ヒロアカaqua


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「ご家庭や近隣に身動きの取れない方がいましたらお教えください!!
この街一帯、対ヴィラン戦闘区域になる恐れがあります!!」

バーニンさんが声かけをしている声が聞こえる
私たちも建物を見回って逃げ遅れる人がいないように声かけと誘導を行っている

「あの大通りに護送車があるのでそれで避難してもらいます」

「ありがとうございます」

今連れてきたのは幼稚園の先生と園児たち
みんな先生の後ろをちゃんとついてきているのでとても偉い

「ヒーローのお姉ちゃんばいばーい」

「ありがとー!」

ぶんぶん手を振る園児たちに手を振り返してほっこりしていると、耳に入ってきたのは爆豪くんの声

「こっからは護送車だ街から出ろ」

「ありがとうねぇ、ふわチョコ饅頭あげるよ」

「口乾くわ!いーから行け!!」

仮免試験のことをもう忘れたのかと呆れつつそちらに目を向ければお年寄りに噛み付いている模様
傍にいたお茶子ちゃんが「ご厚意だよもらっときん」と声をかけている

「てめーはふわチョコ饅頭が気になるだけだろ!」

「お年寄りにもああなのね」

「本当に」

梅雨ちゃんの隣に並んで呆れていれば他の面々も続々と避難誘導を行い集まってくる

その時無線で口田くんから5丁目の避難が完了したとの連絡が入った
他の箇所も完了していっているようでスムーズに進んでいる避難誘導にホッとする

『老人ホームやマンションに残ってしまった人がいらっしゃらないか一棟ずつチェックを行います!』

飯田くんの声も聞こえ私もそちらの応援に行こうかと思い踵を返した時、視界に入ったのは顔色が悪い緑谷くんの姿

「緑谷くん…?」

前屈みになって俯く彼を覗き込めば、焦点も合っていない

「ちょっとどうしたの…?!」

私の焦った声が聞こえたのか、焦凍くんと爆豪くんもこちらを振り返る

「緑谷どうした」

「サボってんじゃねーぞ!どういう了見だ!!」

それでも緑谷くんはその場から動かない
けれど、ゆっくりと振り返って背後にそびえ立つ山を見ている
あの山の麓にある病院には今、エンデヴァーを筆頭としたヒーローたちが集結しているらしい

「病院が…ッ!!」

ようやく声を発した緑谷くん
その声を聞いた私たちも病院へと目を向ける

病院近くの山から鳥が一斉に飛び立った

その直後、一瞬にして病院が倒壊し、その倒壊は徐々にこちらへ向かってくる
まるで津波のように押し寄せるその光景に全身が凍りついた感覚に陥った

すぐに緑谷くんがエアスマッシュを使った衝撃波で食い止めるものの、それは一瞬のことで再び倒壊の波が襲いくる

「全員走らせろ!!!」

爆豪くんの声を認識したと同時にまだ避難が完了していない人を包むようにシャボン玉を作って大急ぎで運ぶ

「エンデヴァー!おい!?エンデヴァー!!?」

バーニンさんが無線で病院にいたエンデヴァーに連絡を取るものの応答はない

「みんな逃げて!!」

「止まらない!衝撃とかの類じゃない!!」

「全部塵になっていくわ…!」

突然すぎる事態に何が起こっているかなんて判断できる時間はない
ただはっきりとしているのはあの倒壊に巻き込まれれば死に絶えるということ

「死柄木…!」

緑谷くんの言葉が聞こえた
思い出すのは神野で私と爆豪くんに仲間にならないかと話していた死柄木の姿

直後、焦凍くんの大氷結である穿天氷壁が放たれ少しの間倒壊を防ぐように立ち塞がる
その間に全員が避難民を連れ一斉にその場から駆け出した

「みんな退けぇ!!」

バーニンさんの指示を聞いて必死に救助と避難を急ぐ

「病院何してんだ!誰か応答しろ!!
エンデヴァー!!リューキュウ!!誰か!!状況を伝えろ!!!」

この場にいる誰もが必死に動く
倒壊はある一定ラインまで止まったため何とかなったものの、私の目の前に広がるのは先ほどまであったはずの市街地や山が跡形もなく消え去った後の更地と化したその光景

「……な、に…?」

死柄木は触れた対象を塵にする個性を持っている
その力がこれほどまでに強大とは聞いていない

『全体通信こちらエンデヴァー!!!病院跡地にて死柄木と交戦中!!地に触れずとも動ける者はすぐに包囲網を』

無線に入ったエンデヴァーからの通信
その直後ノイズが走って上手く聞こえなくなる

けれどエンデヴァーが生きていることに少しの安堵感が芽生えた

『ワン…フォー…オール?』

続いて無線に入ったエンデヴァーの声
それは呟きと言う方が正しいかもしれない
その言葉を聞き慣れないほとんどのメンバーが避難を急ぐ

「あ!?ワン・フォー何!?とりあえずアシスト向かう!!」

「バーニン待って!!!」

「君たちは残るヒーローと避難を!!警察の指示に従って!もっと遠くへ!!」

飛び出すバーニンさんを制す緑谷くんの様子に違和感を覚えた
けれどそれを気にしていられるほど悠長な時間はない

『避難先の方角に向かってる!戦闘区域を拡大しろ!!街の外にも避難命令を!!』

エンデヴァーの無線を聞いたメンバーの顔に焦りが生まれる

「急げ!1分1秒を争うぞ、アレが来る!!次来たら終わりだ!!」

「嘘でしょ…ファングマンが…そんな…!」

「悲しむのは後にしろ!!早く、一刻も早く避難を!!!」

焦燥と恐怖が伝播していく
そしてついに緑谷くんが動いた、隣には爆豪くんもいる

「おい!どこ行くんだ!!」

「あっと!忘れ物!!忘れ物!!すぐ戻るから!!」

飛び出していった2人を見て私の足は自然と動いていた

「海色くん?!轟くんも!!」

「「2人を連れ戻す!!」」

2人を追うように飛び出したのは私だけじゃなかったらしい
隣を走る焦凍くんを横目で確認する

「焦凍くん戻って」

「お前が戻れ、雫」

互いに頑固なのは変わらない
こんな状況で退かないところも本当にそっくりだ

機動力のある2人と違って私たちはそこまでスピードが出ない
それでも近くで2人を見てきたからこそ分かる、あのスピードは相当焦っているって

「(放っておけない…!!)」

唄ちゃんのいないところで2人を失うなんて絶対に許されない









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