ヒロアカaqua


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第5セットの講評の時間

「えー、とりあえず緑谷、何なんだお前」

みんなが気になっていたことをドストレートに問う相澤先生
確かに暴走していたあれが何なのかは気になってしまう

「僕にも…まだハッキリわからないです、力が溢れて抑えられなかった
今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで僕自身すごく恐かった
でも麗日さんと心操くんが止めてくれたおかげでそうじゃないってすぐに気付くことができました
心操くんが洗脳で意識を奪ってくれなかったらどうなるかわからなかった
心操くん「ブラフかよ」って言ってたけど…本当に訳分かんない状態だったんだ2人ともありがとう!」

正体不明の暴走
そのことに焦凍くんと目配せした

「本当ね!緑谷くんの暴走に対して心操くんはもちろん、麗日さんの迅速な判断素晴らしかったわ!
友を落ち着かせる為に体を張って止めに出る!そうよそういうのでいいの!好きよ!!」

それを聞いた三奈ちゃんがお茶子ちゃんを覗き込んだ

「(あ、嫌な予感)」

遠い目をしてしまうのは今まで自分が同じ立場になったことがあるからだろう

「麗日びゅーんってすぐ飛んでったもんねえ、はやかったもんねえ、ガッと抱きついたもんねえ!!」

最後だけ声のトーンがおかしかった気がするのは間違いじゃないはず
唄ちゃんも何だかにっこにっこしてるし、やっぱりお茶子ちゃんは緑谷くんのことが…

「考えなしに飛び出しちゃったのでもうちょい冷静にならんといかんでした…でも…何もできなくて後悔するよりは良かったかな」

顔を真っ赤にして告げたお茶子ちゃん
インターンの後で告げた"救けたい"という思いを実行できた彼女の成長は誰が見ても明らかだった

「いい成長をしてるな麗日」

珍しく相澤先生が優しいことを言うのでほっとしていると、心操くんが口を開いた

「俺は別に緑谷のためだけじゃないです
麗日に指示されて動いただけで…ていうか…柳さんたちも黒いのに襲われてるのが見えた
あれが収まんなかったらどのみちB組の負けは濃厚だった
俺は緑谷と戦って勝ちたかったから止めました、偶々そうなっただけで俺の心は自分のことだけで精一杯でした」

そう告げた心操くんに歩み寄り、彼の捕縛布をキュッと引っ張った相澤先生にギョッとしてしまう

「暴力だー!!!」

「PTA!PTA!!」

騒ぎ立てるA組一同
それを気にも留めない相澤先生は静かに告げた

「誰もお前にそこまでもとめてないよ、ここにいる皆誰かを救えるヒーローになるための訓練を日々積んでるんだ
いきなりそこまで到達したらそれこそオールマイト級の天才だ、人の為に…その思いばかり先行しても人は救えない
自分1人でどうにかする力が無ければ他人なんて守れない、その点で言えばお前の動きは充分及第点だった」

その言葉に緑谷くんが頷いた

「心操くん、最後アレ
乱戦に誘って自分の得意な戦いに戻そうとしてたよね!
パイプ落下での足止めもめちゃ速かったし、移動時の捕縛布の使い方なんか相澤先生だった
第1セットの時は正直チームの力が心操くんを活かしたと思ってた!けど決してそれだけじゃなかった
心操くんの状況判断も動きもヒーロー科の皆と遜色ないくらい凄くて焦った!
誰かのための強さで言うなら僕の方がダメダメだった」

緑谷くんの自己評価に相澤先生は「そうだな」と言う
そうだ、心操くんは全然違和感ないくらい戦えてた

「これから改めて審査に入るが恐らく…いや、十中八九!
心操は2年からヒーロー科に入ってくる、お前ら中途に張り合われてんじゃないぞ!」

「「「「おおおーーー!どっちーーーー!?Aーー!?Bーー!?」」」」

どっと盛り上がる生徒たち
心操くんは嬉しそうに唇をぐっと噛んでいた





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ーーー




その日の晩

A組の寮では反省と交流を兼ねてB組の面々が訪れていた

「海色さん!今日の勝負は私の勝ちよ!!」

「分かってるってば」

闇舞さんよっぽど嬉しかったんだろうなあ
他の人には親切なのに私にはキツイ当たりなのも唄ちゃんと仲良くしてるからかもしれない

「雫ちゃん!」

ぴょんっと抱きついてきた唄ちゃんを受け止める
いつものことなので慣れっこだけど、突如目の前に唄ちゃんが入ってきたことに闇舞さんはフリーズしてしまったようだ

「あれ、闇舞さん?」

おーい?とひらひら手を振ってる唄ちゃん
すると反応がない闇舞さんを回収するため豹牙さんがこっちへやってきた

「あこ、またやってんのか」

呆れたようにため息をついた豹牙さんが唄ちゃんを見る

「舞羽、今日はやってくれたけど今度は私が勝つからな」

「いつでも再戦受け付けるよ」

ピースした唄ちゃんににこにこしてると、豹牙さんの視線が今度は私へ向けられる

「あ、海色
今度高山地を想定した特訓に付き合ってくれない?」

「高山地…?」

「そー、私の個性って雪豹なんだけどさ、そういう山岳地帯っての?
寒くて険しい山とかが向いてるっぽくてさー
氷結出してくれたら一石二鳥じゃん!って」

お願い!と両手のひらを合わせた豹牙さんに目をぱちぱちしてると、闇舞さんがハッ!と我に返った

「深雪ずるいわ!アタシだって…その…」

チラッとこちらを見る闇舞さんに首を傾げる
もしかして唄ちゃんと訓練したいとか?

「あ、闇舞さんも雫ちゃんと訓練したいんでしょ?」

ニッとはにかんだ唄ちゃんがそう告げたので私も闇舞さんもぎょっとしてしまった
自分で言うのもなんだけど好かれていない自覚はあるのでまさかと思って闇舞さんを見れば真っ赤になってぷるぷる震えている

「えーっと…闇舞さん?」

大丈夫?と尋ねる前に「別にアンタのこと好きじゃないわよ!!」と叫んで寮を出て行ってしまった闇舞さんにぽかんとしてしまう
昔読んだ漫画でツンデレキャラが言うセリフにこんなのあったなと思案していると、豹牙さんがケタケタと笑った

「あの子さ、ああやって誰かに突っかかんの海色が初めてなんだって」

「え?」

「多分舞羽の傍にいる海色に嫉妬してたんだろうけど、今日の対抗戦で認めたってゆーかそんな感じになったんじゃない?」

それを聞いてストンと腑に落ちてきた感情は"嬉しい"だった
もしかすると私も案外闇舞さんのことを気に入ってるのかもしれない

「そっか」

今度は私から話しかけよう
そう思って自然と口角が上がった








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