ヒロアカaqua


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翌日


夕方に目を覚ましてから経緯を聞かされた私は唄ちゃんの下へ向かっていた

「あっ、アカンよ雫ちゃん!」

フラつく足で1歩ずつ壁伝いに歩く私を見つけたお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが駆けてきた

「っ…唄ちゃんのところに…」

あの時燈矢くんの炎に焼かれながらも液状化をしていたため火傷の跡はすぐに治ったらしい
ただ喉が焼けたせいで声がかすれている

私の言葉を聞いた2人は顔を見合わせ車椅子を持ってきてくれた
それに乗せられ連れてこられたのは爆豪くんの病室

扉を開ければ、中には呼吸器を付けられ寝ている爆豪くんと、その傍で祈るように彼の手を握っている唄ちゃんの姿
ここからは背中しか見えないけれど、とても話しかけられる雰囲気ではない

そっと扉を閉めて私の乗った車椅子を押すお茶子ちゃんがぽつりと言葉を紡いだ

「唄ちゃんな、ギルティルージュが死んだんは自分のせいやって…そう思っとるみたい」

「どういうこと?」

ギルティルージュが亡くなったのは意識を失った後の経緯を聞いている時に知った
どんな最後だったのか、それは唄ちゃんしか知らないようで彼女が語った内容はこうだ

ギガントマキアが始動し、北上していく中でその攻撃が唄ちゃんへ向かったのをギルティルージュが庇った
瀕死となった彼女は唄ちゃんにギガントマキアの進行上にいる人々を避難させるよう指示したらしい
苦渋の決断でギルティルージュからの指示を遂行した唄ちゃんは群訝山荘から蛇腔市まで飛んできた

インターンで身につけた持続化を体現させた彼女は多くの人の命を救った、恩師の命と引き換えに

そして辿りつく直前でギガントマキアにより投げ飛ばされた
私たちの下へ現れた彼女が凄まじい勢いで吹き飛んできたのはこういうことだったらしい

「唄ちゃんは自分を責めてるんやと思う…爆豪くんとデクくんのことも」

「あの時もっと早く治療できていればって…唄ちゃんは何もかも自分の責任と思ってるわ」

あんな長距離を飛んできて避難誘導を行なって、大勢の命を救ったのにそれでも唄ちゃんは自分が許せない

なら私は?
何の役にも立てず、ただお荷物でしかない私は?


-残念だったなぁ、大好きな両親はお前の親じゃない…全部"偽物"だ!!!-


涙が溢れる
ずっと信じてきた自分の強さも今まで培った経験も何もかもが無駄だった
信じていた家族でさえ偽物だと知った
そもそも私は何者なんだろうか、海色雫という人間はどうして生きているのか

「雫ちゃん、轟くんのとこ行く?」

優しく声をかけてくれたお茶子ちゃん
けれど首を横に振った

自分が何者かもわからない状態で彼に会うのは辛い

許嫁でもないただの同級生という関係の私たちは本当に付き合っていていいんだろうか






ーーーーーーー
ーーー





蛇腔市の一件の2日後


俺の病室から見える病院の入り口に押しかける大勢の人
轟家の過去が全国に流れた、その真偽を問い詰めているんだろう

そういえば雫は目を覚ましていると聞いた
だが何となく会いに行く気にはなれなくて、多分あいつもそうだ
だから俺たちは顔を合わしていない

「気にすんな」

「大丈夫だかんね…」

「轟さんのこと…私たちは見てましたもの、大丈夫です」

病室にいた切島、芦戸、八百万がそう声をかけてくれる
障子もいるが心配そうに俺を見ていた

思い出すのは冬期インターンの時に出会った星のしもべの言葉


-其奴こそが元凶じゃ!!奴の放つ光が!!闇を!!終焉を招くのじゃ-


あの時エンデヴァーを見てそう叫んだ姿が何故か脳裏にこびりついている

「(あいつの炎は親父よりも強かった、火力で勝てなかった…強い…憎しみの炎だった
あいつはずっと見てたんだ、親父を貶めるためだけにその身を滅ぼしながらあらゆる人の人生を巻き込んで

あいつは俺だ、あの日までの俺がこの身を焼いたんだ)」

体育祭で緑谷に目を覚ませられる前までの、何も見ちゃいなかった自分
それが荼毘…いや、燈矢兄だ

「(親父じゃやれねェ…燈矢兄は俺がやらなきゃ)」

そう決意した時、病室の扉が開いた

「焦凍」

そちらを見れば姉さんと夏兄の姿

「ちゃす…!」

「あーと…!轟のお兄さんお姉さん!!轟、喉が火傷でまだ…」

そう説明してくれる芦戸
けれど姉さんの後ろから現れたその姿に俺の呼吸が一瞬止まった

「お母さん…」





クラスのみんなに外してもらってお母さんと話した
これからどうすべきか

そして燈矢兄以外のメンバーで向かったのは親父の病室

そっと扉を開けると、そこには泣いている親父の姿

「お…」

目があったのですぐに扉を閉める

「泣いてる…!」

どうしようという表情でお母さんたちを振り返る
病室からは「ショートォオオオ!!!」という声も聞こえてくるので話せないわけじゃないらしい

扉を開けた姉さんが中に入って行く

「お父さん、よかった…!ようやくみんなで顔合わせられた…!」

「お前たち…無事か…!?」

「何…泣いてんだよ」

夏兄のその声に親父は涙を拭う
けれど止まらないようでどんどん溢れてくる

「すまん…本当に…すまない…すまん……っ
遅すぎたんだ…後悔が…罪悪感が…今になって…!心が…もう…」

そんな親父を前に、俺の隣に立つお母さんは口を開いた

「心が何?」

お母さんの姿に親父は驚愕したように目を見開く

「後悔も罪悪感もみんなあなたよりうんと抱えてる」

「冷!!?何故ここに…!?」

「話をしにきたの、轟家のこと、燈矢のこと」

親父に歩み寄るお母さんの背中を眺める

「冷…!お前…大丈夫…なのか…」

「大丈夫じゃないよ、だから来たの」

ずっと目を背けてきた俺たち轟家の過去
全員が向き合うために今ここにいる

初めての家族会議が始まった








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