ヒロアカaqua


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唄ちゃんの意思を確認して終了かと思いきやエンデヴァーの目がこちらを向く

「シャボン、あれから長い間お前のことを見ていない…お前は何を為しに来た」

前にここに来た時はただ強くなるために来た
けれど今は違う

「限界を超えにきました」

いつも言っているPlus Ultra
それを唱える度に思っていたことがある

「ご存知の通り私は水系最強と言われている個性です
個性を使いこなすために5歳の頃から毎日訓練をして底上げしてきました、判断力や把握力などの戦闘に必要な力も鍛えてきたつもりです」

「その通りだ」

「でも、だからこそ私は自分の限界をとっくに超えたような気になってます
人以上に何でもできる、だから自分より成長している人を見るとどうしようもなく焦る」

対抗戦で見た唄ちゃんの成長スピードに悔しいと感じた
自分が足踏みしている間にかけ上げってきた彼女はいつの間にか追い越して高みへ登っている

「自分で見つけられないのなら見てくれる人の下へ行けばいい、だからあなたを見て自分と何が違うのか把握するために来ました」

「バクゴーと同じか?」

「そうですね」

にこっと笑うとエンデヴァーは頷く

「わかった、しっかり見てやろう…では早速」

「俺もいいか」

踵を返そうとしたエンデヴァーを引き止めたのは焦凍くん

「ショートは赫灼の習得だろう!」

振り返ってくわっと叫ぶエンデヴァー
けれど焦凍くんはいたって冷静に言葉を紡いでいく

「ガキの頃、お前に叩き込まれた個性の使い方を右側で実践してきた
振り返ってみればしょうもねェ…おまえへの嫌がらせで頭がいっぱいだった
雄英に入って、こいつらと…みんなと過ごして競そう中で…目が覚めた

エンデヴァー、結局俺はお前の思い通りに動いてる
けど覚えとけ、俺が憧れたのは…お母さんと2人で観たテレビの中のあの人だ
俺はヒーローのヒヨっ子としてヒーローに足る人間になる為に俺の意志でここに来た

俺がお前を利用しに来たんだ、都合よくてわりィなNo.1
友達の前でああいう親子面はやめてくれ」

そう言い切った焦凍くんに唄ちゃんが心配そうに私を見たので小さく笑っておいた
この親子の問題は想像よりずっと根深い
数ヶ月でどうにかなるような問題じゃないんだ

「ああ、ヒーローとしてお前たちを見る」



その後エンデヴァーと共にパトロールのため街へ出る

「救助、避難、そして撃退、ヒーローに求められる基本三項
通常救助か撃退どちらかに基本方針を定め事務所を構える
俺はどちらでもなく三項すべてをこなす方針だ」

サイドキック含め静岡の街を歩くエンデヴァー
その後ろをついていく私たち

「管轄の街を知り尽くし僅かな異音も逃さず誰よりも速く現場へ駆けつけ、被害が拡大せぬよう市民がいれば熱で遠ざける
基礎中の基礎だ、並列思考、迅速に動く…それを常態化させる
何を積み重ねるかだ、雄英で"努力"をそしてここでは"経験"を山の如く積み上げろ、貴様ら5人の課題は経験で克服できる

この冬の間に1回でも俺より速くヴィランを退治してみせろ」

それを聞いて5人全員が真剣な表情になる
各々の課題を乗り越えるための1週間が幕を開けた







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ーーー






空を駆けながらずっと前を行くエンデヴァーを追う
現着した時には既に解決されている事件

これを繰り返す中で唄ちゃんはエンデヴァーに追いつく速度を出せるようになっていた

「当て逃げ犯確保」

「一足遅かったな」

到着した残り4人を見てそう告げたエンデヴァー

「はあっ…はっ…」

「冬はギアあげんのに時間かかんだよ!」

爆豪くんがイラついたように告げる

「爆豪、気付いてるか?」

「てめーが気づいて俺が気付かねーことなんてねンだよ、何がだ言ってみろ…!」

「(器小さい)」

焦凍くんを見てギリギリと歯軋りをしている爆豪くん
絶対唄ちゃんに先こされてイラついてるんだと思う

「あいつダッシュの度に足から炎を噴射してる、おまえ見てたか知らねえが吸収でやってた"ジェットバーン"
おそらくあれを圧縮して推進力にしてるんだ」

それを聞いて私と爆豪くんは顔を見合わせた

「俺の爆破と泡女のジェット噴射のパクリだ
つーかてめえ…今気づいたんか」

「ああ、全く遠回りをした」

グッと汗を拭う焦凍くん
視野が広がった分見えるものが増えたんだろう
私のジェット噴射はエンデヴァーが元なので最近習得した技だけれど

「もう1つ言わせてもらえばあっちは大通りだ」

すぐに飛んで行ったエンデヴァー
間髪入れず唄ちゃんが飛び出す
もう羽の耐久時間は厳しいだろうに食らいついているのはすごい

「そうか、火炎放射で逃走経路を絞りながら…!」

「先の九州ではホークスに役割分担してもらったが…本来ヒーローとは1人で何でも出来る存在でなければならないのだ
ちなみにさっきのガラスヴィランの手下も俺は気づいていたからな?」

「小っせェな」

「それ君が言う?」

エンデヴァーに追いついた爆豪くんと私
そんな私たちを見てエンデヴァーは口を開いた

「バクゴー、シャボン、何が出来ないかを知りたいと言ったな
確かに良い移動速度、申し分ない…ルーキーとしてはな
しかし今まさに俺を追い越すことが出来ないと知ったワケだ」

その通りだ、推進力を得たところで使えなきゃ意味がない

「冬は準備が!」

「間に合わなくても同じ言い訳をするのか?
ここは授業の場ではない、間に合わなければ落ちるのは成績じゃない…人の命だ」

今まさに交通事故を止めたエンデヴァーがそう言い放った
肩で息をする私たち5人

「ショート、バクゴー、シャボン、とりあえず貴様ら3人には同じ課題を与えよう」

「何で毎度こいつらとセットなんだよ…」

爆豪くんの言葉に確かに神野の時は私と、仮免補講は焦凍くんと一緒だったなと考える

「それが赫灼の習得に繋がるんだな?」

「溜めて放つ、力の凝縮だ
最大出力を瞬時に引き出すこと、力を点で放出すること
まずはどちらか1つを無意識で行えるようになるまで反復しろ」

それを聞いて拳を握る
確かに今まで水分の補足やそれを具現化することばかりで威力の底上げは考えてこなかった
那歩島の時自分の攻撃がヴィランに一切効かなかったことを思い出す

「かっちゃん!A・P・ショットと同じ要領だ!」

「何で要領知ってんだてめー!本当に距離を取れ!」

ズササッと距離を取る爆豪くん、唄ちゃんは「おおっ!」と納得したような表情
幼馴染トリオが仲良さそうなので一安心してしまった



その後ビルの屋上でパンを食べながら休憩を挟む

「ショートとシャボンはどちらも途上、まずは点での放出だ
ショートは氷の形状をある程度コントロールできていたな、あのイメージを炎で実践してみろ
シャボンは攻撃を放つ時に考えすぎ力んでいる、まずは最大出力を出せるように反復しろ
フリューゲルはどちらも出来ている、おそらく無意識だろう」

「え、出来てるんですか私」

無意識で出来ている唄ちゃんに緑谷くんが「すごい!」と告げた
けれどエンデヴァーは彼女に厳しい目を向ける

「だが出来ているだけだ、時間制限ありきのその羽で俺の速度に追いついたとしてもそれだけ
貴様は最大出力の維持を意識してみろ、考えるだけ時間が無駄だ、繰り返し行え」

それを聞いた唄ちゃんが「私が考える前に行動するってことばれてない?」と言ったので苦笑いしてしまう

「デク、瞬時の引き上げが出来ている状態…そうだな?」

その問いに緑谷くんは頷いた

「意識せずとも行えるか?」

「えと…フルカウルはできます、エアフォースはまだ使う意識が…」

「ならまずはエアフォースとやらを無意識でできるように副次的な方はいったん忘れろ」

「でも並列に考えるんじゃ…」

そう言う話だったよね?とこちらを見た緑谷くんに頷く
5人の視線がエンデヴァーに集中した

「そもそも誰しもが日常的に並列に物事を処理している、無意識下でな
あくびをしながら車の運転をしているあの男、奴も初めから運転できたわけじゃない
ハンドル操作・アクセル・ブレーキ、前方後方の確認、1つ1つ段階を踏みそれらを無意識で行えるように教習されている
まずは無意識下で2つのことをやれるように、それが終わればまた1つ増やしていく
それほど強く激しい力であろうと礎となるのは地道な積み重ねだ
例外はいる、しかしそうでない者は積み重ねるしかない、少なくとも俺はこのやり方しか知らん
同じ反復でも学校と現場では経験値が全く違ったものになる、学校で培ったものをこの最高の環境で体になじませろ」

その背中は私がこの前テレビで見たNo.1ヒーローとしての背中で、背中がゾクッとした
日本のNo.1、彼の下で学ぶ意味を正しく理解する

「なに、安心して失敗しろ
貴様ら5人如きの成否、このエンデヴァーの仕事に何ら影響することはない!」








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