ヒロアカaqua


▼ 47



その後、緑谷くんの案で百ちゃんが創り出したスタンガンを透ちゃんに持たせ、お茶子ちゃんの個性で浮かせる
不意を突けるのは透ちゃんしかいない

ヴィランの意識をこちらに向けるため引き続き呼びかけを行った

「ダカラダマッテクレトナンドイエバワカル…?
イチバンウルサイセイトノ、オヤヲシマツスレバオトナシクナルカナ…」

その瞬間、背後に迫っていた透ちゃんの手からスタンガンが弾かれた
ヴィランは気がついていたようだ

「ドウヤラミエナイコバエガ、マギレコンデイタナ
ヒトリヒトリ、ジックリクルシメタカッタガヤメタ
ミンナナカヨク、ジゴクニイコウ」

ヴィランの取り出したライターが穴に放り込まれた
途端、ガソリンに引火し勢いよく上がった炎
保護者の悲鳴と絶望するような表情が炎にかき消される

このままだとお父さんが死んでしまう

「(どうすればいい?どうすれば!!)」

パニックになっていた私の横を駆け抜けたのは唄ちゃんだった

「今だよ!!」

同じように飛び出したのは爆豪くん
犯人が檻から出ていることに気がついて2人は行動したのだ
すぐに焦凍くんも氷結を放って犯人の足元を凍らせた

「この黒ずくめ野郎が!!」

「大人しくして!!」

ヴィランを押さえつける爆豪くんと唄ちゃん
緑谷くん、飯田くん、焦凍くん、常闇くんと一緒に私もお茶子ちゃんの個性で檻へと駆け寄る

「雫!」

「お父さん!!」

バッと抱きしめられて思わず駆け寄ったけれど今はこんな風に悠長にしている場合じゃない
と、その瞬間地面が揺れた

「何したテメェ!!」

「イッタダロウ?ナカヨクイッショニジゴクイキダ」

ヴィランの手元にはスイッチ
おそらくこの地面を破壊するためのもの
ここが倒壊すれば炎の中に真っ逆さまだ

「おい!下が崩れそうだ!早く避難しろ!!」

尾白くんの声に焦凍くんと共に氷を放って倒れるのを防ぐ
けれど炎のせいで氷は溶けていくため時間は持ちそうにない

「今のうちに!!」

飯田くんや緑谷くん、常闇くんが順番に救助していく
けれどこれじゃあ間に合わない

「くそっ…早くしろ…!」

焦凍くんの声を聞いた緑谷くんがハッとした

「滑り台!!」

「どうした緑谷くん?こんな時に!」

「滑り台だよ飯田くん!ほらこないだ救助の授業で!!」

「救助袋か」

思い出したのはこの前のヒーロー基礎学でやった救助器具の1つ
緑谷くんのアイデアにハッとした

「そうか!つまりこの氷の橋を滑って避難するということだな!」

「もう時間がないよ、八百万さんになにか大きなシートを作ってもらって」

「もうそろそろできますわ!」

そう告げた百ちゃんの背中から大きな布が姿を現す

「防火シートですわ、さっきから作っていましたの
麗日さん、瀬呂さんお願いします!」

「はい!」

「いくぞ、せーの!」

お茶子ちゃんの個性で浮いたシートが瀬呂くんのテープによりこちらへ向かって射出された

「受け取れダークシャドウ!」

「アイヨ!」

シートを受け止めたダークシャドウ
広げられたシートの上に保護者を乗せた

「飯田くんのエンジンで引っ張って、僕たちが後ろから押すのがいいと思う!轟くんと海色さんはギリギリまで氷結していてほしい」

「「わかった」」

焦凍くんと顔を見合わせる
彼との連携はお手の物だ

「犯人はどうする」

「おいていくわけにはいかないけど…」

「ヘンな真似したら俺が爆破する」

「私の羽が先かもね」

安定のヒール顔の爆豪くんと負けずと冷たい目の唄ちゃん
あの戦闘狂の2人に押さえつけられているなんてヴィランだけれど同情してしまった

「行こう緑谷くん!」

「うん!」

「最初から全開だ…トルクオーバー…レシプロバースト!!!」

飯田くんが走り出す直前に焦凍くんと共にシートに転がり込んで私たちはもれなく全員が氷の橋を渡りきることに成功した

安堵に包まれる中、ふとヴィランが言葉を発した

「オメデトウ、コレデジュギョウハオシマイダ」

「は?何言って…」

「捕まえとけ、とりあえず学校に知らせねえと…」

「それに相澤先生を…」

「はい、先生はここです」

倒壊したビルの影から出て来たのはいつも通り無気力な様子の相澤先生
その姿にクラス全員がポカンとしてしまった

あれ、土の中じゃ…というか無傷?

「みなさんお疲れ様でした、なかなか真に迫っていましたよ」

保護者にそう告げた相澤先生
先ほどまでヴィランに怯えていたはずの保護者たちの表情は晴れやかだ

「いやーお恥ずかしい!先生の演技指導の賜物ですわ!」

「緊張しましたわ」

「爆豪さんがキレた時はどうなることかと思いましたケロ」

「そーよ、びっくりしたわぁ」

「すみませんーっ、つい…」

和気藹々と話し始めた保護者たちの様子に状況が理解できないでいる生徒たち

「まだわからねえか?わかりやすく言うとドッキリってやつだな」

「「「「はぁあああ!!!??」」」」

いつものように一斉に大声を上げた一同

「は、犯人も…!?」

「えー…この人は劇団の人です、頼んで来てもらいました」

「エッ…ア、ハイ、オドロカセテゴメンネ?」

首を傾げたヴィラン役の人に一気に力が抜けてしまう

「チッ、どうりで手応えねえクソモブだったぜ」

「ちょっと待ってください!さすがにやり過ぎなのでは!?
一歩間違えば怪我どころでは済みません!!」

百ちゃんが抗議の声を上げるけれど相澤先生は表情を変えないまま続けた

「万が一には備えてある、やりすぎってことはない
プロのヒーローは常に危険と隣り合わせだからな、ヌルい授業が何の身になる?」

「それはそうですけど…」

「怖かったか?家族になにかあったらと」

「はい、とても」

私もお父さんの身に何かあったらと思うと体が震えた
いつもは冷静に回る思考も全然ダメで、身動き一つできなかった

「身近な家屋の大切さは口で言ってもわからない、失くしそうになって初めて気づくことができるんだ、今回はそれを実感してほしかった
いいか、人を救けるには力、技術、知識、そして判断力が不可欠だ、しかし判断力は感情に左右される
お前たちが将来ヒーローになれたとして自分の大切な家族が危険な目に遭っていてもヘンに取り乱さず、救けることができるか
それを学ぶ授業だったんだよ、授業参観にかこつけた、な…わかったか八百万」

「…はい」

「それともう一つ、冷静なだけじゃヒーローは務まらない、救けようとする誰かはただの命じゃない
大切な家族が待っている誰かなんだ、それも肝に銘じておけ」

「「「「はい」」」」

ヒーローが背負うもの
その重みと大切さを再確認できた時間
いつも無茶苦茶だけど雄英のやり方は合理的でいつも分かりやすい

「で、結果的には全員救けることができたが、もうちょっとやりようあっただろ
犯人は1人だぞ、わらわらしすぎだ、無駄な時間が多い
それにスタンガン?もっと合理的なもんがあるだろ
それから犯人の注意を引きつけるのに話しかける一辺倒は芸がなさすぎる、他にも色々言いたいことはあるが…まあギリギリ合格点だ」

突如始まった説教にどんよりしていた一同だが、合格点という言葉に全員が表情を明るくしていく

「今日の反省点をまとめて明日提出な」

「あ、あの感謝の手紙の朗読は…!ドッキリをカモフラージュするための合理的虚偽だったのですか!?」

「改めて手紙を書くことで普段より家族のことを考えただろ?」

「確かに」

「それじゃ今日はこのまま解散、保護者の皆様ご協力ありがとうございました」

みんなが保護者に駆け寄るのを見て私もお父さんに駆け寄った

「お父さん、怪我してない?」

「大丈夫だよ、雫は大丈夫か?」

「平気だよ」

ぽんぽんと頭を撫でられて頬を緩めていると、唄ちゃんがお母さんと一緒にこちらへやって来た

「初めまして、唄の母親です
いつも唄と仲良くしてくれてありがとうねぇ、雫ちゃん」

「こ、こちらこそいつもお世話になっています!」

元モデルとは聞いていたけれどとんでもなく綺麗なその美貌におどおどしている私を差し置いてお父さんは「輝莉さん…ですよね!?」とテンションが上がっていた

そういえばお父さんファンだったって言ってたなとその様子を眺めていると、唄ちゃんのお母さんは気前よくサインを書いてくれていた
絶対帰ったらお母さんに自慢するやつだと思う

盛り上がっているお父さんを呆れて見ていると、名前を呼ばれたので振り向く
そこには焦凍くんとそのお姉さん

「雫、前に話した俺の姉さん」

「初めまして、焦凍の姉の冬美です」

「初めまして、海色雫です」

ぺこりと頭を下げればお父さんも同じように会釈していた

「お父さん、こちら焦凍くん」

「ああ、知っているよ…雫がいつもお世話になっているね」

「いえ…こちらこそ」

正直お父さんは轟家にあまりいい印象がないのかどことなく余所余所しい
それを察した私と焦凍くんは長話するのはやめといた方がいいだろうと思い挨拶もそこそこに切り上げた

その日帰宅後にお父さんがお母さんに嬉しそうに唄ちゃんのお母さんのサインを自慢していたので案の定の姿に苦笑いしてしまった









prev / next



- ナノ -