた
今はみんなコスチュームを身に纏っている

「猶予ォ!?」

「ああ、本来なら死柄木は明日にも万全の身体となるはずだった
少なくとも1週間死柄木は動けない、スターアンドストライプが遺してくれた最後の猶予だ…この時間を有効に使う、死柄木とオール・フォー・ワンを倒す」

「スターが遺してくれた…!死柄木にダメージが!?」

スターアンドストライプと言えばアメリカのNo.1ヒーロー
オールマイトの弟子とも言われている強者
そんな彼女が死柄木により亡くなったらしい
また1人犠牲者が出てしまったことに胸が痛むけれど嘆く暇はない

「アメリカの戦闘機から頂いた分析データだ
奪われた"ニューオーダー"が毒のように死柄木を蝕んだ
いくつ持っているのかは分からないが相当数の個性が損壊したと見られる」

「それじゃあ今が…」

「千載一遇のチャンス…!」

私と唄ちゃんの言葉にオールマイトは頷く

「一般人の避難も進みつつある今、早速残存ヒーロー総出で捜索を行なっている
しかし痛手を負ったオール・フォー・ワンがどう動くか…これまで以上に読み辛い、見つかっても見つからなくても結局は総力戦になるだろう
ともかく君たちには…

動けないとは言ったが…依然最凶のヴィラン 死柄木弔
同じく オール・フォー・ワン
エンデヴァーに匹敵する炎…狂気の男 荼毘
翻弄し続ける少女 トガヒミコ
残る6体のニア・ハイエンド
解放戦線の残党
そして未だ捕まることなくオール・フォー・ワンに従い暴れ回るダツゴク」

それを聞いていた障子くんが「恐らくそれだけじゃない」と告げた
何もなしにこの潜伏期間を過ごしているとは思えない

「ああ、恐らくもっと増える
対してこちら、前線に立つ者はもう半数以下に減ってしまった
スターの殉職を前にして敢えて言う、君たち自身と君たちが守りたいモノを守るためにこの猶予を使って少しでも力を底上げしてもらう」

「んなもんとっくにやっとるわぁ!!」

間髪入れずにクワッと叫んだ爆豪くん
けれど今回はみんな同じ気持ちだ
 
命懸けの戦いになることも、自分たちが前線に出ることも理解している
だから出来ることを最大限やってきた

「オールマイトとデクくんは出てっちゃったから」

「いらしてもすぐ出て行きますし」

「群訝・蛇腔以降プッシーキャッツの圧縮訓練を続けてたんです、寮内でできる範囲で」

「我々は緑谷と共に征く者…死柄木らを止めるまで戦い続ける所存」

「ショゾン!!」

子供だから、プロじゃないから…そんなの関係ない
私たちはヒーローだ、仲間を1人で戦わせるなんてこと絶対にしない

「これからかっちゃんたちが組手してくれるんです、ワン・フォー・オールを完成させてやるって」

「はああい!?言ってねーーよ!ダツゴクに耳千切られたんか!!!」

「そこは変わろうよ」

緑谷くんの耳元で大声を出す爆豪くんに呆れつつ、苦言を呈した唄ちゃん
相変わらずの幼馴染トリオを微笑ましく見ていると、爆豪くんがオールマイトを見て不敵に笑った

「俺の新境地"クラスター"が通用するか確かめてぇ、ワン・フォー・オール相手は対死柄木、オール・フォー・ワンへの1つの指標になる」

「そうだな」

私も唄ちゃんもこの間に特訓してきた、新しい技も習得しかけている
あとはそれをどこまで通用できるレベルにするかだけだ

「俺のことも殴ったりしてくれよ!」

「サンドバッグ役取られまいとしてる…!」

「俺はもっと硬くならなきゃいけねえんだよ!」

切島くんと瀬呂くんのやりとりに思わず笑ってしまう
他のみんなもオールマイトの重々しい空気を理解しているけれど誰も怯むことはない
もう怯んでなんかいられない

「スターの遺志をつないでいかねばな」

「とりあえず中庭あけとくわ」

「オイラのスターをよぉ…許せねぇクソが…」

「みんなのスターだよ」

みんなでわいわい会話しながら高みを目指す
入学以来ずっとやってきたことだけど、そんな私たちを見てオールマイトは微笑んだ




ーーーーーーー
ーーー



中庭で出てみんなで訓練を始める
流石に緑谷くんVS全員は難しいので、各々合理的な相手と組んで訓練していた

爆豪くんと緑谷くんが宙を舞い戦っている傍で意識を集中させる

私の個性は空気中の水分を操作するもの
その際に体内の水分を消耗するというデメリットもある

「(ずっと不思議だった、体内の水分はどこへ消えるんだろうかと)」

先日セントラル病院に入院した時にこの事を相談して調べてもらったら消耗した体内の水分は蒸発し、水蒸気となり空気中を漂っていることが判明した

つまり私は自分の体内の水分を核に空気中の水分を操っていたということだ
デメリットも何も消耗することで初めて発動可能となるこの個性に今は頭を悩ませている最中だった

「轟くんも…何か雰囲気が今までとは違う」

「まだ掴みかけだけどな…右と左、体は1つ…」

集中している焦凍くんだけれど無理をしているのか咳き込んでしまう
そんな彼が心配だけど今は無茶が必要な時なので止めはしない

「(集中しなきゃ)」

空気中にある自分の水分を捉えれば広範囲に存在しており、その1つ1つ全てが核になり得るということ

どれくらいの水分を操れるんだろう
その気持ちで腕を振るえば、空気中の水分が一斉に水の塊を形成した

けれどその瞬間、あまりの水分の多さに手元が狂いコントロールを失ったいくつかの塊が唄ちゃんへ向かって飛んでいってしまった

「あっ!唄ちゃん危ない!」

「え?うわあああ!!?」

慌てて避けた唄ちゃんに駆け寄る

「ご、ごめんね!大丈夫?」

「大丈夫、かすり傷だから」

そう告げた唄ちゃんはしばらく何かを考え込むように固まった後、ぱああっと顔を明るくして私の手を握った

「ありがと!雫ちゃん!!」

「え…?」

急になんのことだろうと思うけれど、彼女の頭上に浮かぶ円環を見て、新技の糸口があったのかもしれないと思うことにした

私たちのそんな様子を眺めていた休憩中の上鳴くんが隣にいる峰田くんへ語りかける

「総力戦っつってたけどさ、大将2人は今弱ってるじゃんね?
ギガントマキアも拘束して眠らせ続けてんだろ?見つかりゃ今度こそいけそーじゃね?」

その会話を聞いていた爆豪くんが呆れた目を彼に向ける

「ざっくり3点あめぇ」

「えええ…3つもあまいの…?」

「まず1、多分見つかんねぇ
これまで脳無格納庫や死柄木のアジト…研究施設は見つかってもオールマイトに敗北後、奴自身の所在は掴めたことがねぇ
逃げ隠れるなら世界一なんだよあの顔金玉は」

唐突な下ネタに響香ちゃんが爆豪くんを注意する
あんまり気にしていない他のメンバーは話を進めた

「2は、そもそも前回の死柄木が不完全な状態だった…ですわね
こちらの甚大な戦力源を鑑みると五分と言えるか…」

「それ」

百ちゃんの説明に爆豪くんも賛同する
そして彼は続けた

「んで…3、火蓋を切るタイミングは向こうが握ってる
アメリカ戦で個性"サーチ"が消えてたとしても恐らく後手は必至
だからこその今のヤケクソ人海戦術なんだよ」

「だからせめて出方を…動きを誘導できるように早速僕も捜索に出る」

「僕たちだろ」

注意した飯田くんに緑谷くんは微笑んだ
1人じゃないとわかってくれただけでも大きな成長だけれどまだまだ注意して見ておかないと心配だ

「そうだ、それで言うと…出歩いていいんだよね?」

「ある程度は麗日くんの演説を受けてヒーロー科と避難民の接触も緩和されたからな」

お茶子ちゃんは恥ずかしそうに顔を押えているけれど、彼女の演説があったからこそ避難民の不安はある程度取り除けた

「結局、追い詰めても追い詰めてもオール・フォー・ワンは笑ってんのな…」

上鳴くんの言う通りだ
オール・フォー・ワンはいつだってその顔に笑みが浮かんでいる
オールマイトがいつも笑顔で人を救けるように、彼もまた笑顔で人を殺めるのだから








prev / next



- ナノ -