ヒロアカaqua


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弾き出された雫が勢いよく吹き飛ばされ地面を転がっていく

「雫!!!」

すぐに駆け寄れば雫は全身火傷状態だが、咄嗟に液状化したのか焼け爛れている様子はない
しかし呼吸することに必死なようで「ヒュッ ヒュッ」という浅い呼吸を繰り返し必死に酸素を肺に取り込んでいる

「ーっ!!!」

守りてぇ奴がこんなになっている姿を見て怒りと共に自分の不甲斐なさを実感した

「まだ死んでねえのか、しぶとい女だなァ」

嘲笑うようなその声にカッとして飛びかかる

「てめェ!!!!」

「怒ってんのか?ちゃんと殺せなくて悪かったよ」

こいつを止めないと雫が殺される
そう確信して互いに炎を勢いよく放出する

「ヴィランをけしかけたって言ってたよな…!?夏兄も死ぬとこだった!!泣いて縋ったんだろ!!!夏兄に!!!!」

「それならそれでエンデヴァーが苦しむ」

「イカれてんのかてめェ!!!」

「そうだよ焦凍、兄ちゃん何も感じなくなっちまったぁ」

一層強まった青い炎が俺を焼いていく

「燈…矢…!!!!」

「ようやくお前を殺せるよ」

必死に持ち堪えるが、ガッと掴まれ抱きしめられる
巨大ヴィランの相手をしている方が騒がしいが今はそちらを気にかける余裕なんてない

「向こうは楽しそうだなァ、可哀想になァお前はこんなに辛いのに」

「てめェ…こそ…!体が…!!焦げて…!!」

「優しく育って嬉しいよ、俺は大丈夫今とても幸せだから
見ろよあの顔、最高傑作のお人形が失敗作の火力に負けて死にそうだってのに…!
グプっ…なァ見ろって!壊れちまってるよ!!はははは!!!
焦凍!!俺の炎でお前が焼けたらお父さんはどんな顔を見せてくれるかなァ!!?」

直後、俺から燈矢兄を引き離すように伸びてきたのは緑谷の黒鞭
動けねえはずなのに口から黒鞭を伸ばす姿に息を飲む

「他所の家に首突っ込むなよ!」

黒鞭を焼き切った燈矢兄が緑谷に嫌悪感を見せた

「突っ込む!轟くんは大事な友達だ!!エンデヴァーは僕を強くしてくれた恩師だ!
過去は消えない!だから頑張ってる今のエンデヴァーを僕は"見てる"!!!お前はエンデヴァーじゃない!!!」

「ははは!そんなことは誰でも分かる!!!でも俺は可哀想な人間だろ!?正義の味方が犯した罪、それが俺だ!!
悪が栄えるんじゃねェ!正義が瓦解するだけ!俺はその責任の所在を感情豊かな皆々様に示しただけだ!!
これから訪れる未来はきっとキレイ事など吹けば飛んでく混沌だろうぜ!!!」

巨大ヴィランが拘束を解く

「やばい!!」

「立て直す!!!」

が、巨大ヴィランの顔面へジェット噴射を使い体当たりしたエンデヴァー
最後の力を振り絞ったのか、地に倒れ気絶している

「マキアァ!!?」

「ーー!!?力が…!!!」

どういうことか力の入らない様子のソイツに意識を取り戻した舞羽が今にも泣きそうに顔を歪ませた

「山荘のみんなの思い…無駄じゃなかった…!!」

もう1ヶ所の任務地
そこで戦ったみんなが麻酔を飲み込ませたらしい

「麻酔が効いてる!!!」

「この場で麻酔の効果が表れたこと…!きっと偶然ではないハズだ
多くの者が少しずつ強大な此奴を削り、効果が表れる程に弱らせたのだと私は信じる…!
1本は細くとも縒って連なり縄となったのだ、どれか1本ほつれていてもこの結果は生じ得なかったと!私は信じる!!」

再びベストジーニストに拘束された巨大ヴィラン
俺も再度燈矢兄に向かって行く

「燈矢ーーーー!!!!!」

「ごめん焦凍、事情が変わった」

2つの赫灼熱拳がぶつかり合う
だが、燈矢兄が放ったそれはジェットバーン

モロにダメージを受けた俺は落下していく

「轟炎司がまだ壊れてない上に気絶しちまったらこのショーの意味がない、ごめんな最高傑作」

「来い荼毘!!」

ヴィラン連合の1人、合宿で雫と爆豪を拐った仮面の男が叫ぶ

「俺ぁ張間の孫の孫!!盗賊王の血を継ぐ男!!
カゲが薄いと思ってた!?そりゃこちらの術中よ!ここぞという時、そのためにタネはとっとくもんなのよ
Mr.コンプレス一世一代!!脱出ショウの開演だ!!!」

地面に降り立ちすぐに体勢を整えるが体の温度が上がりすぎているせいで動けねえ

巨大ヴィランの上でMr.コンプレスと対峙する通形先輩
が、一瞬の間の後で辺りを吹き飛ばすような衝撃が走った

「本当にいい仲間を持った…心とは力だ
彼の心が原点を強く抱けば抱く程、共生する僕の意識も強くなる…憎しみを絶やすな弔」

復活し、立ち上がった死柄木を合図に一斉に死柄木へ集まってくる脳無

「"電波"を上手く扱えば脳無たちに具体的な信号を送ることも可能だ
孵化したての弔にはまだ難しいだろうね」

「死柄木待て!コンプレスが!マキアはどうする!?それにトガも」

「良いんだ伊口くん、弔は負けたワン・フォー・オールとエンデヴァーに
その代償は潔く差し出そう、全ては僕のために」

死柄木たちを連れこの場を離れようとする脳無たち

「荼毘もそっちだーーー!!!!逃すな!!!」

全員が満身創痍
必死に食らいつく中、緑谷が死柄木に迫る

「この体が仕上がったらまた会おう出来損ないの緑谷出久」

「お前は黙ってろ…!オール・フォー・ワン!!」

「また 会おう」

ドッと弾かれた緑谷

「死…柄木…!!待て…!お前を…必ず…」








その後、前線の生存者、そして避難・救助など各々の役割を遂行し終え前線へ向かった者
動ける者が死柄木の撤退を阻むも脳無(以下ニア・ハイエンドと呼称)による突然の陽動・撹乱行動
統率された連携にヒーロー達は翻弄されつつ3体のニア・ハイエンドを仕留める

しかし残り7体と共に死柄木一行は行方を晦ました

ギガントマキア、Mr.コンプレス、リ・デストロ、外典、トランペット、会議に集まった超常解放戦線構成員1万6929人確保
しかしギガントマキアの行進により幹部を含む132人を取り逃す
他、全国に点在する支部及びシンパの制圧

死柄木は死んでいた、装置を壊された時点で蘇生の道は絶たれていた
その時の感電は傍らのエクスレスにすら感じ取れない程度の微かなもので、蘇生には不充分な電力だった
死柄木を蘇らせたのは夢と憎しみ

たった1つ…死柄木の執念によって多くの者が散っていった




この日、俺たちヒーローは敗北した








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