ヒロアカaqua


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11月末日

トレーニング室を借りて訓練中の私と豹牙さん

「よい…しょ!」

腕を一振り、大きな氷山を形成する
できるだけ複雑に作ったけれど更に氷山を重ねどんどん高さを出していけば険しい山の出来上がりだ

「ふう…こんな感じでどうかな?」

「さっすがだな!」

100mはあるそれに豹牙さんは満足げなのでホッとする

「これくらいアタシだって出来るわよ!」

そんな私たちの傍に佇む闇舞さんはくわっと叫んだ

「(本当に訓練についてきた…)」

嫌われてはないとは言え、口を開けば対抗心をありありと見せつける闇舞さん
ツンデレだとは思うけど、それが私にだけというんだから不思議で仕方ない

「あこは海色みたいなのがいて使える氷結だろ、張り合うなって」

「深雪はアタシの味方なんじゃないのー?!」

「面倒ごとはパース」

ぐぐっと伸びた豹牙さんは手足だけ雪豹に変身しみるみる内に氷山を駆け上がっていく

「おおー…山岳救助とか向いてそう」

「そうでしょう!深雪はすごいのよ!」

ドヤァと嬉しそうな闇舞さん
そう言えばB組のみんなのことを話すときの闇舞さんはとっても楽しそうな気がする

「闇舞さんって友達思いだよね」

にこりと微笑んでそう言えば、「はあ!?」と大声を出して驚かれた
そんなに驚く?褒めたつもりだったんだけど

「勘違いしないでよね!私は基本誰にでも優しいのよ!!」

「うんうん、そうだね」

「ちゃんと聞きなさいよ!!」

ムキーッ!と叫ぶ闇舞さんを適当にあしらいながら豹牙さん用に氷山をどんどん作り変えていく
山、しかも高山だと足場が悪かったりするのでそれを意識して少しでも彼女の訓練になるように協力したい

そんな私の様子をじっと見ていた闇舞さんはおもむろに口を開いた

「海色さんってお人好しよね」

「え?」

「深雪ともちゃんと話したのこの前の合同訓練が初めてなのに、よくそんなほいほい力貸せるわね」

ひょいっと投げて渡されたのは水のペットボトル
私の個性が体内の水分を使用することを知っているんだろう、用意してくれていたことにフッと笑ってしまった

「闇舞さんこそお人好しだよ
私のこと敵視してるくせにこうやって気遣ってくれるんだから
それにヒーロー科ってみんなそうじゃない?」

ヒーローはお節介だし、困ってる人を放っておけないもの
時に命がけで救助をしても1人でも救えなければ非難される
そんな圧倒的理不尽の中で常に最善を尽くすのがヒーローだ

"誰にだってミスの1つや2つある!「お前らは完璧でいろ」って!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ"

神野で死柄木が言っていたことは一理ある
けれどそれがヴィランになる理由にはならないし、絶対認められない

「そうだ、唄ちゃんのどこが好きなの?」

何気なく聞いてみたら闇舞さんの目が急に輝いたので瞬時にしまったと悟る
けれど時既に遅し、彼女はもう語り始めていた

「唄ちゃんのことは入学当初から知っていたの!
金色の目と髪、背中の羽…一目でわかる光属性の容姿!!
それに明るくて表裏がないところも素敵よね、笑顔がとっても可愛いの!!
体育祭の時に見た戦闘狂モードにも痺れたわ!ギャップが良い!!
林間合宿の時に合同女子会に行けなかったのをどれほど悔やんだか…
それに文化祭のライブも!!!何でA組とB組で時間がかぶるのよ!!?
唄ちゃんの生歌…生涯引きずる自信があるわっっ!!!!」

「あ、うん、もういいです」

つらつらと物間くんばりに話す闇舞さんに遠い目をしてしまう
すごいなほんと、アイドルの追っかけってこういうことなんだろうか

「唄ちゃんと話したらいいじゃん、きっと喜ぶよ」

「話す…?私ガ…唄チャント…????」

「(何その虚無顔)」

言語という概念が記憶喪失したのか片言になった闇舞さんに呆れつつ訓練を続けること2時間弱
そろそろ流石に疲れたので豹牙さんに言って一度降りてきてもらった

「はあ…はあ…っ」

「大丈夫か?」

「うん、何とか…!」

水分補給しながらでもぶっ通しで2時間氷結を作り変え続けるのはかなりきつい
肩で息をしながらも思い出すのはどんどん成長している唄ちゃんの姿
爆豪くんとのコンビネーションは勿論、必殺技で治癒を使うようになってから無闇矢鱈に前線に出ることが減った彼女は自分がどう動くことが最善かを無意識の内に理解できている

前線に出るタイミングも抜群だし、体術を使用した近接は勿論
音波の個性での索敵も遠距離攻撃もお手の物
まさに死角なしの状態へと仕上がってきてる

入学時とは比べものにならないほどの成長スピードに焦ってしまった
唄ちゃんが強くなるのは嬉しい、その反面で自分が情けなくなる

「(ダメだ、考え込むのは私の悪い癖!)」

唄ちゃんならうじうじ考え込む前に行動する
そう思って顔を上げ汗を拭った

「あ、雫ちゃんいたいたー」

聞こえてきた声に顔を上げると、大きく手を振って駆けてくる唄ちゃんの姿

「唄ちゃん?!」

「あ、闇舞さんと豹牙さんだやっほー」

ひらひらと手を振る唄ちゃんにぎょっとした闇舞さんはサッと豹牙さんの背後に隠れコソコソし始めた

「なになに特訓?」

「うん、ほら前に言ってた豹牙さんの」

「あー!あれか!」

今日も元気な唄ちゃんに自然と笑みが溢れた
私の憧れ、そして負けたくないライバル

「どうかした?」

「ううん、何でもない」

にっこり微笑めば唄ちゃんもつられて口角を上げる
ふと、豹牙さんがぴょこぴょこと動く唄ちゃんの羽をじいっと見ていることに気がついた
やっぱりあの羽珍しいし気になるんだろうなーと思って眺めてると、豹牙さんが真剣な顔で口を開く

「なあ、舞羽ってさ」

「うん?」

「鳥だよな」

その言葉に唄ちゃんがピシィッ!っと固まる
それもそうだろう、豹牙さんの個性は雪豹、所謂肉食動物
主な食べ物には鳥も含まれている

「鳥かぁ………美味そう」

「ひいいいっ!!!」

ぽつりとつぶやかれたその言葉に青ざめた唄ちゃんが私の後ろに隠れた
それを見て闇舞さんが悲鳴のような声を出す

「海色さんずるいわ!」

「私チキンが好物でさ…」

「おおお、美味しくないからぁああ!!!」

「(なんなんだこの状況)」

若干頭は痛くなりつつも、賑やかなのは嫌いじゃない
騒がしい3人を前にして、こんな平和な日が続きますようにと…そう祈った









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