ヒロアカaqua


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突如渡されてしまった本命チョコに驚愕する女子一同

「ど、どどどどどどどうしよう!?」

「A組の王子様に渡してくださいって…!?」

「みんな落ち着いて!あの眼鏡女子はきっとずっとここでA組の王子様に会えるのを待ってたんだよ!
ピンポン押す勇気もなくて、でも諦めきれなくて…そんなとき寮から私たちが出てきたから必死でお願いしてきたんだよ!!」

三奈ちゃんがそう言ったので全員がその場面を想像した
私も彼氏がいるとはいえ、恋愛の知識はもっぱら少女漫画だ
おそらく唄ちゃんもそうだろう

「はわー!恋だ!」

「心なしかさっきより重く感じますわね」

「なんか照れる…まあもしかしたら買ったものかもしれないけど」

「既製品でもきっとずいぶん悩んで選んだんでしょうね、ケロ」

各々が本命チョコを見て感慨深くそう告げる

「そんなチョコを託されたんだよ…これはもう協力するしかなくない!?」

「そうだね!思いがこもったチョコだもん、届けよう!」

「うん、ただA組の王子様って誰なんだろう?」

唄ちゃんの言葉に頷いたけれど、ふと湧いた疑問を口に出した

「あ、中にメッセージカードある!見たらまずい?」

「でもこの場合しかたない、名前書いてあるかもだし」

「んじゃ、失礼して…」

そっと開いたメッセージカード
そこには"A組の王子様へ あのとき救けてくれてありがとう"という文面が書かれているのみ

「A組の王子様ねえ…」

「本人に聞けたらすぐわかるんだけど」

「あの人1年じゃないっぽいよね?同学年ならわかると思うし」

確かに1年は11クラス
体育祭もあったし見ればわかるとは思う
でもこの場の誰も見たことがないというのだから2年か3年
学年を乗り越えた告白にさらにやる気に満ち溢れる女子メンバー

「王子様っぽいというとー…やっぱり轟くんじゃない!?」

透ちゃんの言葉に視線が私に集まる
もしそうだとした場合どうしようか思案している顔だ

「いや、もし焦凍くんだったら渡さないとかはないよ!
託された以上これはヒーローとして届けなきゃ!」

俄然やる気の私を見たみんなはホッとした様子だ
人の恋まで制限するつもりはないので焦凍くんが誰かに好かれようとそれはそれでいい
日頃から言葉や態度で彼からの愛情は伝わっているし、不安に思うことがないだけかもしれないけれど

「見かけだけなら青山もけっこう王子様っぽくない?」

「んじゃとりあえず轟と青山に当たってみるということで!」

「あくまで本命チョコのことは伏せて、A組の王子様だと確信できたら渡そう」

眼鏡女子先輩もむやみやたらにバレるのは不本意だろう
そう思って捜索を開始するけれど、すぐに見つかった青山くんは身に覚えがないと言っているので焦凍くんに的を絞る
ただ彼は不在のようで、ジョギングしてるかもと敷地内を歩くことにした

「でもさー、王子様っぽいってなんだろね?フリルが似合いそうとか?」

「ピラピラしたのが似合うとか?」

「高貴っぽい?」

「薔薇が似合う?」

するとふと立ち止まった三奈ちゃんがハッ!とした

「ちょっと待って…私間違ってたかもしれない」

「どういうこと?」

三奈ちゃんに首を傾げ尋ねれば、真剣な顔でこちらを向いた

「A組の王子様っぽい人じゃなくて、あの眼鏡女子が言ってるA組の王子様っていうのは、眼鏡女子にとっての王子様ってことでしょ!?つまり容姿は関係ないんだよ!だって好きになったらその人が王子様ってことでしょ!!?」

力説した三奈ちゃんが「海色も轟のこと王子様って思うでしょ!?」と問うのでうんうんと頷いた
好きになった途端王子様に見えるのはとても気持ちがわかる

「私たちが間違っていましたわ…恋とは心の目で相手を見ることなのですね…!」

「こうなったら全員に訊くほかないね!」

決意新たにA組男子を探して歩き始めると向こうから上鳴くんと峰田くんが歩いてくるのが見えた

「おー!みんなでどっか行くの?」

嬉しそうに声をかけてくる上鳴くん

その隣にいる峰田くんが「寒いから風邪ひかないようにもっと厚着しろよ…?」と下心スケスケの言動をするので女子一同遠い目をした

「あのね、2人に訊きたいんだけど…ここ最近眼鏡かけた先輩女子を救けたりしたことないかな?」

やんわりとそう尋ねれば、2人とも首を傾げた

「眼鏡女子ぃ?いやーないけど」

「オイラもないな…それがどうかしたのか?」

「いやその、A組の男子に救けられたって女の子がいてちょっと探してるんだ」

「そういうことならオイラも探すの手伝ってやるよ」

峰田くんのその振る舞いにこの2人ではないことを確信し丁寧かつしっかりと断っておいた
すると上鳴くんはそわそわしたように口を開いた

「なーなー、チョコあんの?」

「いっぱいあるよー、ケーキにプリンにトリュフチョコに」

「やー、そういうんじゃなくてこう、バレンタインっぽいチョコ!」

そう言った上鳴くんに響香ちゃんが「はあ?」と呆れた声を出す

「だってバレンタインじゃん!バレンタインには女の子からいっぱいチョコほしいじゃん!両手で抱えきれないくらいの!」

何言ってるんだと私も呆れた目を向けていると「あ!いた!」という声がして、数名の女子がラッピングされたチョコレートらしきものを抱え近づいてきた
それを見た上鳴くんと峰田くんが期待したようにキメているけれど、チョコレートを差し出されたのは響香ちゃんと唄ちゃん

「耳郎さんの歌すっごくカッコよかった!」

「舞羽さんも綺麗な歌声だったよ!」

「すっかりファンになっちゃったんだ、もらってー!」

びっくりしつつも響香ちゃんと唄ちゃんが「ありがとう」と言ってチョコレートを受け取る
女の子たちが嬉しそうに立ち去って行くので上鳴くんは悔しそうにしている

「チョコ…チョコ…チョコ…」

「峰田くん?」

何だか様子のおかしい峰田くんに声をかけるけど顔を上げた彼は血涙を流していた

「ひっ…!」

「そのチョコを寄越しやがれー!!!」

2人のチョコ目掛け飛びかかった峰田くんを梅雨ちゃんが拘束する

「なにするの峰田ちゃん」

「うるせー!なんでオイラじゃねーんだよ!?ここ1週間親切にしまくってたのにー!!!!」

きっと我慢の限界がきたんだろう峰田くんが暴れ始める
頭のもぎもぎを投げてきた彼に三奈ちゃんのアシッドベールと、私の水の膜を繰り出し防ぐ

「チョコをよこせー…!!!」

その鬼気迫る顔に女子みんなが総毛立つ
「なにあれ、チョコゾンビじゃんか!」と唄ちゃんが言ったけれど本当にその通りだ

「お前ら、俺が止めている内に逃げろ…!」

身を挺して峰田くんを押さえてくれた上鳴くんがかっこつけようとサムズアップする
その瞬間峰田くんが拘束を抜け出した

慌てて百ちゃんが捕獲網を投げたけれど、網を被ったままこっちへ向かってきた

「チョーコォォオ…!!」

「「「「ヒィッ!」」」」

ダッと駆け出した女子メンバーは校舎近くに来ていた
峰田くんが来ている様子はない

ホッと一息つくと「なんかあったのか?」と声をかけられた
振り返るとそこにはB組の回原くんと円場くん、黒色くんの3人

「いえ、ちょっと…」

流石にクラスメイトの恥を晒す気にはなれず誤魔化した百ちゃん
すると梅雨ちゃんが思い思い出したように円場くんへ声をかけた

「あ、そうだ、A組の男子を見かけてないかしら?今探してるのよ」

「え、男子?なら少し前に轟が校舎に入ってったの見たけど…」

「ケロ、ありがとう」

良い情報をもらったと校舎の方へ向かって行く









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