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「離れてよ…頼むから!僕は!大丈夫だから!!!」
次に緑谷くんの行手を阻むように現れたのは焦凍くんの穿天氷壁
「なんだよその面、責任が涙を許さねぇか…?その責任俺たちにも分けてくれよ」
氷壁の上から緑谷くんを見下ろす焦凍くん
そして近くのビルには梅雨ちゃんが待機している
雨が降ってきた
「行かせないわ、もうオロオロ泣いたりしない…大切だから
怖い時は震えて辛い時に涙を流す私のお友達、あなたがコミックのヒーローのようになるのなら…私たち、1人でそっちへは行かせない」
バキッとヒビが入る氷壁
緑谷くんはまだ抵抗している
「緑谷!今の状態がワン・フォー・オールの狙いかもしれねェだろ!その隙に雄英を狙ってくるかもしれねェ!!
そんなナリになるまで駆け回って見つかんねェなら次善策も頭に入れろ!!
大切な雄英を守りてぇってんなら!離れず側にいるって選択肢もあるだろ!!俺たちも一緒に戦わせろ!!!!」
焦凍くんが必死に叫ぶけれど緑谷くんはどんどん氷を割っていく
「…できないよ…これはワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンの戦いだから…みんなは…ついてこれない!!!」
そう叫ぶ緑谷くんの声を聞いた時、唄ちゃんは目にも止まらぬ速さで彼の前に飛んだ
「ついてこれない…?誰に言ってるの?」
氷壁から飛び出そうとした彼に羽を打ち込み拘束した唄ちゃんは真っ直ぐ彼を見つめる
「唄…ちゃん…っ」
「出久…あなたが私たちを心配なように、大切なように…私達もあなたが心配なの!大切なの!!
お願いだからいなくならないで、守らせて!!」
「ダメだ…みんなには関係ない!!」
「関係なくない!!出久が言ったんでしょ…"唄ちゃんは僕のヒーローだよ"って
あの言葉が嬉しくて、どんどん遠ざかる出久たちに追いつきたくて私はいまここにいる
もうあなたの後ろにいる女の子じゃないんだよ…私は出久と同じ、困ってる人を救けるヒーローだよ!!」
直後、黒鞭で唄ちゃんを押し除け目にも止まらぬ速さで飛び出した緑谷くん
唄ちゃんの悲しそうな表情に心が痛んだ
「緑谷ちゃん!!!」
緑谷くんに迫る梅雨ちゃんの舌
それを避けた緑谷くんの体に峰田くんのもぎもぎがくっつく
「おまえのパワーがカッケェなんてオイラ思ったことねぇや!
オイラが惚れたお前は冷や汗ダラダラで!プルプル震えて!一緒に道を切り拓いた…あん時のお前だ!!!」
けれど峰田くんもすぐに黒鞭で押し退けられてしまった
「ごめん…峰田くん…!僕はもう…」
黒鞭を2本使い、ぐぐっと身を引く緑谷くん
ゴムのように撓った黒鞭を利用して遠くへ一気に飛ぶつもりだ
「行かせてたまるか!!デクくん!!あん時とはちゃう…私わっ!!」
お茶子ちゃんが触れる前に飛び出した緑谷くんがどんどん離れて行く
「みんなぁ!!!」
「みんなどいて!!」
お茶子ちゃんが声を上げると同時に、持てる最大限の力を込めて創り上げた氷の発射台
その上に飯田くんを先頭に、彼を掴む爆豪くんと、爆豪くんへ背を向ける焦凍くんが待機する
「溶解度0.1%保護被膜用アシッドマン!」
飯田くんを包む美奈ちゃんの酸
「行け轟!!!」
グッと押し出された焦凍くんは体育祭で緑谷くんとの試合に見せた膨冷熱波を使い加速し飛び出して行く
彼に押し出される形で爆豪くんと飯田くんも空へ飛び上がった
飛んでいく途中でお茶子ちゃんが触れたことにより彼らは無重力状態になる
「爆速ターボ…"クラスター"!!!!!」
爆豪くんの新技が放たれ、2人は急加速し緑谷くんに迫っていく
爆豪くんに押し出された飯田くんが緑谷くんの手を掴んだ
「君はいつだって俺の先を行く…!だから…だから俺はいつだって…君に挑戦するんだ!!!」
追いつかれたことに目を見開く緑谷くん
「そんな…だめだ…離して…!」
「離さない!どこへでも駆けつけ迷子の手を引くのがインゲニウムだ…余計なお世話ってのはヒーローの本質なんだろ!」
唄ちゃんが切島くんを連れて落下地点へ向かったのを見て私たちも一斉に駆けつけた
みんな必死だった、緑谷くんを取り戻したくて、彼を失いたくなくて一生懸命だった
「緑谷…!もう誰かがいなくなんの嫌だよ
一緒にいよう!?またみんなで授業受けよう!」
美奈ちゃんの思いを聞いて緑谷くんは立ち上がる
もうフラフラなのにそれでも曲げないその姿に胸が痛む
「そう…したいよ…けど…恐いんだ…!雄英には…!沢山の人がいて…!他人に迷惑かけたくないんだ…!」
「どうして…出久…もういいの…お願い、聞いて…」
唄ちゃんが伸ばした手を緑谷くんが弾いた
「もう…今まで通りじゃいられないんだ」
唄ちゃんの目から涙が溢れ出す
その時、緑谷くんの前に出たのは爆豪くんだった
「死柄木にぶっ刺された時言ったこと覚えてっか?」
「…覚えてない」
「"一人で勝とうとしてんじゃねェ"だ、続きがあるんだよ…
身体が勝手に動いてぶっ刺されて…!言わなきゃって思ったんだ」
2人が向かい合う
「てめェをずっと見下してた…無個性だったから…俺より遥か後ろにいるハズなのに俺より遥か先にいるような気がして嫌だった
見たくなかった、認めたくなかった…だから遠ざけたくて虐めてた
否定することで優位に立とうとしてたんだ、俺はずっと敗けてた…
雄英入って思い通りに行くことなんて1つもなかった、てめェの強さと自分の弱さを理解してく日々だった…
言ってどうにかなるもんじゃねェけど本音だ…出久、今までごめん」
頭を下げる爆豪くんの姿にみんなが黙ったままその光景を見つめた
「ワン・フォー・オールを継いだお前の歩みは理想そのもので何も間違ってねぇよ
けど今お前はフラフラだ、理想だけじゃ超えられねぇ壁がある
お前が拭えねぇもんは俺たちが拭う、理想を超えるためにお前も雄英の避難民も街の人ももれなく救けて勝つんだ」
「"ついてこれない"…なんて…"ついてこれない"なんて酷い事…言って…ごめん…」
そう告げながらぐらりと倒れる緑谷くんの身体を爆豪くんが支えた
「わーってる」
意識を失ったようでだらんとしている緑谷くん
唄ちゃんがすぐに駆け寄り容態を診るけれど疲労によるもので怪我を負っている様子はないとのこと
「うん、大丈夫…おかえり、出久」
その光景を見ていた百ちゃんがホッとしたような様子を見せた
「とりあえず第一関門はクリア…ですわね」
「そうだね」
そう、これはまだ前半に過ぎない
「ここからはより険しいですわ」
今から緑谷くんを連れ帰るのは避難民のいる雄英
それを理解しているからこそ、傍にいたお茶子ちゃんは「うん」と決心したように頷いた
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