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2月初旬
「というわけで今日は鬼チームと桃太郎チームに分かれて対決してもらいます」
今日のヒーロー基礎学は何かと思っていれば、まさかの節分にちなんだものだという
相澤先生が冗談で言うはずはないけれど、ちょっと間が抜けてしまった
今日は小高い山を囲むように森が広がっているエリアに来ている
ところどころゴツゴツした岩が転がってるので隠れたり奇襲を仕掛けたり色々できそうだ
「中に鬼のクジと桃太郎のクジが入ってる、さっさと引け」
そう言って出された箱
みんなが引いていく中、先生は爆豪くんに「お前は引かなくていい、鬼チームだと告げた」
「爆豪鬼っぽいもんなー!」
「確かにー!」
上鳴くんと唄ちゃんがゲラゲラ笑い始めたので爆豪くんが「んだとコラ!!」と叫んだ
桃太郎チームは緑谷くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、峰田くん、上鳴くん、響香ちゃん、瀬呂くん、三奈ちゃん、尾白くん、透ちゃん、砂糖くん、口田くん、唄ちゃん、私
鬼チームは爆豪くん、焦凍くん、常闇くん、飯田くん、障子くん、切島くん、百ちゃん、青山くん
「先生!チーム対決にしては人数に差がありますが!?」
「それは圧倒的に桃太郎チームの方が不利だからだ、今説明する」
挙手した飯田くんを制した相澤先生は私たちに目を向ける
「桃太郎チームは鬼に棍棒を当てられたら失格、鬼チームは桃太郎に豆を3回当てられたら失格
豆は一度当てたら終わりではなく、手元にある限りは何度でも使用可能だ
そして鬼チームの勝利は桃太郎を全滅させること、桃太郎チームの勝利は鬼に捕らえられた人質を救出することだ」
「人質?」
誰だろうと不思議がる一同
「人質役はエリちゃんにしてもらう
あの山の頂上の小屋で人質として捕まっている設定だ、いいか両チームともエリちゃんには本物の人質として接するように
爆豪、お前には特別課題を出す、この授業中エリちゃんと少しでも仲良くなるように」
「はぁ!?」
ぎょっとした爆豪くん
いや、彼だけじゃない、私もクラスのみんなもびっくりしていた
「今回は人質を取る側だがこれから先幼児救出の任務もあるかもしれないだろう
そんなとき幼児に心を開かせることは任務の成否にもかかってくる重要なことだ」
「っ、んなもん、さっさと救出しちまえばいいだけ」
「仮にヴィランの目を盗んで救出する状況だったとして、強引に連れ出されたら幼児にとってお前はヴィランと変わらない存在になる
泣かれでもしてヴィランに気づかれたら幼児を守りながらの戦闘だ
ヒーローにとって最優先すべきは救出者の安全だ、わかるな?」
黙り込んでしまった爆豪くん
相澤先生の言うことは一理ある
けれど今回のチーム分けに悪意を感じざるを得ないのは私だけかな
「では10分後に鬼チームは小屋から、桃太郎チームは森の前からスタートだ、全員配置につけ」
桃太郎チームのみんなで移動中、やっぱり気になるのはエリちゃんのこと
「かっちゃんがエリちゃんと…?大丈夫かなあ…」
「もうほんっと心配…先生わざと鬼チームから私たちを外したでしょ」
それを聞いた唄ちゃんは頷いた
「そうだね、切島くんもインターンメンバーだけどそんなに接点はないだろうし…」
「エリちゃんにいつもみたく怒鳴ったりしないといいけど…」
「爆豪ちゃんもそのへんは気をつけるんじゃないかしら?
あ、でも他のみんなに怒鳴ってるのをエリちゃんが見て怖がっちゃうってこともあるわね…」
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんも心配そうにしている
そりゃあそうだ、インターン以来みんなで成長を見守ってきたエリちゃんがこれを機にトラウマでも植え付けられたらと気が気じゃない
「いやー、仲良くなるのは普通にむりだろ!」
「先生も残酷な課題出したもんだぜ」
上鳴くんと峰田くんにいたっては最初から諦めている
まあ爆豪くんが子供と仲良くしてるなんてそうそう見ないもんなぁ
「爆豪の課題が心配なのはわかるけど、とりあえず今はエリちゃんの救出でしょ」
「そうだね、どう攻めるか話し合おう」
少し作戦会議をしたところで開始のブザーが鳴った
桃太郎チームのメンバーはそれぞれが山を囲むように分かれ頂上を目指す作戦に出た
すいすいと登っていると『葉隠、アウト』という相澤先生の声がスピーカーから聞こえた
「(桃太郎チームに対して鬼チームは人数が少ない
分かれたのは狙いを絞りにくくするためでもある)」
どうやら私の元に誰かが向かってくる気配はない
このまま上がり切ってしまおうかと考えた時
瀬呂くん、お茶子ちゃん、響香ちゃん、三奈ちゃん、尾白くんが立て続けにアウトになったと先生の声がそう告げ、まずいと判断し残っている桃太郎チームは一度麓の集合場所に集まった
「もう半分近くアウトになっちまったし…豆は少ねーし…どうする?」
「このままじゃエリちゃん救う前に全滅しちまうよー!」
深刻そうな表情の砂糖くんと上鳴くん
緑谷くんは考えこむようにブツブツと言っている
そんな彼を見た唄ちゃんは優しい表情で問うた
「出久、なにか案があるの?」
その問いに緑谷くんは頷いて作戦を語り始めた
ーーーーーーー
ーーー
先ほど緑谷くんが告げた内容を頭に叩き込み桃太郎チームが待機しているのは山の中腹
「来るよ…勝己以外全員いる」
索敵していた唄ちゃんの言葉に一同が頷くと、青山くんを舌で巻き取った梅雨ちゃんが駆け下りてきた
それに釣られた鬼チームの面々が続々と姿を現す
「こっちだ」
「罠か?」
「…来る!」
ハッと顔を上げた障子くん
鬼チームの頭上には緑谷くんがいる
振りかぶった手には桃太郎チームのすべての豆が握られていた
それを見た常闇くんがダークシャドウで飛び上がり百ちゃんが掃除機のスイッチを入れた
けれど先に吸い込まれたのは高い木から飛び降りてきた峰田くんが投げたもぎもぎ
「えっ!?」
峰田くんをキャッチした唄ちゃんは常闇くんの前へ飛んだ
「くらえもぎもぎ!」
「くっ!」
ダークシャドウの持っている棍棒と常闇くんの棍棒がくっつき、口田くんの操るカラスが飯田くんたちを取り囲む
そのまま茂みの影に誘導された鬼チームは砂糖くんが作った大きな穴に落ちた
その穴の淵に立つのは私と上鳴くん
「ちょーっと痛いかも」
「悪いね、豆が少ないから一網打尽にしないとさ」
鬼チーム全員に降りかかるように水を撒けば上鳴くんが放電した
感電し動けなくなったところでみんなで豆を3回ずつ当てていく
『飯田、青山、轟、切島、常闇、障子、八百万、アウト』
一気に形成逆転した状況にホッとしてから緑谷くんを見る
「エリちゃんを救出に行こう」
頷いた緑谷くんと駆け出そうとしたけれど「海色!!緑谷!!」と呼び止められて足を止める
穴の中から声をかけてきたのは切島くん
「対決チームにこんなこと頼めた義理じゃねえのはわかってる…でもそこを頼む!
みんな爆豪とエリちゃんが仲良くなれるように手伝ってやってくれ!」
「あらー…やっぱり大変そう?」
唄ちゃんの呆れた表情に切島くんは頷いた
今度は飯田くんが口を開く
「距離が縮まるように2人きりにしてみたり努力はしたんだが…空気は悪くなる一方だ
委員長として俺からも頼む!爆豪くんの特別課題に手を貸してあげてほしい!」
桃太郎チームのメンバーが顔を見合わせた
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