ヒロアカaqua


▼ 09



「あの、大丈夫?」

心配して声をかけてくれたのはとても可愛らしい女の子
横髪が長い金髪のボブパーマ、少しつり目気味の金色の瞳
身長は同じくらいだろうけど小顔でいて華奢な身体のせいで小さく見える
美人というよりは可愛い系のその子に見惚れていたけれどハッとした

「大丈夫だよ、ごめんなさい誤解させちゃって」

少し慌てながらそう告げればその子はぽかんとしてこちらを見ている

「(あれ?大丈夫かな?)」

心配になり首を傾げると、ハッとしたように慌て始めた

「あっ…ジロジロとごめんね」

「ううん、私の方こそ…ちょっと緊張しちゃって」

「これだけ人数いると緊張するのも無理ないよ
私も心臓ばっくばくで早く試験終われーって思ってるし」

とても社交的で人見知りもしなさそうなその子は苦笑いを浮かべてそう告げた
素直で表裏のなさそうな私とは正反対の子だなと思いクスクスと笑みが溢れる

「私は海色雫って言います、名前を聞いてもいい?」

「舞羽唄だよ、よろしくね」

「うん、よろしく」

手を差し出せば唄ちゃんは握り返してくれた
本当は受験生同士親睦を深めている場合じゃないけれど何となくこの子と仲良くなりたいと、そう思った

それにしても本当に可愛らしい
背中でぴょこぴょこ動いている羽は個性だろうか
感情と連動していて小動物を愛でる時に似た感情を抱いてしまう

『ハイ、スタート!』

突如聞こえたプレゼントマイクのその声にぽかんとする受験生たち
私と唄ちゃんももれなくポカンと立ち尽くす

『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!?』

まずい、と思った時には一斉に走り出す受験生たち

「(私も行かなきゃ)」

唄ちゃんに目を向けた時、その背中の純白の羽が目に入った
先ほどまでとは異なり巨大化した羽を広げる姿に目を見開く

「頑張ろうね」

そう告げ高く飛び上がったその姿はまるで本物の天使のようで思わず見惚れてしまった

「負けられない」

私だって遅れをとるわけにはいかない
次々と現れる仮想ヴィランの位置を即座に把握して空気中の水蒸気を凝縮し作り出した水泡に閉じ込める

「(飛び道具を使うと周りの受験生を巻き込むかもしれない)」

そうなれば大幅減点に繋がりかねない
そのためあくまで動き封じた仮想ヴィランのコア部分に直接触れ、内部を凍らせることにした
1体1体に時間を割くわけにはいかないので、テンポよく行動不能にしていく

大丈夫、いつもより動きもよく見える
それに周りの受験生が反応するよりも私の方が早く動けている

「(落ちる気がしない!)」

緊張はどこへ消え去ったのかいつも通りの感覚で辺り一帯の仮想ヴィランを追い払った時
ズゥゥンと地響きのようなものが聞こえた

音の方向を見ると巨大な仮想ヴィランがそこにいた
プレゼントマイクの言っていた0Pのお邪魔ヴィランらしい
ふと近くを見ると唄ちゃんが同じようにお邪魔ヴィランを見上げていたので近くに降り立った

他の受験生が逃げ惑う中、私たち2人だけが冷静にこの試験の意味を汲み取る

「唄ちゃん、この試験の意味なんだけど」

先程プレゼントマイクが説明してた時に感じた違和感
それはこのギミックのことだ

わざわざ暴れるだけのギミックをこの試験に投入するだろうか?
ましてやこんな巨大な仮想ヴィランだ

「うん、多分そういう意味も含んでると思う」

もし仮にこれが実戦だったとしたら
逃げ惑う市民を他所にヒーローが逃げてもいいのか

「(いいはずがない)」

この試験にはもう1つの意味がある
それは巨悪と対峙した時に立ち向かう勇気
そして困ってる人を助けようというヒーローとして一番重要な気持ち

「雫ちゃん、戦える?」

「勿論」

きっと唄ちゃんは合格する
漠然とそう思った

「私は上空から、雫ちゃんは地上から攻撃お願い!
体が大きい分小回りは効かないはずだし、鈍いと思う!」

「分かった!ちょっとでも良いから動きを止めてもらえるとコアの部分は破壊するよ」

「オーケー!」

即席の作戦会議を終了しすぐに行動に移す
ギミックの足の部分に大量の水を発生させた

「(こんなに大量にはやったことがないけど)凍れ!」

水全ての温度を変え、凍らせギミックの動きを鈍らせる
上半身はぶんぶん動いているけれどそっちは唄ちゃんに任せよう

ギミックの頭上に立っている唄ちゃんを見上げると、何やら深く息を吸い込んでるように見えた

「止まれええええ!!!」

叫んだ唄ちゃん
その叫びと同時にキュイーンという音が鳴り響き、ギミックが活動を鈍らせた
あれは音波の個性かなにかだと思うけれど、こんなに大きなギミックの内部回線がショートするほどの威力を出せるなんてすごい個性だ

「(やっぱり雄英を受ける子だもん、レベル高いよね!)」

活動を鈍らせているギミックのコア部分に触れ完全に凍結させればギミックは完全停止した
階段状にシャボン玉を作り出し、それを足場にギミックの頭上へと上っていく
上りきるとそこには座り込んでいる唄ちゃんがいた

「大丈夫!?」

「大丈夫だよ、この個性を使うとちょっと疲れるだけだから」

ハハッと力なく微笑む唄ちゃんにホッとした
威力が高い分反動も大きいんだろうか

「もう動くことはないと思うけど、今のうちにここを離れよう」

唄ちゃんに手を差し出し、彼女の手に触れた
立ち上がらせながら唄ちゃんを見れば周りの受験生に被害がないか辺りを確認している

人を思うその優しさ故の行動に彼女はヒーローに向いているとそう感じた
その後終了のかけ声が響き渡り、入試が終わった










prev / next



- ナノ -