ヒロアカaqua


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燈矢は"氷結"を宿しはしなかったが俺以上の火力を有していた
熱が篭るというデメリットを打ち消せる子ではなかったが俺はこの子をヒーローに育てようとしていた

その一方で半冷半燃の個性は引き続き望んでいて、妻も「兄弟がいた方が励まし合える」と冬美を産んだ

冬美は冷の個性だけを持っていた、2人とも望んだ個性ではなかったが当時の俺はそれでもまァよかった
燈矢は確実に俺以上の素質を持っていたからだ、俺は燈矢に野望を託していた

お前なら俺の行きたかった場所へ行けるはずだと
俺の悔しさも嫉妬も醜い心も全て、全て打ち砕いてくれると



ある日、稽古中に燈矢が火傷を負った

「あち!!?」

そのことに違和感を覚えてセントラル病院へ連れて行った
結果を聞きに休日、冷と病院を訪れた

「珍しい例ですね…炎の個性因子はより色濃く引き継がれているのですが、肉体はお母さんの方を強く引き継いでしまってるんです
つまり…炎への耐性よりも氷結…寒さに適性のある身体なんです…まァ…デザインじみた事はね…この個性時代禁忌なんで…やめといた方が…」

そう医者に言われ燈矢に託すはずだった野望の炎が燃え上がる

"燈矢、お前ならオールマイトを超えられる"

そう信じてきたことが全て無に帰すような感覚




「ちょっと火傷するくらいなのにさ!全然我慢できるのにさ!
俺の身体のことは俺が一番よくわかってるんだ」

「でも冬美も燈矢兄ボロボロなの心配、嫌っ!」

「冬美ちゃんにはわかんねーよ!女の子にはわかんねンだ!」

「心配ちてんのに!!」

「俺はもう超えたいって思ってるんだ!火をつけたのはお父さんだ!」

そうだ、俺が火をつけた
燈矢は折れなかった

だから1つの方法を思いついた




「それは…あんまりだよ!残酷じゃない!あなたが子供に何を求めてるか燈矢はもう知ってる!」

冷に告げた言葉、それに反対する冷

「どれだけ言っても…毎日新しい火傷をつくってくる…バカなところも俺に似た…!
諦めさせるにはそれしかない…燈矢には…超えられない」

燈矢ではオールマイトを超えられない
だから夏雄を産んだ、だが夏雄は望んだ個性じゃなかった

そして再び望んだ個性を持つ子供を"作る"ため、俺は冷に4人目の子を産ませた

半冷半燃の個性を持つ焦凍が産まれ、俺の野望は焦凍に移った
この時、もう燈矢を気にかけることは減っていた

だから分かってやれなかった




「お父さん…俺も超えられるよ…ほら…こんなに強い炎が出せるようになったんだ…俺のこと見てよ」

何度も何度も諦めず俺に訓練をしてくれと申し出る燈矢の身体は相変わらず火傷だらけだった

「ダメだ!何故わからん!そこまでの火傷を負って何故わからないんだ!!
燈矢…!お前は…外を見ろ、冬美や夏雄と遊べ!!学校で友達をつくれ!
ヒーロー以外にも…沢山の世界がある…わかるだろう!そうしていく内に忘れる」

「学校の子はみんなヒーローになるってさ…!わかるはずないだろ…!俺はお父さんの子供なんだから」

燈矢の火傷を見てすぐに駆け寄ってきた冷

「冷やさなきゃ!」

腕には赤ん坊の焦凍、片手を繋いでいる冬美、その手を握る夏雄

「お父さんが火をつけたんだ…!消えないんだよ…!!なかったことになんて…できないんだよ!
俺を見ろよ…!!エンデヴァー…俺を見ろよ!!!!」

炎を纏った燈矢が冷の腕の中にいる焦凍へ向かって行く
それを間一発で制した
だが確かに燈矢の炎は強く成長しており、俺の服の袖は持っていかれた

自分で特訓しているのは気がついていた
だから見ぬふりをしてきた

だが焦凍にまで被害がおよぶなら話は変わってくる




「今後は焦凍を他の子らと一切近づけないことにする
俺は仕事でずっと面倒を見るわけにはいかん、その為の使用人を雇った…お前も燈矢から目を離すな」

「…あの子はあなたに見てほしいんだよ」

「…俺はヒーローの世界しか…見せられない」

「ヒーロー?逃げてるだけじゃないの…」

そう言った冷の目は明らかに俺を非難する眼差しで、反論できずに俺は逃げた




5年後

燈矢は13、冬美が12、夏雄が8、焦凍が5の年だ

離れで暮らす俺と焦凍
いつも焦凍は庭に見える燈矢たちを羨ましそうに眺めていた

「焦凍見るな、アレらはお前とは違う世界の人間だ」

「いっかいだけでいいから燈矢兄たちと遊ばせて」

「ダメだ、出力訓練だ」

俺は決して焦凍を燈矢たちと関わらせなかった
だから気がつかなかった、燈矢が日々夏雄に恨み辛みを溢していることを




「そりゃああの時は俺が悪かったよ…!焦凍に罪はなかったもの…でもお父さんも悪かったんだよ!
俺たちは失敗作だから相手にされない、すごいよな…要らない子をつくってこれが現代ヒーローなんだぜ」

「たまには姉ちゃんとこで言ったら?」

「夏くんまで俺をたしなめるのか!?やめてくれ!夏くんしか理解できないから話してるのに!!
わかるだろ、家の女はみんなだめだめなんだ!!」

自分を理解しないからと、燈矢は冷や冬美を蔑んでいた




「待って、またお山に行く気でしょ…!たまにはクラスメイトと遊んでみたり…」

「友達なんかいらない!世界が違う!」

「燈矢お前…本当にヒーローになりたいの?
お母さんには…お父さんに縛られて苦しんでる様に見える…
燈矢…世界は沢山あって選択肢は無限にあるの、お父さんだけじゃない、もっと外を見て…!
その中で本当になりたい自分を見つけてほし」

「お母さんが何を知ってんだよ!?啓発本でも読んだのかよ…!?
おばあちゃん達が貧乏してたからお母さんを売ったんだろ、お母さんはそうするしかなかったんだろ」

「燈…」

「だから俺が生まれたんだろ…!?お母さんも加担してんだよ」

「燈…矢…」

それ以来、冷は燈矢を避けるようになった




そしてその年の冬

早生まれの小さな身体に漸く訪れ始めた二次性徴
身体の変化と共に、その炎は赤から蒼へと色を変えていた

「お父さん、今度の休み瀬古杜岳に来てよ」

そう言った燈矢の服を捲れば火傷の跡
周囲から見られない箇所での訓練を続けていた燈矢に怒りがこみ上げる

「お前まだ…!!」

「すごいことになったんだ!必ず来て!焦凍にだって到達できるかどうか…!
オールマイトにも負けないかもね!お父さんもきっと認めざるを得なくなるからさ…!!
俺をつくってよかったって思うから!!!」

その狂ったような表情を見た俺はすぐに冷を殴打し、責めた




「何故止めなかった冷!!!頼んだはずだ!!!」

「お母さんをいじめないで!!やめて!いじめないでよ!!!」

「焦凍は出てろ!関係ない話だ!!」

冷を守ろうと必死に泣き叫ぶ焦凍に怒鳴り声を上げる
その声は冬美や夏雄にも届いていたようで不安が、恐怖が伝染していく

「私じゃ止められない」

「お前がやれ!俺は見ない!!」

そして追い詰められた冷は焦凍に煮え湯を浴びせた




その後、木枯しが吹き荒んで空気が乾燥していたあの日
瀬古杜岳で燈矢は焼けて死んだ
炎は2000℃を超えていたらしく、遺体は残らなかった
火災の上昇気流で炭化した骨も粉となって散ったそうだ
辛うじて見つかったのは下顎部の骨、一部のみだった








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