ヒロアカaqua


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『水鞠家のこともわかったところで…エンデヴァーさん、外は今地獄です』

「…ああ」

ホークスの言う通りだ、病院に押しかけ説明を求める人々は私の病室からも見えていた

『死柄木、荼毘、トガヒミコ、スピナー、スケプティック
逃走した解放戦線構成員132名、そして7匹の脳無ニア・ハイエンド…全て行方不明

更に死柄木と脳無によりタルタロス他6ヶ所の刑務所が破られ少なくとも1万以上の受刑者が野に放たれました
ヒーロー公安委員会の中枢メンバーが死亡および重傷、ヒーローをまとめる機能が失われています
風向きの悪さを察したヒーローたちが今も続々と辞職中
ヴィランの活性化が進みヒーローを信じきれなくなった一般市民が武器を手に取り戦うことで被害が被害を呼ぶような状況
現在政府は各国から救助隊・ヒーローの要請をしていますが公安の停止によりヒーローの派遣手続きが滞っています

これがわずか2日間で起きています、奥さんの仰った通りあなたは戦う他に道はありません
そして俺たちもです!此度の責任No.1だけのモノじゃない、ご家庭だけで占有しないでいただきたい!』

「なぜ…何を…」

ホークスはにこりと微笑んだ
手元のスマホを操作し、文字を打ち込み言葉を発する

『てなワケでこっからはトップ3のチームアップです!』

「私は元よりホークスに命をベットした身、地獄の花道、ランウェイなら歩き慣れている」

『ホラ、俺らとご家族、少しは肩も軽くなって立って歩ける気ィしません?』

「…ああ…っ!!」

「燈矢兄を…止めるまでだから」

「ああ…!!」

涙を流すエンデヴァー
その姿に私がどの立場なのか分からなくて少し戸惑っていると、冷さんが手を握ってくれた

「焦凍の彼女であるアナタも家族同然のように思ってる…一緒に戦ってくれる?」

「っ、勿論です!」

「ありがとう」

微笑んだ冷さんの表情は焦凍くんが微笑む表情とよく似ていた

『早速ですが、まず皆々様への説明責任!荼毘の告発を受けた以上避けて通れません
ざっくりと答弁内容考えてたんスけど1つ不明瞭な要素が…"ワン・フォー・オール"って何なんですかね?』

そう言えば無線でその単語は聞こえた
それを聞いてから緑谷くんと爆豪くんは飛び出した

『ワン・フォー・オール…我々はそれの正体を知らなきゃいけません』

しばらく考え込んだエンデヴァーは思い当たる節があったのかポツリと「…デク…?」と告げた
その後ホークスとベストジーニストは部屋を出て行き、焦凍くんと私も自分の部屋に戻るためエンデヴァーの病室から出た
冷さんたちもこの後雄英に避難するらしい

「怪我は大丈夫か?」

掠れた声の焦凍くんに頷く
どう見ても彼の方が重傷だ

「焦凍くんこそひどい怪我だよ…動いて大丈夫なの?」

「ああ」

先ほどの公開プロポーズがあったせいか、どこかぎこちない私たち
そうこうしている内に私の病室の前に着いてしまったのでここでお別れだ

「それじゃ「なあ」

言葉を遮るように声を発した焦凍くんは私をまっすぐ見つめる

「記憶って思い出したのか?」

「ううん…エンデヴァーから話を聞いても全然…まるで他人の話のようで実感がないの」

燈矢くんのあの口ぶりからして私はどこかで彼と出会っている
それを思い出したいのに記憶の蓋はびくともしない

「ちゃんと思い出さなきゃ…」

私が水鞠雫だった頃のことを

「雫」

名前を呼ばれたと理解した時、焦凍くんの唇が私の唇と触れ合っていた

「さっきも言ったが、燈矢兄にはやらねぇからな…お前は俺のだ」

「ちょ、ここ廊下…!」

幸い人通りはないけれど誰かに見られでもしたらと慌てる私を見て焦凍くんは満足そうに微笑んだ

「照れてんの可愛いな」

「追い討ちやめて!」





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ーーー




翌日

事件から3日が経ったけれどパニックは収まらない
不安が伝染していた、けれど皆が皆ただ責め立てたいワケじゃなかったと思う
清廉潔白であってくれ、間違いなど犯してないと言ってくれ、不安だから安心させてくれ
すがるような想いがあったのだと思う

『真実です、お詫びの申し上げようもございません』

エンデヴァーは自身の…家族の悍しい過去を滔々と語った
荼毘の告発の中には私のことはなかった、けれど水鞠のことも含め彼は説明した

『真実と仰りましたがホークスとベストジーニストは事実と異なるようですが…!』

『ジーニストさん殺害は潜入のための工作であり告発の全てを覆すものではありません
父の件も逃げるヴィランを刺し殺したのも事実です、父について隠していたことにつきまして謝罪申し上げます
分倍河原の件に関しましてはああするより他になかったと考えております、彼に個性を発動されていれば被害想定は今の比じゃありませんでした
彼に罪を償わせることができなかったのは私の不徳と致すところであり残念に思います』

いつだったか、ヒーローは完璧でいなきゃならないことを死柄木は疑問視していた
まさにそれが現実になっている

『よろしいでしょうか?ギガントマキアの縦断によって私の母は重傷を負いました
「全て事実でしたすみません」じゃ取り返しのつかない事態なんですよ!
あるヒーローインターン生の活躍により被害は最小限に抑えられたのは事実です
しかし、この1週間弱でどれだけの人が住む家を失ったかご存知ですか!?なぜそんな澄ました顔でいられるんですか!?
やったのはヴィラン!!しかし!己の過ちがそうさせたのだとわかっている顔には見えませんが!!』

唄ちゃんの功績により命は救えたが建物はどうにもならない
マスメディアでも不安を感じているのは人々と同じなんだろう

『憔悴した顔で泣いていれば取り返しがつきますか?』

『はあ!?つくわきゃねーだろ!社会の不安を取り除け!!ヴィランを全部片付けろ!!それが…それが…』

『仰る通りです、それが今エンデヴァーに出来る償いです』

落ち着いた様子でそう語るエンデヴァーの様子は昨日病室で涙を流していた人とは別人のように見えた

『とはいえヒーローも減ってしまった今、全ての人々を守るのは困難です…つきましては守るべき範囲を削減します』

『何を…!?どういうつもりで…!!』

『政府との相談の上、本日より雄英をはじめとした広大な敷地と十分なセキュリティを持つヒーロー科の学校を指定避難所として開いていただく運びとなりました、既に学生の家族には避難を進めてもらっています』

『先の見えない避難所生活なんて…納得できるか!!』

上がった反対意見を制すようにエンデヴァーは口を開いた

『先を見るためです…非難も不安も…私だけに向けて欲しい、これから命を張る者たちにではなく!!

みんなで俺を見ていてくれ』

ヒーローが篩に掛けられた
人々から求められる者をヒーローだと言うならば、あの日ヒーローは消えた
それでもまだ立ち上がる人はいる

エンデヴァーは"ワン・フォー・オール"について聞かれ「わからない」と答えた








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