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その後雄英にたどり着いた頃、緑谷くんが目を覚ました
「お、目ぇ開いた!13号!起きました!」
「ああよかった!聞こえるかい緑谷くん」
「…はい」
障子くんの背にいる緑谷くんへ声をかけるのは13号
ヘルメットを脱いでいるため素顔が露わになっているけれど、とても可愛らしい女性だと知って驚愕したのは最近のことだ
「今現在ほとんどの民間人は各地避難所に移動してくれてる
まだ外に残ってるのは脱ヒーロー派の自警団とダツゴクに乗じて暴徒と化した過激派
脱ヒーロー派も疲弊して避難所に入る人も増えてる、過激派は多くが徒党化している分動きは追いやすい
避難が進みどちらに対しても人員を割けるようになった
みんな最善を尽くして状況を変えている、外で君がしてきた人助けは他のヒーローや警察が肩代わりできる範疇にはなっている」
そびえ立つ雄英バリアを見て驚く緑谷くんは障子くんの背から降りた
「ゆ…雄…英…?」
「雄英バリア発動中、この壁も機能のごく一部に過ぎねぇって」
「システム聞いたらマジ腰抜かすよ!!士傑とガッチャンコするって!」
瀬呂くんと透ちゃんの言葉を聞きつつも、緑谷くんの表情は依然暗い
「戻るのは…ダメなんだ…」
扉に近づくにつれて聞こえてくる声
何やら中が騒がしい
私と焦凍くんはエンデヴァーとホークスと共に雄英の門の外で待機することとなった
理由は単純に避難民の人にとって私たちが不安な存在だから
緑谷くんを連れ戻すこと以外に混乱を生みたくない
外にいて、巨大な壁に挟まれていても聞こえる人々の叫び声
「その少年を雄英に入れるなー!!!!」
「噂されてる死柄木が狙った少年ってそいつだろ!!」
私たちが緑谷くんを向かえに行っている間に説得を試みたそうだけど、この様子からして上手くいかなかったようだ
「納得できるか!!できたのか!?安全だと言われたから家を空けて避難してきたのに!何故爆弾を入れるんだ!!」
「雄英じゃなくていいだろ!!匿うなら他でやれ!!」
「その少年を雄英に入れないでくれーーー!!!」
「死柄木が来る!!!」
「雄英は安心と安全を保証するんじゃなかったのか!」
「入れるな!!」
「出てってくれ!!!」
「ワン・フォー・オールってのは脳無なんだろ…!?」
あることないこと呟く人が動画サイトなんかで自分の意見を話すせいでワン・フォー・オールを誤解している人がいる
「どうして緑谷くんが…っ!!」
何もできない、傍にいることすら出来なくて不甲斐なさに眉間に皺を寄せる
そんな私の肩にエンデヴァーが手を乗せた
こうやって非難されるのはエンデヴァーたちも同じだ
どうしてヒーローがこんなに叱責されるんだろう
だたみんなを守りたいだけなのに
『皆さん落ち着いて!』
プレゼントマイクの呼びかけを聞いて静まる様子はない
けれどその後、ベストジーニストの声が聞こえてきた
「ああ!校長から説明があったように!雄英は今最も安全な場所であり、あなた方の命を第一に考えている!
我々は先手を打つべく緑谷出久を囮にヴィランの居場所を突き止める作戦を取った!
だが充分な捜査網を敷けず成果はごく僅かしか得られなかった!
緑谷出久はヴィランの狙いであると同時にこちらの最高戦力の一角!これ以上の磨耗は致命的な損失になる!
確かに最善ではない!次善に他ならない!
不安因子を快く思わない事は承知の上でこの最も安全な場所で彼を休ませてほしい!
いつでも戦えるように!彼には万全でいてもらわねばならないのです!!」
その通りだ
緑谷くんはヒーローにとって唯一の打開策であり主力
それに私たちの大切な仲間だ
けれど人々にとってはそうじゃない
「あんたら失敗したから…そもそも今日本は無法になっちまったんだぞ…んでまた失敗したからしわ寄せを受け入れろって…あんたそう言ってんだぞ!?」
「ふざけるな!それでヒーローのつもりなのか!!」
「勘弁してくれ!!俺たちはただ安心して眠らせてほしいだけだ!!」
ダメだ、不安は伝播する、止まらない
『緑谷出久は特別な力を持っています!』
その時、お茶子ちゃんの声が聞こえ顔を上げた
「だからそんな奴が休みたいからってここに来るなよって話だろうが!!」
『違う!迷惑かけないよう雄英を出て行ったんです!!連れ戻したのは私たちです!』
お茶子ちゃんはずっと緑谷くんを見てきた、入学当初からずっと
一生懸命で余裕なんてなくて…そんな彼のことを好きになった、憧れた
『彼の力は…!あの…特別で!オール・フォー・ワンに討ち勝つための力です!
だから狙われる!だから行かなきゃいけない!!
そうやって出て行った彼が今どんな姿か見えていますか!!?
この現状を1番どうにかしたいと願って、いつ襲われるかも分からない道を進む人間の姿を見てくれませんか!?
特別な力はあっても!!特別な人なんていません!!』
お茶子ちゃんの演説が始まってからはどよめくような人の声が聞こえるのみで中の状況はわからない
「っ…見たら…何だよ!?まさか…俺たちまで泥に塗れろってのかぁ!?」
『泥に塗れるのはヒーローだけです!!泥を払う暇を下さい!!
今!この場で安心させることは…ごめんなさいっ!できません!!私たちも不安だからです!!皆さんと同じ隣人なんです!
だからっ…!!力を貸して下さい!!共に明日を笑えるように…皆さんの力で!どうか!彼が隣でっ!休んで…備えることを許してくれませんか!!
緑谷出久は力の責任を全うしようとしてるだけの…まだ学ぶことが沢山ある普通の高校生なんです!!
ここを!彼の!!ヒーローアカデミアでいさせて下さい!!』
彼女の叫びに涙がこぼれた
みんな誰かのために戦っている
緑谷くんは1人なんかじゃない
その後しばらくしてからエクトプラズムが扉からこちらへ向かって歩いて来た
「聞イテイタカイ?ウラビティノ演説
入ッテ…見タ方ガイイ、大丈夫ダ、少ナクトモ今ハ」
そう言われ早足で中に入れば、そこには緑谷くんやA組のみんなに駆け寄っていく避難民の姿
「…結局俺達はデクに辛い想いをさせただけだった
何も進展のない…遠回りをさせただけだ」
静かに言葉を発したエンデヴァー
彼の隣にホークスが並ぶ
「進展ならありますよ…ここにあったんだ
ワン・フォー・オールは人々の心が紡いできた力の結晶
オールマイトが緑谷くんに繋いだ
緑谷くんをA組が繋いだ
ウラビティが人々と緑谷くんを繋いだ
そして人々が…
もしも全員が少しだけ"みんな"の事を思えたなら、きっとそこはヒーローが暇を持て余す笑っちまうくらい明るい未来です」
そんな様子を見て焦凍くんが「親父」とエンデヴァーに呼びかける
「"一緒に"だ」
燈矢くんのことは一緒に止める
それが私たちがした約束だから
私も頷いてエンデヴァーを見れば、彼は帽子を目深に被り直し「ああ」と告げる
誰かを1人でなんて戦わせない
私たちはみんなで戦うんだ、そのために仲間がいる
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