ヒロアカaqua


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私には両親がいる
小さい頃からずっと育ててくれた両親

仕事熱心で厳しくもあるけれどいつだって私の味方のお父さん
優しくて暖かくて安心する存在のお母さん
2人は私の自慢の両親だ

そう小さい頃から抱いていた気持ちは今も変わらない



小さい頃っていつから?

「…あ、れ…」

個性は4歳までに発現する

訓練をした記憶はあるけれど発現した時の記憶はない
両親からもどう発現したか聞いたことはない

「待って…そんな…」

思えば私の記憶はどれも5歳以降のもので、それ以前のことは思い出せない
幼少期の記憶は曖昧になるものだと思って気にも留めていなかったけれど唄ちゃんは小さい頃の記憶を鮮明に覚えていると話していた

ドクンドクンと鼓動を刻む心臓の音が煩い

「ようやく気がついたかよ!おかしいと思わなかったか?海色で唯一最強格の個性を持っていることを!!
そこにいるNo.1はあの日、水鞠一族事件の日に間に合わなかった!唯一お前だけが救い出された!!
そして事故によるショックで記憶を失っているようだったからそのまま類似家系の海色に引き取られた!
残念だったなぁ、大好きな両親はお前の親じゃない…全部"偽物"だ!!!」

放心状態の私の耳にしっかりと届いた言葉
自分の中の原点が揺らいだ気がした

「海色雫!てめーは何にも知らねーでのうのうと生きてきたが全部友情ごっこの延長線上なんだよ!
お前の親を救えなかった罪滅ぼしで生かされてるだけの代理人だ!!」

そんなはずがない

そう信じたい一心でエンデヴァーに目を向ける
その瞳は動揺したように私を…いや、私を通して誰かを見ていた

それはまるで肯定しているかのようで絶望が襲いくる

「もう1つとびきりの情報だよく聞け

お前の本当の許嫁は”俺”だ」

それを聞いた時、周りの音が一気に引いたような感覚がした
初めて焦凍くんに会った時のこと、彼と過ごして来た今日までの日々が走馬灯のように頭を駆け巡る
許嫁だったから出会った彼との思い出が全て偽物だと言われたように感じて心に穴が開いた気がした

「……うそ」

驚くほど小さく震えた声が出る

「アハハ!!本当だよ!!いいな、最高だ!その顔が見たかった!だからあの時は黙ってたんだよ!!!」

神野の一件でわざと含みを持たせた言い方をした彼を思い出し背筋が凍る
何も知らなかったのは私だけだ

「さあ、お前を殺せばその2人がどんな顔をするか…楽しみだなァ」

「やめろ…やめてくれ…流人が守った宝だ…それに燈矢は死んだ…許されない嘘だ」

「宝ァ?それを個性婚に利用しておいてよくもまぁ言えたな!
それに俺は生きてる、許されない真実だお父さん!炎熱系の個性なんざ事務所にもいるしで俺が何者かなんて考えなかったろ
疑ってんなら血でも皮でも提供するぜ、DNA鑑定すりゃあいい…まァこっちはとっくに済まして公表中だけどな」

荼毘の言葉に硬直したままのエンデヴァーと私
焦凍くんは徐々に我に返っている

「エンデヴァー、こっちは俺からのプレゼントだ
スパイ野郎のホークスのことも調べて回った」

ヴィランの1人が持っていたPCから今街に流れている映像の音声が聞こえてくる

『彼は僕らに取り入るためにあろうことかヒーローを殺しています…休養中だったNo.3ベストジーニストを
暴力が生活の一部になってしまっているから平然と実行できてしまう…それもそのハズ、彼の父親は連続強盗殺人犯…ヴィランだった
彼が経歴も本名も隠していたのはその為でした、彼の父はエンデヴァーに捕まっています
何の因果か…そういう性を持った人間ばかりが寄って集まる

僕は許せなかった!後ろ暗い人間性に正義という名の蓋をして!!あまつさえヒーローを名乗り!人々を欺き続けている!!
よく考えてほしい!彼らが守っているのは自分だ!みなさんは醜い人間の保身と自己肯定の道具にされているだけだ!!』

ホークスの過去については分からない
何が真実で何が嘘かも分からない

けれど今私が揺れているようにこれを見た市民のみんなが揺れているんだろう

「今日まで元気でいてくれてありがとうエンデヴァー!」

腕を広げ前のめりになった荼毘

「親父!!来るぞ!!親父!!!」

放心状態のエンデヴァーに呼びかける焦凍くん
座り込んでいる私も動けないでいる

「雫たちを守ってくれ!俺と先輩で戦う!!頼む動け!!守ってくれ!!おい!!後にしてくれ!!!!」

焦凍くんの涙を見た瞬間、燈矢くんであろう男の子が流していた涙が蘇った
いつの記憶かも分からない、断片的なそれにより確かに私は彼に会っていたらしいと確信する

「雫!!!」

その時確かに焦凍くんは私の名を叫んだ
けれど私の耳には届かなくて…ただ荼毘…いや、燈矢くんから目が逸せなくなっていた

「赫灼熱拳」

こちらへ向かってくる彼
プロミネンスバーンを撃つつもりだろう

「燈矢…くん…っ!」

私の手が彼に伸ばされる
それを見た彼が一瞬反応を示した

その一瞬で空中から無数のワイヤーが降ってきて大型ヴィランや燈矢くんを拘束する

「遅れてすまない!ベストジーニスト今日より活動復帰する!」

空から現れたのはベストジーニスト
その姿を見て爆豪くんが不敵に笑った

「行方不明って…!」

その通りだ、神野での一件で休養中だった彼はそのまま行方不明になっていた
先ほどの燈矢くんの告発の映像でならホークスに殺されたとされているはず

「てめェ…!死んでたハズだ本物の死体だった!」

「欲を掻くから綻ぶのだ、粗製デニムのようにな!!」

拘束されている燈矢くんの体が燃え始める
すぐに焦凍くんが飛び出した

「てめえが生きてたとして…轟家の過去が消えるわけじゃねえだろ!なァ!?焦凍!!」

ハッとして先ほど自分が燈矢くんへ手を伸ばしたこと、焦凍くんの声すら聞き取れないほどに燈矢くんへ意識が傾いてしまったことを思い出し歯を食いしばる

「死柄木!!起きろ!!つーか生きてるよな!?命令が必要だ!!死柄木!!まだ何も壊せちゃいねえだろ!起き」

「ぎゃ!!!!」

燈矢くんの炎がスピナーと死柄木を攻撃しようとしていた波動先輩を焼く

「波動先輩!!」

「ははは!大変だエンデヴァー!!まただ!また焼けちまった!未来ある若者が!!お前の炎で!!!」

「やめろォ!!」

炎で拘束を焼き切った燈矢くん
彼を止めるため必死に食らいつく焦凍くんの声に立ち上がる

気がつけば体は動いていた
ずっと考えてから行動するタイプだったはずなのに、この時は何も考えられなくて
体が勝手に動くとはこういうことなのかと体感した

「雫…っ!!!!」

耳に届いた焦凍くんの声
彼を守るように燈矢くんの腕を掴んだ私の体も青い炎に焼かれていく

「ハハッ!!いいぜ!お前から焼いてやるよ!!」

燈矢くんと自分を覆うようにシャボン玉を作り出し中を水で満たしていく

「水と炎じゃ相性最悪ね…!」

「ダメだ雫!!出てこい!!!」

シャボン玉の外から焦凍くんの悲痛の声が聞こえる
この戦いで私はまだ何の役にも立てていない
みんなが必死に戦っているのに私は何もできない

記憶は思い出せない、けれどもし彼が…燈矢くんが荼毘になった要因の1つに私がいるならば
ここで彼を止めるのは私の償いだ

「全力で来いよ!雫!!!!」

渦巻く水の中でも青い炎は消えることはなく私を焼いていく
炎が高温すぎて鎮火が追いつかない
むしろ水が温められ水蒸気化し、ボコボコと気泡が溢れる

「っ…絶対に退かない!!!!」

急速に水分の温度を下げ、水を凍らせていく
このまま燈矢くんもろとも凍てつかせる作戦だ

ぐんぐん下がる温度
それを眺めていた燈矢くんは口角を上げる

「ぬるいな」

より一層燈矢くんの炎が勢いを増し、私の視界を青い炎が埋め尽くす

完全に押し負けた

それを理解した私は焦凍くんの方を見る
まるでスローモーションのように時間が長く遅く感じた

「やめろォオ!!!」

「焦凍く」

最後まで言い終わる前に大爆発が起こり、私の体はシャボン玉から弾き出された








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