ヒロアカaqua


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12月31日 夕方


「ただいま!」

「「おかえり、雫!」」

何ヶ月かぶりに顔を合わせた両親に抱きつく
全寮制になった経緯は私が拉致されたことも原因の一つなのであまり文句は言えないが、外出許可をとるのが本当に面倒なのでもう少し緩和して欲しい

「プロヒーローの方にも上がってもらった方がいいんじゃない?」

「それが、家族水入らずを邪魔したくないって…無理強いするのもよくないかと思ってるんだけど」

「そうか…なら後で夕飯を届けよう
今日は大晦日、プロヒーローの方にも休息は必要だからな」

お父さんの意見に賛同し、自分の部屋に向かう
けれど寮制になった時にほとんどの荷物を向こうに運んじゃったのでガランとした部屋だけが残っていた
ずっと暮らしていた自分の部屋なのになんとなく居心地が悪くてすぐにリビングに向かえば、お父さんがミルクティを用意してくれたので3人でソファに座って会えなかった頃の話をする

「雫、寮の方はどうだ?」

「毎日楽しいよ、みんなで協力して掃除したり、一緒にお風呂に入ったり、勘違いで幽霊騒動もあったりしてね」

「幽霊?」

「うん、勘違いだったんだけどその時」

家に着くまでは何から話そうかずっとそわそわしていたのに、気がつけばあれやこれやと話していた
寮に入ってすぐに部屋王をしたこと、仮免試験で2位通過できたこと、インターンに行って初めてプロの現場を目の当たりにしたこと、文化祭でみんなとダンスを踊ったこと、クラス対抗戦を通じて新しい友達ができたこと、昨日までの那歩島でのこと
話が止まない私を見て両親はとても嬉しそうだった
そんな両親の姿を見て私も嬉しくなる

「続きは晩ご飯を食べながらにしましょう!
今日は雫の好きなものばかり用意したのよ」

「わあっ!」

とても3人分とは思えないほどの量の食事が用意されているテーブル
きっと食欲旺盛な私のためだろう
お重を取り出し適当に詰めて、家の近くに待機しているプロヒーローの方にお裾分けすれば何度も頭を下げられた
車での待機で終わってしまう大晦日はもったいない
少し申し訳ないけれどせっかくの機会なので私もめいいっぱい楽しむことに決め食卓へ戻る

「そう言えばインターンでギルティルージュのところに行ったんだろう?」

「うん!撮影もしたんだよ」

「ニュース見たわ、お父さんが職場の人に自慢げに言いふらしていたそうよ」

「なんて言ったって自慢の娘だからな」

そう言われると嬉しいような少し恥ずかしいような気持ちになってしまう

「あのね、私…雄英に入ってよかった
色々あったけど、全部ちゃんと私の成長に繋がってるの」

いいことだけじゃない、怖い思いもいっぱいした
特に神野での一件は到底忘れられない

「私を産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう!」

お母さんが小さく口を開く
そんなお母さんの肩に触れたお父さんは優しい表情をしていた

「(私もいつかこんな夫婦に…)」

と、そこで最近の焦凍くんの爆弾発言の数々を思い出す
将来まで当たり前のように考えてくれている彼に嬉しい反面、そう言った話になる度に両親の顔がチラついてた

授業参観の時に焦凍くんを見て少し顔を曇らせたお父さん
きっとエンデヴァーのこともあるんだろう

「ねえ、前にエンデヴァーに命を助けてもらったって言ってたけれど…何があったの?」

エンデヴァーという単語に2人の表情が硬くなる
前までだったらこんな表情させたくなくて絶対聞かなかっただろう
けれどもう見ないフリはできない

黙っていたお父さんはお母さんと目を合わせ頷いた

「…まだ雫が物心つく前に父さんは一度事件に巻き込まれてね
"水鞠一族事件"は知っているか?」

「水鞠…?」

聞いたことのない言葉に首を傾げる

「昔存在していた水鞠という家系があったんだ、そこは水系個性の名家でな
数多くのヒーローを輩出しているような一族だった」

「へえ…」

そんな一族がいたなんて知らなかったので少し驚いた
けれど今の社会で個性の強弱で名家認定されることは珍しい話じゃない

「その水鞠はヴィランによって全員殺された」

「え」

「勿論水鞠のヒーローも応戦した、だがヴィランの個性が雷系だったこともあり水鞠は瞬く間に崩壊した
その事件の時に同じ水系個性の家系が狙われる事態が起こったんだ」

合点がいった
この海色も狙われたんだろう

「その時にエンデヴァーに…?」

「ああ、間一発だった…数秒遅れていたら間違いなく死んでいた」

「そう、なんだ…」

お父さんの命を救ってくれた恩人
私の生き方を決めた咎人
焦凍くんや轟家を崩壊させた罪人
どれもエンデヴァーであるけれどもう私は彼を尊敬してしまっている

「私、エンデヴァーのことを尊敬してるよ」

その言葉に両親は黙って耳を傾ける

「許嫁の件を初めて聞いた時は絶対許せないって思ってた
でも職場体験で関わっていつの間にか尊敬するようになってた…本当は利用するなって怒ってやりたいのに」

この前の那歩島の時も私を心配するエンデヴァーに少し嬉しく思ってしまった

「年明けのインターンもエンデヴァーのところに行くよ、私の意思で」

ずっと硬かったお父さんの表情が和らいだ

「そうか…雫が決めたのなら反対しないさ」

話がひと段落したので再び晩ご飯を食べ進める両親
けれどもう1つ言わないといけない

「轟焦凍くんとお付き合いしてるの」

「……え」

「まあ」

嬉しそうなお母さんと対照的にお父さんが箸を置いた

「これも許嫁だからとか関係なく私の意思で「雫」

いつの間にか近くに来ていたお父さんに肩を掴まれた
びっくりして硬直している私の目に映るお父さんはなんとも形容し難い表情だ

「焦凍くんはいい青年だと思う、けれどまだお付き合いとかは早いんじゃないか?」

「何言ってるの、雫ももう16よ」

「まだ16だ!」

慌てた様子のお父さんにぽかんとしていると、お母さんがにっこりと微笑む

「雫がお嫁に行っちゃうのが寂しいのよ」

「嫁!?」

ぎょっとした私とお父さん
焦凍くんとは許嫁なわけで、お父さんも納得しているものだと思ってたけれど違うんだろうか

「ま、まあ結婚とかはまだ先の話だし…ほら、もしかするとフラれるかもだし」

「雫をフる…?許せん」

「(あ、これ何言っても駄目なやつだ)」

もはや話を聞いていないお父さんに呆れていると、お母さんがうまく諫めてくれていた
これで言いたいことは言えた、聞きたいことも聞けた

去年の今頃はまだ入試前で、こんなことになるなんて微塵も想像してなかった
怒涛の1年は間違いなく私を成長させてくれた、きっとこれからも

「(来年はどんなことが待ってるのかな)」

焦凍くんや唄ちゃんと過ごす日常は本当に飽きない
来年も…その先も続くだろう怒涛の日常に想いを馳せお母さんの手作り料理を口に放り込んだ











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