ヒロアカaqua


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雄英高校に入学し、ヒーローを目指していた頃、そいつと出会った

水鞠流人
普通科に属するそいつは一度校内で助けたことを境にことある度に俺に付き纏うようになった

「友達になってよ!」

「断る」

面倒な奴に好かれたと後悔した
しかし何度断っても折れない流人に次第にこちらが折れる形で友人となった
馴れ合いは好かん、だから友と呼べる者は流人ただ1人だったように思う




卒業し燈矢や冬美が生まれまだ家も平和だった頃、流人が結婚した
久々に会ったあいつは酒を飲みながら上機嫌に話していた

「炎司、キミはずっと親友だよ」

「何だ急に、気持ち悪い」

流人は大手企業で働いているようで順風満帆な人生を送っているようだった
水鞠家は水系個性の中でも一目置かれるほどの強い力を持つため鍛えればヒーローになれただろうに平凡な道を選択したかったらしい

「辛辣だなあ、そのまんまの意味さ
将来子供ができた時、女の子ならキミのような男と結婚してくれると嬉しいよ」

「やめてくれ、俺は妻子持ちだぞ」

「ははっ、じゃあ今のうちに燈矢くんの予約しておこうかな、勿論男の子だったら冬美ちゃんで」

「飲み過ぎだ、良い加減にしろ」

「冗談なんかじゃないさ、いつだってキミを信じてる勿論キミの子供もね
あとキミの未来が明るいってことも!」

そう告げた流人に珍しく俺も口角が上がった




その数年後、家が狂っていく中
焦凍が産まれたと同じ年に流人にも子供が産まれた

だがあの頃の俺は燈矢のことを避け、焦凍に逃げていたこともあり流人と会うのを躊躇っていた
そんなある日、流人が家に来た
思えばあれは壊れて行く俺たち家族を止めに来たのかもしれない

「はじめまして、雫です」

流人の傍で俺を見上げるその姿は流人そっくりだった
焦凍と同じ5歳であるはずなのに随分しっかりしているように思えた雫の目を見ているのが居心地悪く逸らしたのを覚えている

流人と2人で話している間、雫は庭で自由に遊んでいた
話したのは他愛もないことばかりだった…自分で家族を追い込んでいるくせに流人と話している間は昔に戻れた気がして心が軽くなっていく

「…流人、許嫁の話覚えてるか?」

「ああ、懐かしいね」

「お前が嫌じゃなければ…燈矢と許嫁にしてやっても構わない」

その言葉に流人は驚いたような顔をしてから笑った

「燈矢くんなら安心だ」

流人は燈矢が不安定なことを知らない
ただ何の根拠もないが雫が燈矢を救うようなそんな気がして許嫁の話を受けた




水鞠家がヴィランにより襲撃されたと聞いたのはその数日後のことだった

水鞠家は大きな屋敷を構えており、そこに流人も暮らしていた
一族が有する個性は強大であり、ヒーローも数多く排出している
ヴィランはそれを目につけ、襲撃したらしい

水鞠のヒーローも応戦したが、ヴィランがあまりにも狡猾で用意周到だったこと、個性が雷系だったこともあり防戦に回るしかなかった水鞠はすぐに壊滅した
俺がたどり着いた時にはもう全員が惨殺された後だった、別のヴィランと交戦中だった為遅れたのだ
それはオールマイトも同様でヒーローが駆けつけるよりも早く、水鞠家は消失した

後に捕らえられた首謀者のヴィランに聞いた話によると、ヒーローを他のヴィランに宛てがい到着を遅らせることも計算済みだったらしい

「流人!!」

変わり果てた屋敷の中で今にも息絶えそうな流人を見つけた

「しっかりしろ!」

「…え…んじ……」

流人が指差した先には押し入れ

「雫…を…」

まさかと思い押し入れを開けば、倒れ込む雫の姿があった
雫の存在を悟られることなく耐え凌げたんだろう、見たところ怪我はない
昔から自分ではなく誰かのために動く奴だった流人らしいが、俺は親友のその行動に涙を流した

「流人…お前ってやつは…!いつもそうだ、自分よりも誰かを優先する!!」

「雫…は…ぼ、くの…たか…らだ…」

「ああ…わかってる…必ず守る…約束する!!」

それを聞いた流人は少しだけ口角を上げ頷いた
もう目は虚になっており、聴覚だけが残っているような状態だろう
誰が見ても手遅れなのは明白だった
流人の腹には大きな穴が空いている、致命傷だ

「お前は俺の親友だ…これからもずっとお前だけは…ッ!!!」

どこまで聞こえたのかは分からないが唯一の友へ思いを告げる
そして流人は死んだ、娘を守り抜いて




間に合わなかった

救えなかった

残された雫を通し流人の面影を見て悔やんだ


その後、すぐに病院に運んだ雫は目を覚ましたが、流人が殺される瞬間を押し入れの中から見ていたショックで記憶を失っていると知った
流人の娘であるため引き取ることも考えたが、結局は病院と児童保護施設に依頼し類似個性の家に預けるよう依頼した
許嫁にすると約束していたが、記憶がない雫にそれを強要するのは気が引ける
せめて真実を知らぬ所で平和に暮らしてくれれば…あの時は確かにそう思っていた

その後俺にも行先は知らされぬまま、雫は海色に引き取られた
何も知らずそこにいることが当たり前のように生きていって、平和に健やかに生きてほしいと願った
それでよかったんだ、よかったはずだったんだ

それなのに、その後燈矢を失ったことでより一層欲望に取り憑かれた俺は焦凍に執着していく
焦凍は俺を超え、オールマイトをも超える

そんな焦凍と水鞠の強力な個性を使う雫が子を成せば更に盤石だという考えが過ってしまった
だから俺は親友の形見さえ利用した




「キミには焦凍の子を産んでもらう、それが理由だ」

成長した雫を見た時、流人への罪悪感なんて無くて…そこにあったのは利用価値があるという邪な思いだった




ーーーーーーー
ーーー





エンデヴァーから語られた過去の話
やっぱり来て正解だった

『焦凍くんの許嫁にするためにわざわざ海色家を探し当てたんですか?』

「ああ、そうだ
水鞠一族事件の後、水系個性持ちが狙われた事件が相次いだだろう
あの時に海色凪…今の雫の父親とは面識があった
虱潰しに水鞠の類似個性の家を調べて行く中で海色にたどり着き、街中で雫の姿を見た途端確信した
その目の色も髪の色も顔つきも何もかもが流人そっくりだったからな」

黙って話を聞いていた私の隣で焦凍くんが眉間にシワを寄せる

「結局雫を利用した…どれだけ綺麗事を並べてもそれは変わんねぇし許すつもりもねぇ」

軽蔑を含むその言葉にエンデヴァーは頷いた

「ああ…許されない罪だ…何とでも言ってくれ」

エンデヴァーは私を見つめた、どんな叱責も受け止めるつもりなんだろう
しばらく黙っていた私はゆっくり口を開く

「……お父さんは…どんな人でしたか」

正直まだ受け入れたわけじゃない
ただ、私が知らないところで私を守るために命を落とした人がいる
いつまでも知らないままじゃいられない

「…流人は…明るくて素直で…いつも誰かのために一生懸命な奴だった」

それを聞いて、まるで唄ちゃんのような人だと思い目を伏せた
私がなりたい姿はもしかするとお父さんだったのかもしれない
記憶はなくても心に刻まれているその姿を求めていたのかもしれない…そう思うと思いの外ストンと腑に落ちた

「利用価値があると思ったこと、親友の娘だと気にかけてくれたこと…どちらも本心でしょう
それならそうと胸を張って下さい、私は貴方を責めていません」

「雫…」

「でも、誰が何と言おうと私は海色雫です
水鞠の両親のおかげでもらった個性を、海色の両親のために使います」

血の繋がりがなくても海色の両親は大切で掛け替えのない存在、私がヒーローを目指す原点
もうそこは揺るぎようはない

「それと…荼毘…燈矢くんが私の許嫁…それが父の遺言なんですよね?」

「ああ」

「なら焦凍くんとの許嫁の話はなかったことにして下さい」

「っ、おい!」

口を挟もうとする焦凍くんを制すように頭を下げる

「どうか焦凍くんを解放してあげて下さい…お願いします…!!」

私の親とエンデヴァーが双方望んだのは燈矢くんと私の許嫁関係だ
焦凍くんは関係ない、こんなことに巻き込む必要はない

「ああ…わかっ」

エンデヴァーが言葉を紡ごうとする
しかし、今度こそ焦凍くんが先に口を開いた

「勝手に決めんな!確かに俺は許嫁だからお前といるんじゃねぇ…けど好きなやつをみすみす手放すつもりも毛頭ねェよ、他の奴の許嫁にするなんて納得いかねぇ
雫と付き合ってんのは俺だ、将来も考えてる…俺の気持ちを無視して勝手に決めんな」

焦凍くんがそう言い切ったことで場の空気が一変する
エンデヴァーはぽかんと呆気に取られ、冷さんは口を押さえ私と焦凍くんを交互に見ている
冬美さんと夏雄さんもぎょっとして焦凍くんを凝視しており、ベストジーニストは何故か頷いていた

『ヒュー、焦凍くん公開プロポーズとはやるねぇ!』

茶化すホークスのおかげで真っ赤になった私は何も言えずに俯くことで焦凍くんから目を逸らした








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