ヒロアカaqua


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4月中旬



エンデヴァーの指示の下、私たちA組は緑谷くんを連れ戻すため動いていた
唄ちゃんの手元の端末には緑谷くんに付けられたGPSが彼の居場所を示している

そこはグラウンドゼロ…神野だ

ここでオールマイトが終わってしまった
私が終わらせてしまった

「近くにいる」

唄ちゃんがそう告げると爆豪くんが飛び出す
他の面々も続いて駆け出した

チャンスは一度きり
きっとここで失敗すれば緑谷くんは本当に帰ってこないだろう

だからA組みんなで考えた
考えて考えて…ようやくこの日が来た


前方には一般市民が何かを取り囲んでいる様子
そしてその中に身を隠すヴィランの姿
おそらくダツゴクの1人だろう

「クソがっ」

上空から爆豪くんのA・P・ショットが放たれ、ヴィランのみに直撃する

「いたぞてめェら」

その言葉を合図に全員がその場に集まった
取り囲まれていた中心にいたのはボロボロの姿の緑谷くん
ずっと1人でヴィランと戦っていた彼はとてもヒーローには見えない風貌をしていた

「ダツゴク確保!やりましたねバクゴーさん!」

焦凍くんの氷結で拘束されたヴィラン
百ちゃんが勝己に話しかけるけれど、爆豪くんがキッ!と彼女を睨みつけた

「大・爆・殺・神ダイナマイトじゃ!」

「失礼しましたわ!」

「いや、ヤオモモ悪くないって…長いし」

呆れた表情の唄ちゃん
初めてヒーロー名を聞いた時はネーミングセンスを疑った

「(まあ元が爆殺王とか爆殺卿だったもんね…)」

ヴィランに操られていた人々が解放され逃げ惑う
今の市民にとってヒーローはヴィラン同様恐怖の対象でしかないということがわかるような逃げ方の中、緑谷くんがこちらを見て驚愕していた

「みんな…何で…」

「心配だからだよ」

「僕は大丈夫だよ…だから…心配しないで…離れて…」

先ほど取り囲まれた際に落としたコスチュームのマスクを拾い、被り直した緑谷くんに爆豪くんが笑い声をあげた

「そいつぁよかった!さすがワン・フォー・オール継承者様だぜ!
ンでてめェーは今笑えてんのかよ?」

いつだって笑顔で助けるオールマイトのようなヒーローになりたい
そう言っていた彼は今まったく笑えていない

しばらく黙り込んでからユラリと立ち上がった緑谷くんの体が緑色の光を放つ

「笑うために…安心してもらうために…行かなきゃ……だから…どいてよ、みんな…!!」

ワン・フォー・オールを発動させたところから見てここを強行突破するつもりなんだろう、私たちを全員振り払って

「どかせてみろよオールマイト気取りが!!!」

「君が変わらないのは知ってる…やるぞ諸君!」

「うん!」

飯田くんの掛け声に全員が頷く
緑谷くんの体からは黒鞭が出ており、常時出しっぱなしの状態のそれはヒーローというよりもヴィランに近い風貌だ

「聞いたぜ!四・六代目も解禁したって!
すっかり画風が変わっちまったなぁ!?クソナード!!」

「…ありがとう…来てくれて…」

感謝の言葉の直後、緑谷くんが放ったのは煙幕

「てめーら絶対逃すなよ!!」

「言われなくても!!!」

爆豪くんが爆風地雷で煙幕を吹き飛ばす
そこには緑谷くんの姿はなく、上空へと高く跳び上がっている

「話もしねーでトンズラか!何でもかんでもやりゃできるよーになると、周りがモブに見えちまうなぁ!?」

爆豪くんがそう叫ぶと同時に宙にいる緑谷くんに襲いかかる鳩、口田くんの個性だ

「戻ってきて大丈夫だって!!緑谷くん!!
校長先生が戻っておいでって!!ね!?だから逃げないで!!」

口田くんが大声で呼びかける
ずっと小声だった彼は友達のために必死で…そんな姿に緑谷くんは顔を歪めた

「ごめん」

逃げようとした緑谷くんの黒鞭を捕らえたのは瀬呂くんのテープ

「黒鞭垂らしっぱにしてんのコエーよ、警戒するわ!」

引き止められている緑谷くんへ響香ちゃんのハートビートウォールが迫るけれど素早く避けられてしまう

「はっや…緑谷ぁ!どーでもいーことなんだけどさ!
文化祭の時にノートのまとめ方教えてくれたのかなり助かったんだよね!
些細なことだけど…すっごい嬉しかったんだよね!!」

ビルへ飛び移ろうとした緑谷くんを尾白くんが尾空旋舞で掴む

「緑谷!おまえだけがボロボロになって戦うなんて見過ごせない!」

「僕がいると…みんなが危険なんだ…!
オール・フォー・ワンに奪われる…!だから離れたんだ…!!!」

拘束を力ずくで解く緑谷くんに常闇くんが突っ込んだ

「押せ!ダークシャドウ!!」

そしてビルへ押し込まれた緑谷くん
宙にいる響香ちゃんと尾白くんを砂糖くんが回収し信号機の上へ着地
緑谷くんが押し込まれたビル目掛け叫んだ

「緑谷聞いてくれ!おまえは特別な力持ってっけど気持ちは俺らも同じだ!
さっき口田の言った学校の方の話もさ!!聞いてくれ!
でなきゃもうエリちゃんにリンゴアメ作る時食紅貸してやんねー!!」

「いいよ…エリちゃんだって…僕からじゃなくて…いいよ…!」

ビルに押し込まれた緑谷くんを拘束する装置
それを創造した百ちゃんが姿を見せる

「初めは一同あなたについて行くつもりでした…今はエンデヴァーたちと協力のもと個性を行使しています、緑谷さんの安全を確保するという任務で」

「もう……かまわなくて…いいから…!僕から離れてよ!」

頭突きで装置を壊し、拘束を降り解く緑谷くんの肩を組んだのは上鳴くん

「やなこった!緑谷!ワン・フォー・オールだかも大事だと思うけど、今のお前にはもっと大事なもんがあるぜ!
全然趣味とか違げーけどお前は友達だ!だから無理くりにでもやらせてもらう!!」

ぐるりと上鳴くんと緑谷くんごと巻かれた布
障子くんがそれを引っ張る

「絶縁テープを巻いてある…八百万産のな
"このメンツならオールマイトだって恐くない"…合宿襲撃時にお前が言った台詞だ」

「ここは暗くて良い…ダークシャドウ」

絶縁テープの上からダークシャドウが更に覆う

「ダークシャドウの攻撃力を"防"に利用するのはお前のアイデアだったっけな緑谷」

「お前にとって俺たちは庇護対象でしかないのか?」

「とりあえず風呂入ろな!?緑谷風呂行こ!!」

これで緑谷くんは封じられた
上鳴くんがいる以上放電されれば終わりだ

「うう…!うあああああ!!!!」

それなのに緑谷くんは彼らを振り解きビルから跳び出してくる
その姿を見てぐっと腕に力を込めた

「ううう…!やめてくれよ!!」

「嫌だよ!!」

腕を振るって生み出した渦潮が緑谷くんを囲む

「緑谷くん!!キミが私に言ったこと覚えてる?
"そっちの方がいいよ"って…あの言葉があったから私は変われた!」

私がまだ自分を取り繕っていた頃、それを取っ払うきっかけになったのは緑谷くんの言葉だ

「だから今度は私が言う番、今のキミはキミらしくない!いつもの緑谷くんの方が断然いいよ!!」

余裕なんてなくて、誰かのために必死で、いつも一生懸命なそんな彼に救われる人達を見て来た
私もそうなりたいと憧れた
ヒーローとして目標がブレていた私はオールマイトのように、緑谷くんのようになりたいとそう思った

「僕らしいなんて…そんなこと知らないじゃないか!!」

「っ、知ってるよ!ずっと一緒にいたからわかるよ!!
私はキミみたいなヒーローになりたくて…ずっと尊敬していたんだからわかるに決まってる!!」

いつも一緒だったんだから分かる
そう叫ぶも、渦潮を相殺した彼は再び跳び出した








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