ヒロアカaqua


▼ 162



エンデヴァーたちの謝罪会見の日の晩

今回の戦争で亡くなったヒーローたちの葬儀が行われた
あまりにも人数が多すぎたことと、世間が大混乱の渦中ということから、葬儀自体は親族や共に戦ったヒーローのみの参加となった

セントラル病院の大ホールにずらりと並ぶ遺影
そこにはギルティルージュやミッドナイトなどの姿もあった

A組の生徒は一塊になって葬儀の様子を見守った
まだ目を覚さない緑谷くんと絶対安静の爆豪くんを除く20人
啜り泣く人、必死に涙を堪える人、みんな様々な様子だ

唄ちゃんはただ呆然と…心ここにあらずと言った様子でギルティルージュを遺影を見つめていた

「それじゃあ俺たちは先に雄英に戻ってるな」

葬儀が終わり次第、入院していないメンバーは寮へ戻ることになっていたのでみんなを見送る為ロビーに来ていた
謝罪会見をしたものの、外にはまだ報道陣が押し掛けているのでここでそっと見送らせてもらう
会見でエンデヴァーが水鞠のことを話したのと、以前死柄木に拉致されたこともあり世間に私の顔は知れ渡っている
それに人によれば私は脅威と思われても仕方がない

「ああ、俺たちもすぐ戻る」

生徒の中で重傷である爆豪くん、焦凍くん、唄ちゃん、私…そして依然目を覚さない緑谷くんの5人はここに残る

「舞羽、安静にだからね!」

「うん、わかってる」

念押しする響香ちゃんに笑う唄ちゃん
その表情が無理をしているように見えたので響香ちゃんは不安そうな顔をした
一部始終を見ていた百ちゃんが唄ちゃんのことを頼むと告げたので頷く

A組の面々と別れた後
焦凍くんは検査のため看護師さんに連れて行かれ、唄ちゃんと2人になる

「何だか話すの久しぶりだね」

そう話しかけてきた唄ちゃんに頷いた

「あの日の朝以来かな…ね、唄ちゃんちょっとお話しない?」

「うん、私も話があるんだ」

2人で向かったのは私の病室
唄ちゃんの部屋でいいと言ったんだけれど、比較的重傷の私のことを気遣ってくれたようだ
ベッドに座ってから椅子に腰掛ける唄ちゃんに目を向けた

「覚えてる?帰ったら話聞かせてねって言ったこと」

「覚えてる…どっちから話そうか?」

「じゃあ先に唄ちゃんの話を聞いてもいいかな?」

唄ちゃんがみんなに話したことはお茶子ちゃんから聞いていたけれど、ちゃんと彼女の口から聞きたかった
だから一から説明する彼女の言葉を遮ることなくただじっと黙って耳を傾けた

「それで…ギガントマキアに捕まれ投げられた…あとは雫ちゃんも知ってる通りだよ」

話し終えた唄ちゃん

大切な人を失って、それでも必死にヒーローとして行動した彼女がこんなにも傷つかなきゃいけない理由が何なのかわからない
みんな必死だった、全力だった…それでも敗けた

「話してくれてありがとう」

「うん…」

「生きててくれてありがとう」

「っ、うん…!」

唄ちゃんは自分が生き残ってしまったことに罪悪感を感じていると、そう思った
だから変なことを考えていないか心配だった
けれどその心配はないらしい、彼女は守ってもらった命を受け入れようとしている

「唄ちゃん、ゆっくり…ゆっくりでいいから…無理に前を向こうとしなくていいんだよ」

「う…ん…っ!!」

ぼろぼろと溢れる涙を拭う唄ちゃんを見て私もつられ同じように泣いた
ひとしきり泣いた後、2人で互いの腫れた目を見て少し笑い合い、今度は私の話になる

蛇腔側で起こったこと
死柄木の起こした崩壊で街が一瞬で無に帰したこと
相澤先生がリューキュウが、エンデヴァーが必死に戦ったこと

緑谷くんを庇うために爆豪くんが重傷を負ったことは知らなかったようで、唄ちゃんは驚いたように目を丸くしていた
緑谷くんが重傷なのは私たちを守って死柄木と空中戦を繰り広げたからだ
彼女の大切な幼馴染たちを守れなかったことを謝罪すれば、彼女は慌てて「雫ちゃんが無事でよかった」と言ってくれた

「…荼毘の告発は観た?」

その問いかけにコクリと頷いた唄ちゃん

「私ね、水鞠雫っていう名前なんだって」

「水鞠…」

まだ自分が何者なのかはわからない

「会見でエンデヴァーは言わなかったけれど、荼毘…燈矢くんと私が許嫁だったんだって」

「えっ…」

唄ちゃんが動揺するのも無理はない
だって私もまだ動揺しているんだから

「ずっと両親のためにヒーローになりたいって…そう思ってた
小さい頃からの訓練も耐えてこれたのはそのおかげ…今思えばお父さんは私が水鞠の生き残りだって知ってたんだと思う
だから自分の力を制御する術を教えてくれたんだって…
でもそんな大好きな両親が本物の親じゃないって聞かされて、本当の両親はもう死んでて…
しかも許嫁は別の人…正直自分で自分のことがわからなくなったんだ…私は一体誰なんだろう、何のために生きてるんだろうって」

ずっと信じていたものが"偽物"だった
私が思っている以上に全ては繋がっていた

誰かに決められる人生なんて嫌だと、中学の入学の日にエンデヴァーに会ってそう思ったはずなのに
ずっとずっと…私は自分で選択してきたと思っていたけれど、それが全て偽物だった
正直ショックは大きかったけれど、エンデヴァーから聞いた水鞠の話に出てくるお父さんがあまりにもなりたい自分と一緒で…気がつかされた

「私がなりたい姿って唄ちゃんみたいに真っ直ぐで素直で誰かのために一生懸命な人なんだ」

「私…?」

「そう、そんな唄ちゃんと水鞠のお父さんはそっくりだってエンデヴァーは教えてくれたの
だから記憶はなくてもここは覚えてるんだ、って…そう思えた…お父さんはここに生きているって」

自分の心臓辺りに触れて思い出せない父親に思いを馳せる
私を守ってくれた本当の父親、私の生き方を決めてしまったそんな父親を

「水鞠の両親からもらったこの力で海色の両親のことを守る…それが私の…海色雫として決めたこと」

そう告げれば、唄ちゃんは一瞬黙り込んでから大きく頷いた

「うん…絶対守ろう…!雫ちゃんの両親も轟くんも、みんなも…一緒に守ろう!」

ほら、やっぱり唄ちゃんはすごい
彼女にそう言われただけで本当にできてしまうような気持ちになるんだから

いつだって私の憧れは彼女だ

「それとね、私がなりたい姿は雫ちゃんみたいに強くて勇敢で誰かを救けられるそんな人だよ」

そう言った唄ちゃんの言葉が嬉しくて、頬が緩んだ
私たちは似た者同士だけれど互いに憧れている
自分以上に相手のことを見ている

他の人よりもずっとずっと強い絆
交わることはないけれど、互いに見つめ合う…そんな空と海のような関係だ








prev / next



- ナノ -