ヒロアカaqua


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意識を失っていた私の耳に届いたのは騒がしい声
目を開くとそこにはエンデヴァーがいた

「焦凍ォオオオ!雫ーーー!!!」

がっと抱きしめられた私たち
熱いし寝起き一発目にそれは勘弁してほしい
けれどプロヒーローが到着したということは事態は解決したということだろう

ホッとしていると続々と自衛隊の人が助けに来てくれた

「焦凍!怪我はないか?!」

「ウルセェ…少し黙れよ」

「雫は!?」

ガバッと肩を掴まれまじまじと見つめられる
職場体験以来会ってなかったけど、どうやらかなりマイルドになっている気がする
それに私も焦凍くんと同じように気に入られているのは何故なのか

「雫に触れんな」

「ちょ、焦凍くん?!」

グイッと私を抱き寄せた彼にギョッとしていると、何かに勘づいたエンデヴァーは頷く

「そうか、そういう仲か…では式の日程だが」

「式?!」

「お前は呼ばねえ」

「ツッこむところそこじゃないよね?!」

何なんだこの親子とあわあわしている私の様子は滑稽だっただろう

リカバリーガールも来ているとの事なので、エンデヴァーに運ばれながらも状況を聞くと、ヴィランは全員制圧
A組だけで脅威は退けていたらしい

他のエリアのみんなも無事と聞いて安心したけれど、重症な幼馴染トリオは早急に治療が必要な状況だと知った
いつも無茶をする3人、けれど今回は3人の無茶がなかったら勝てなかった、守れなかった

「(時には無茶も必要…か)」

柄にもなく考え無しに行動していた自分を思い出し、少し唄ちゃんみたいだったと思った



今回の事件、島の人たちを守り切ることはできたけれどその被害は小さくなかった
ヒーロー公安委員会は即座にプログラムの中止を決定したけれどA組は期日まで残り復興作業の手伝いをした

そしてあっという間に期日である30日

フェリーに乗り込んだ私たちはこれからまた時間をかけ雄英に戻る

「何も黙って帰ることなくね?」

「ねえ」

上の階にいる上鳴くんと三奈ちゃんがそう言った通り私たちは誰にも告げずこの島を出る

「復興の邪魔をするわけにはいかない」

「ま、黙って立ち去るのも」

「ヒーローっぽいか!」

「ええ!」

そんな会話を聞きながら2階にいた私は島を眺める

「あっという間だったなぁ」

ようやく気温にも慣れてきたのに今日からまた元の寒さが帰ってくる
風邪を引きそうなので徐々に体を温めておこうと考えていると汽笛が鳴り、フェリーが出港した

「おーい!!」

聞こえた声に堤防を見れば走ってくるのは活真くんと真幌ちゃんの姿

「デク兄ちゃーん!」

「バクゴー!!唄ー!!」」

「みんなー!島の人たちを守ってくれて」

「「ありがとー!!!」」

必死に大声で叫ぶ2人にクラス全員が手を振った
やけに幼馴染トリオに懐いていた2人はいい笑顔だ

「デク兄ちゃん!僕強くなるね!お父さんとお姉ちゃんを守れるくらい強くなるから!

そして!デク兄ちゃんやバクゴーさんみたいなかっこいいヒーローに!唄姉ちゃんみたいな優しいヒーローに絶対なってみせる!!」

そう叫んだ活真くんに頬が緩んだ

「ハッ、その言葉ァ忘れんなクソガキが」

「じゃあライバルだ!負けないからねー!!」

「活真くーん!君は…君はヒーローになれる!!雄英で待ってるー!!」

最上階のデッキにいた幼馴染トリオの声が聞こえた
嬉しそうな様子の活真くん、そして元気よく手を振る真幌ちゃん
子供はああやって夢を持ってキラキラした目をしているのが1番いい

「雫、お前子供好きだよな」

隣にいた焦凍くんの問いかけに頷く
傍にいた面々はどんどん船内に入って行き、この場には私たち2人だけが残っていた

「なんか純粋で素直で…見ていて飽きないでしょ?
だから可愛いなぁって」

そう告げた私と向き合った焦凍くんはしばらく黙った後で口を開く

「何人ほしい?」

「え」

「子供、俺とお前の」

意味を理解し一気に赤くなる顔
いや、そりゃあ焦凍くんがそこまで考えてくれてるのは嬉しいけど、私たちまだ付き合って間もないし学生だし!!!

「そういうのはまだ早くないかな?!」

「そうか…普通はいつ話すモンなんだ?」

「えっ!?えっと、それは…」

ここで天然さが爆発している焦凍くんにおろおろしていると、そっと指を絡め取られ自然な流れでキスをされた

「ちょ、ここ外…それにみんなもいるから!」

「大丈夫だ、全員中にいる
それにお前を見てると我慢できなかった」

「っー!ちょっとは我慢して!」

たった数日、それでも濃い時間を過ごした那歩島での郊外ヒーロー活動は幕を閉じた

フェリーで本島へ向かい、その後飛行機に乗って静岡へ
電車を乗り継ぎ帰ってきた雄英高校の寮

みんなが自室に戻って荷解きをし、お風呂で疲れを癒す
お湯に浸かりながら明日が大晦日なことを思い出した

「そういえば明日は1日帰省できるんだっけ」

そういえば那歩島に行く前に先生がそんなことを言っていた
全寮制にした経緯を考えてプロヒーローの付き添いの下、大晦日だけの帰省が許されたのは根津校長の計らいらしい

「ずっと会えてなかったから楽しみだなぁ」

休日も外部へ出るには申請が必要なためなかなか自由な時間は取れない
寮制度が始まってから一度も会えていない両親に会えることが嬉しくてそう言えば、唄ちゃんや他の女子も頷いた

「(お父さんとお母さん元気かな…早く明日になったらいいのに)」

那歩島は常夏だったけれど、こっちは冬真っ只中
なんなら雪さえ降っていて寒い
お風呂の温かさにほっこりして怒涛の日々の疲れを癒した








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