ヒロアカaqua


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みんなでケーキを食べ終わってみんながお風呂に入って各々自分の部屋に帰っていく
明日は月曜日ということもあり早く寝ないとなーと思いながらキッチンにある大きい冷蔵庫にストックしてる水のペットボトルを取りに行った
下段のそれも奥の方にあるので屈んで手を伸ばす

「雫?」

声をかけられたので振り向くとそこにいたのは焦凍くん

「水か?」

「うん、買い溜めしてるんだけど部屋のには入りきらないからこっちにも置かせてもらってるの」

「そうか」

5本くらいあればいいかと思い手を伸ばしてると焦凍くんが「取ったやつ持つから貸せ」と言うのでありがたく3本渡した
その後、あと2本を何とか取り出し一息ついた私に焦凍くんが手を差し伸べる
その手を取ったまでは良かったんだけれど、キッチンの床が濡れていたようでバランスが崩れてしまった

「え」

「お」

きっとみんな自分の使った食器を洗ったりしたんだろう
22人もいれば水は飛び散るわけで…いやでも拭こうよ

なんてやけに冷静に考えつつも尻餅をついた私は1つミスをしていた
焦凍くんの手を離さなかったことだ

床に座り込む私に焦凍くんが倒れ込んでくる
慌てて庇おうと身を乗り出すのと、床に手をついた彼が顔を上げた瞬間と重なった

目を開ければそこにはドアップの焦凍くん
そして一瞬、明らかに重なった感触のある唇

「「?!」」

キスしてしまったと気がついてバッと焦凍くんが飛び退くけれど、2人して口元を押さえる
漫画で読んだ展開に呆然としつつ、今起こった事を整理していると物音に気がついた砂糖くんがひょっこり顔を覗かせた

「大丈夫か?何かすごい音したけど」

「あ、ああ…少し転んだだけだ」

「マジか、怪我ねえか?」

「大丈夫だ」

いつも通り返答している焦凍くんに急に頭が冷静になってくる
そうだ、これは事故

「(変に気にするのはよくない)」

そう言い聞かせ平然を装い女子棟へ向かう
何事もないかのように取り繕っていたけれどエレベーターが閉まった瞬間ぶわっ!と顔が赤くなった

「え、ええ?ええええ?!!!」

してしまった、焦凍くんとキスをしてしまった!!
事故とはいえやってしまった!!!とパニック状態だ

自分の部屋に入っても落ち着かなくてそわそわと動き回る
これはどうすればいいのかわかんなくて時間が経てば経つほど考えがまとまらない

「だめだ、唄ちゃんに相談しよう!」

自分の部屋から出て同じ階にある唄ちゃんの部屋に行けば、ちょうど扉が開く
そこには部屋を出ようとしている爆豪くんの姿

「「「あ」」」

3人一斉に出た声
けど都合がいい、爆豪くんにも相談に乗ってもらおうと無理やり彼を唄ちゃんの部屋に押し込んだ

「泡女てめー何しやがる!?」

「いいから!2人とも聞いて!!!」

迫真に迫る私の様子に何かを感じ取ったのか2人はごくりと息を飲む
唄ちゃんに促され座らされお茶をいただいた

「で?どうかしたの?」

「焦凍くんとキスしちゃった」

飲んでいたお茶を盛大に吹き出した唄ちゃん
爆豪くんは一瞬で怒りの形相に変わった

「ンな話聞かせんなや!気色悪ィ!!!」

「爆豪くんが唄ちゃんに片思い中相談に乗ってあげたでしょ?!」

「オメーが面白がってただけだろうがクソ泡!!!」

酷い言い様だと文句を言えば爆豪くんが言い返してくる
困ってるんだから助けてくれてもいいじゃんかと思い話を続けた

「事故なのあれは!何と言うか、転けた拍子に」

「いちいち状況説明すんなや!!」

「どんな顔すればいいかわかんないの!助けてよリア充なんだから!!」

完全に苛立っている様子の爆豪くんがドカドカと扉へ向かって行く
勢いよく開いた扉、そこには焦凍くんの姿

「お」

おもわぬ訪問に一瞬で青ざめてしまう
きっと私の部屋に行ったけど不在だったから話し声がする唄ちゃんの部屋に来たんだろう
どうか爆豪くんが焦凍くんを連れて男子棟に帰ってくれますようにと祈ったけれど、彼は私を掴み焦凍くんへ放り投げた

「他所でやれ!」

バンっ!!と閉まった扉

「(爆豪くん、次の戦闘訓練の時に絶対ボコボコにしてやる)」

許せんと思いつつ、焦凍くんが私を抱えたまま戸惑っているのでひとまず部屋に来てもらうことにした
私の部屋で向かい合って座ること早5分
お互い無言状態が続いている

「(気まずい…!!!)」

私的には正直ラッキーだったけれど、焦凍くんからすれば形だけの許嫁と面倒なことになってしまったと困惑だろう
どうすべきか思案していると、彼がこちらをチラッと見た

「その…さっきのことだが」

申し訳なさそうな顔をしている焦凍くんに慌てて両手をぶんぶんとふる

「大丈夫!全然気にしてないよ!!
ほら、事故だし気にしないで!!」

そう言って少し大げさに笑うと、焦凍くんにその手を掴まれた

「もう1回してぇ」

「………ん?」

言葉の意味を理解できずに目が点になる
もう1回とは?え、キスのこと?それとも何か別のこと??
ぐるぐると頭の中で考えていると、何を勘違いしたのか焦凍くんがぐっと顔を近づけてきたので慌ててその口を手で押さえた

「ちょ!まっ…?!」

「ダメか?」

「いやだって私たち…」

許嫁破棄同盟
お互いに1番仲の良い異性

「(それだけ…それだけのはずなのに)」

目の前の焦凍くんは私が彼を見るのと同じ目でこちらを見ている
明らかに好意を含んだその眼差しにドキドキと胸が高鳴ってしまうのは許してほしい

「あの…こういうのは友達ではしないよ?」

「そうだな、でも俺はお前のこと好きだ」

「っ」

至近距離で告げられたその言葉に力が抜けてしまう
抵抗されないことに気がついた焦凍くんはすかさず私の唇に自分の唇を重ねた
少しパサついたその唇が離れ、綺麗なオッドアイと視線がかち合う

「雫は俺のこと好きか?」

「じゅ、順番が滅茶苦茶…!」

「悪ぃ、我慢できなかった」

悪びれもなくさらっと言ってのける焦凍くんは自分の顔が良いことをちゃんと理解してほしい
そんなに整った顔で謝られたら何でも許してしまう

「ねえ、もしかして文化祭のやつ聞こえてた?」

「ぼんやりとな、けどちゃんと聞きてえ」

聞こえなかったと言ったくせに嘘だったと知って、この1ヶ月くらい焦凍くんの掌の上で転がされていたことに気がつかされる
何で泳がされていたのか考えるけど、あの時私が「また言う」と言ったのもあるし、仮免を取ってからという思いもあったんだろう

色々言いたいことはあるけどこのままも良くないので折れることにした

「好きだよ」

観念して告白した瞬間、再び口を塞がれる
意外とがっつくタイプの焦凍くんにびっくりして引き剥がした

「な、なな、何回するの?!」

「決まりがあんのか?」

「いや、ないと思うけど…」

「ならもう少し」

「ストップストップ!!!」

待てを命じられた子犬のような顔をされて心が痛むけれど、止めないと終わりそうにない

「今日はもうおしまい!」

「明日ならいいんだな」

「(あ、これ何言ってもだめなやつだ)」

天然故に言葉通りに受け取る彼に先が思いやられた









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