ヒロアカaqua


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インターン開始から1週間
今日で冬休み中のインターンは終了だ

エンデヴァー事務所には宿泊設備が完備されているので私たちは炎のサイドキッカーズと寝食を共にしていた

「おはよー!どーだい進捗はぁ!!!!」

「おっはよーございまーす!!」

ぐっぐっと体を伸ばしながら大きな声で元気よく声をかけたバーニンさんに唄ちゃんは同じくらい大きな声で挨拶を返した

「朝からでけー声出すなぁ!」

「おはようございますバーニン!」

「おはようございます」

爆豪くんはキレ気味だけれど、緑谷くんと私はいつも通り挨拶を返した

「どうよ?!”エンデヴァーさんより速く撃退”!
あ!いーやごめんね!!?デリカシーがなかった!!
わかってるよそんな簡単にいきっこないよね!!」

そう言ったバーニンさんに返事をしたのは今し方部屋に入ってきた焦凍くん

「昨日は惜しかった、4人とも昨日の感覚大事にしていこう
今日こそエンデヴァー追い越すぞ、おはようございますバーニン」

「惜しかったのは俺だバァアアカ!!てめーは足遅ェんだよ!よって俺が上!!」

「いや、惜しかったの私だって」

爆豪くんも唄ちゃんもかなり惜しいところまで行っている
唄ちゃんに関しては元々速さは掴んでいたので今はそれを継続することの方が重要そうだ

「点での放出ってのが慣れねェ」

「そうだね、私たち結構大技ぶっぱタイプだもんね」

焦凍くんにそう返せばコクリと頷かれた
緑谷くんはバーニンさんに「ちょっとずつ掴めてきてる気がします!」と告げた

そんな私たちのコスチュームも体も傷だらけ
必死に食らいつくことだけを考えエンデヴァーを追い続けた1週間






「集中すればできることを寝ながらでもできるようにしろ!!!
やると決めた時には既に行動し終わっていろ!!」

今日も一足先にヴィランを撃退したエンデヴァー

「あーっ!!今絶対いけたと思ったのに!!」

「ここに来て何で力んでやがる…!」

「掴めそうなところで突き離される!」

幼馴染トリオの言う通りだ
流石No.1、絶対に追い越させてくれない

汗を拭い顔を上げる

「(俯いてる暇があったら前を向く!!)」

私はもっと上に行かなきゃならないんだから!!

「いくぞ!!!!」

そう告げたエンデヴァーに全員が一斉に大きな返事をした



ーーーーーーー
ーーー



その日の晩

目の前には轟家


「何でだ!!!!!」

大声を出した爆豪くん
両サイドでは緑谷くんと唄ちゃんが家の大きさにぎょっとしている

「姉さんが飯食べにこいって」

「何でだ!!」

「友達を紹介してほしいって」

「今からでも言ってこい!やっぱ友達じゃなかったってよ!!!!」

ギャーギャー騒がしい爆豪くんを唄ちゃんが諫める
てゆーか、焦凍くんのお家にお邪魔するのにこのメンバーなのは不安しかない

エンデヴァーが玄関を開ければ、パタパタと足音が聞こえ冬美さんが姿を現した

「忙しい中お越し下さってありがとうございます!
初めまして、焦凍がお世話になっております、姉の冬美です!」

「わ、綺麗…」

唄ちゃんが焦凍くんと見比べて「お母さんがよっぽど美人なんだね」と告げたのでエンデヴァーが「どう言う意味だ」と睨みつける
唄ちゃん、お願いだから大人しくしてて…

「雫ちゃんも一緒だったんだ!突然ごめんねえ
今日は私のわがまま聞いてもらっちゃって」

「いえ、それは全然…むしろ嬉しいです」

そう告げれば、焦凍くんが冬美さんに「夏兄も来てるんだ」と言ったので緊張が走る
焦凍くんにお兄さんがいることは知ってたけれど、まさかお会いするとは思ってなかったのでびっくりしてしまった

通された居間にはとても豪勢な料理が並んでいる

「食べられないものあったら無理しないでね」

「どれもめちゃくちゃ美味しいです!この竜田揚げ味がしっかり染み込んでるのに衣はザクザクで仕込みの丁寧さに舌が」

「飯まで分析すんな!てめーの喋りで麻婆の味が落ちる!!」

「ご飯中に喧嘩しないでよ」

相変わらず騒がしい幼馴染トリオに恥ずかしくて縮こまっていると、夏雄さんがもぐもぐとしながらこちらを見た

「そらそうだよ、お手伝いさんが腰やっちゃって引退してからずっと姉ちゃんがつくってたんだから」

「夏もつくってたじゃん、かわりばんこで」

「え!?じゃあ俺も食べてた…!?」

ぎょっとした焦凍くんに夏雄さんは苦笑いしてから視線をエンデヴァーに向ける

「あーどうだろ、俺のは味濃かったから…エンデヴァーが止めてたかも」

ピリッとした空気を感じ取って幼馴染トリオと私はハッとする
体育祭の時に聞いた家の事情を知ってるが故に何とも言えない気まずさがある

「しょ、焦凍は学校でどんなの食べてるの?」

「学食で」
「気づきもしなかった、今度…」

話始めた焦凍くんとエンデヴァーの言葉が重なってしまう
それに居心地の悪さを感じたのか、夏雄さんは立ち上がった

「ごちそうさま、席には着いたよもういいだろ」

「夏!」

「ごめん姉ちゃん、やっぱ無理だ…」

ずっと麻婆豆腐と食べていた爆豪くんもいよいよ手を止めた
そりゃそうだろう、この空気の中で食事は厳しい

その後ぎこちないながらもご飯を食べ終え、幼馴染トリオと一緒に食器を運んでいく
キッチンに行けば、洗い物をしていたエンデヴァーはそこに置いておけと机を指差した
その表情は見えない

「ていうか、みんなも知ってたんだ」

「は?俺のいるところでてめーらが話してたんだよ」

「聞いてたの!?」

「聞こえたの」

即答で訂正した唄ちゃん
けれどあれは誰がどう見ても盗み聞きなので嘘だ

まだ残っている食器を下げるため居間に戻ると冬美さんの声が聞こえた

「私だって夏みたいな気持ちがないわけじゃないんだ…でもチャンスが訪れてるんだよ…焦凍はお父さんのことどう思ってるの?」

「この火傷は親父から受けたものだと思ってる
お母さんは堪えて堪えて…溢れてしまったんだ、お母さんを蝕んだあいつをそう簡単に許せない」

その会話に私たち全員が足を止める
焦凍くんのお母さんは度重なるエンデヴァーの執念に心が折れ、そんな時まだ小さい焦凍くんに煮え湯を浴びせてしまった
それからは精神病院に入院していると聞いている

「でもさ、お母さん自身が今乗り越えようとしてるんだ…
正直自分でもわからない、親父をどう思えばいいのか…まだ何も見えちゃいない」

焦凍くんの言葉に目を伏せていると、爆豪くんがスパァン!!と襖を開いた

「客招くならセンシティブなとこ見せんなや!!まだ洗いもんあんだろが!!」

「ああ!いけない!ごめんなさい、つい…!!」

勢いよく入っていった爆豪くんに青ざめる
ちょっとちょっと、本当に印象悪くなるからやめてほしいんだけど

「あ!あの!僕たち轟くんから事情は伺ってます!」

「俺ァ聞こえただけだがな!
晩飯とか言われたから感じ良いのかと思うわフツー!四川麻婆が台無しだっつの!!」

「ごめんなさい、聞こえてしまいました」

冬美さんに謝れば、「いいの、ごめんね」と慌てて手を横に振られた
何と言って良いのかわからなくて、唄ちゃんとお皿を集めていると緑谷くんが口を開いた

「轟くんはきっと許せるように準備をしてるんじゃないかな」

「え」

丸くなった焦凍くんの目
私と唄ちゃんも彼の言葉に耳を傾ける

「本当に大嫌いなら許せないで良いと思う、でも君はとても優しい人だから
待ってる…ように見える、そういう時間なんじゃないかな?」

緑谷くんは本当に不思議だ
焦凍くんがほしい言葉をかけてあげられる、体育祭の時も今も

洗い物も終わり、居間でお茶を頂きながら冬美さんから聞いたのはこの前きた時に聞いた長男のお兄さんの話

「お兄さんが…」

「それは話してないんだ」

「率先して話すもんじゃねェだろ」

そう告げた焦凍くん
確かにそうだけれど私も知った時はびっくりした

「夏は燈矢兄ととても仲良しでね…よく一緒に遊んでた
お母さんが入院してまもなくの頃だった…お母さん更に具合悪くなっちゃって焦凍にも会わせられなくて…
でも乗り越えたの、焦凍も面会にきてくれて…家が前向きになってきて…夏だけが振り上げた拳を下ろせないでいる」

「だからあんな面してたんか」

爆豪くんは先ほど緑谷くんが焦凍くんに話している時に部屋の外にいた夏雄さんと鉢合わせたらしい
その時とても思い悩むような表情だったとのこと

話を聞きながらやっぱりこの家の問題はなかなか解決しそうにないと察する

「そろそろ学校に送る時間だ」

声をかけてきたエンデヴァー
明日は始業開始なので今日は寮に戻らないといけない
どうやら送ってくれるようで、家の外に7人乗りの外車が停まっていた

「ごちそうさまでした!」

「美味しかったです!」

「四川麻婆のレシピ教えろや」

「うん!」

相変わらず失礼な物言いだけれど冬美さんの料理が気に入ったらしい爆豪くんに彼女は頷いた

「俺のLINEに送ってもらうよ」

「学校のお話聞くつもりだったのにごめんなさいね」

車に乗り込もうとしたエンデヴァーが冬美さんに「ありがとう」と声をかける
きっと冬美さんが繋ぎ止めているんだろう、それをエンデヴァーは分かってる
だから今日は私たちを呼んだんだ

「緑谷くん、焦凍とお友達になってくれてありがとう」

「そんな…こちらこそです!」

嬉しそうな緑谷くん
私と唄ちゃんは3列シートの真ん中なので男子3人が乗り込むのを待つ
するととんとんと冬美さんに肩を叩かれた

「雫ちゃん、焦凍をよろしくね」

「はい」

にこりと微笑んだ冬美さんに頷き車に乗り込んだ








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