ヒロアカaqua


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「大型ヴィランがここに向かってる!向こうで脳無と戦ってるヒーローにも伝えてある!!」

「飯田!緑谷たちを運んでくれ!」

「全く、どおりで帰ってこないわけだよ!!」

いつものように心配し怒ってくれる飯田くんに少し気が紛れた
焦凍くんと横並びで死柄木を見据える

「僕は…死柄木といなきゃ…!死柄木はまだ…僕を狙ってる…!かっちゃんと…エンデヴァーを…!!」

緑谷くんの言葉に冷や汗が伝う
どうして緑谷くんが狙われているのかわからないけれど
彼をこの場から移すと被害は移動する

「再生能力も牛歩…だいぶ弱ってる!波動先輩!」

「畳みかけましょう!!」

「蛆…が、無限に…湧く…」

死柄木を相手に焦凍くんと波動先輩と3人で戦う
帯状の個性はあまりにも強力で素早いせいで身体中に傷が増えていった

この場で食い止めないと被害が拡大する
その思いだけで必死に食らいつく私たちだったけれど、聞こえた地響きにハッとする

その音の方向へ目を向けると大型ヴィランがこちらへ向かってきていた

「主よおオオオオ!!!!!」

「そん…な…っ」

想像の何倍も大きなその姿
それと同時に私たちの下へドンッ!!という音と共に飛んできた何か

「…っ」

煙が晴れ、姿が見えたその"何か"は私の親友の舞羽唄ちゃんだった

「唄ちゃん!!!!!」

血だらけでぐったりしているその姿にすぐさま駆け寄る
死柄木の相手を続ける焦凍くんと波動先輩の攻撃が炸裂するも、2人は大型ヴィランに弾き飛ばされた

絶対絶命

その言葉をこの時ほど痛感したことはなかっただろう

唄ちゃんを連れ氷結で逃れた私はエンデヴァーの傍に降り立つ
先ほど焦凍くんから渡されていた回復薬があるのでそれを唄ちゃんに使った

「ネジレちゃん先輩!ショートくん!!!」

「降ろせ…メガネアーマー」

「気付いたか!ダメだキミ、内臓がやられて!」

「完全…勝利…しなきゃ…」

この場を遠ざかる飯田くんの背にいた爆豪くんの言葉が耳に届いた
緑谷くんも爆豪くんも唄ちゃんもこんな状態で本当に勝ち目はあるのか

「ハァ…ハァ、主よ!!来たぞ!!次の指示を!!あなたの望み通りに!!」

大型ヴィランの背にいたのはヴィラン連合のメンバー
この場に揃ってしまった敵勢力に指先が震える

「雫…ちゃ…」

「っ!唄ちゃん!!」

か細い声を出す唄ちゃんはぐったりしたままうっすらと目を開けた

「だい…じょ…だよ」

"大丈夫だよ"

そう言いたいのだと察して目から涙がこぼれ落ちる
再び意識を失ったようで唄ちゃんは目を閉じた
薬が効いているのか呼吸は先ほどよりも安定している

彼女は和歌山の陣営だったはずだ
それなのにここにいるということは飛んできたんだろう

この距離をあの大型ヴィランよりも速く
個性を使いすぎるとそれだけで体力を消耗する
それに加えて先ほど勢いよく落下してきたのはあの大型ヴィランに投げられたからだ

それに涙の跡もある
一体彼女に何があったのかなんてわからない
それでも彼女のたった一言で私の震えは止まっていた

「シャボン…立てるか」

「はい、大丈夫です」

近くにいたエンデヴァーからの問いに答え立ち上がる
焦凍くんも顔を上げた
緑谷くんは動けないようで唄ちゃんの傍で横たわっている

「(絶対に止める、ヴィランを許さない!!!)」

巨大なヴィランを睨みつけた時、その上からひょこっと顔を出したのは荼毘

「おーういたいた!こっから見るとどいつも小っさくて…お!?焦凍もいンのか、こりゃいいや!!」

「あ?」

「荼毘!!!」

荼毘は手に持っていたものをシャカシャカと振り、頭にかけた

「酷えなァ…そんな名前で呼ばないでよ…燈矢って立派な名前があるんだから」

液体を被ったその髪は黒から白へと変貌しており、まるで焦凍くんの右側と同じその色に心臓が嫌な音を立てる
思い出すのは先日、焦凍くんの青い目が誰かと重なったような感覚

「顔はこんななっちまったが…身内なら気付いてくれると思ったんだけどなぁ」

"身内"

その言葉にフラッシュバックした轟家の長男の話
確か名前は

「燈…矢…」

小さな声に気がついた荼毘は私を見てニイッと笑みを深める

「でも俺は忘れなかった、言われなくてもずうっとお前を見ていた、みんなが清廉潔白であれとは言わない、お前だけだ
事前に録画しておいた俺の身の上話が今、全国の電波とネットを走ってる!いけねえ、なんだか愉しくなってきた!!」

荼毘は嬉しそうに巨大ヴィランの上で踊り出す
とても楽しそうな姿と口調なのに告げられる言葉あまりにも無情で、エンデヴァーと焦凍くんの表情が凍っていく

「どうしたらお前が苦しむか、人生を踏みにじれるか、あの日以来ずうううううっと考えた!
自分が何故存在するのか分からなくて毎日夏くんに泣いて縋ってたこと知らねえだろ!
最初はお前の人形の焦凍が大成した頃に焦凍を殺そうと思ってた!でも期せずしてお前がNo.1に繰り上がって俺は!お前を幸せにしてやりたくなった!!
九州では死んじまわねえか肝を冷やした!星のしもべやエンディングを誘導して次々お前にあてがった!!
念願のNo.1はさぞや気分が重かったろ!?世間からの賞賛に心が洗われただろう!?
子どもたちに向き合う時間は家族の絆を感じさせただろう!!?未来に目を向けていれば正しくあれると思っただろう!!?

知らねェようだから教えてやるよ!!!過去は消えない
ザ!!自業自得だぜ!さァ一緒に堕ちよう轟炎司!!地獄で息子と踊ろうぜ!!!」

すると荼毘の目がこちらを見る
目があったと理解した時には既にその口は言葉を紡いでいた

「海色雫、いい事教えてやるよ…随分都合いい記憶みてぇだからな」

それは初めて会った時に荼毘が私に言った言葉
エンデヴァーの顔色が悪くなる

「やめろ…」

力ないその声にほくそ笑んだ荼毘は私を見下ろす

「お前の親父はエンデヴァーが救えなかった親友だ」

「…え?」

何を言っている?私のお父さんは生きている
それにエンデヴァーに救ってもらっている

「やめろ!!」

「やめねェよ!エンデヴァー!!
11年前に壊滅した水系最強だった一族、お前はそこの唯一の生き残りだ!最強すぎるが故にヴィランに殺された一族のな!!

お前の本当の名は水鞠雫だ」

私の中で何かのピースが嵌まったような音がした








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