ヒロアカaqua


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授業参観当日


HRの時間が始まる前にみんなが席に着く
相澤先生はいつもぴったりにやってくるので怒られる前に着席しておこうと言うわけだった

けれどチャイムが鳴ってもドアが開かない

「相澤先生来ないね?」

「遅刻かしら?」

「なっ、見本であるはずの教師が遅刻とは…!これは雄英高校を揺るがす由々しき事態だぞみんな!!」

いつにも増して大騒ぎな飯田くんは置いておいても確かにこの状況はおかしい
結局HRが終わるチャイムが鳴ってもドアは開かなかった

「そう言えば、そろそろ保護者が来てもいい時間じゃありません?」

「そだな、でもまあ始まるまで時間はもう少しあるし…」

「でもまだ1人も姿を見せないのは…」

百ちゃんの言葉に唄ちゃんが「うちのお母さん迷ってそー」と告げたので飯田くんが立ち上がった

「よし、僕が委員長として職員室に行ってくる、みんなはそのまま待機していてくれ」

と、直後
全員のスマホが一斉に鳴った

内容をチェックすれば相澤先生から「今すぐ模擬市街地に来い」というメッセージが入っている
入試実技試験も行ったあの場所に何の用があるんだろうか

訝しみつつ全員でバスに乗り込み移動する一同
到着した先には先生の姿はない

「この中で待っているということなんだろう、さあみんな行こう!」

先陣を切っている飯田くんに続こうとするけれど、障子くんの「なんか匂う」という言葉で一同は立ち止まった

「ガソリンのような匂いだ」

「どっかで交通事故とかの演習でもやったんじゃねえの?」

上鳴くんがそう返した直後、悲鳴が聞こえた
それに1人じゃない、複数人だ

急いで駆け出した私たちの向かった先には空き地が広がっている
そこにあったはずのビルは倒壊したらしく、瓦礫が脇に無残に寄せられていた

ビルの建っていたところには大きな穴、半径数十メートルはあるその中央にポツンと取り残された檻
一見宙に浮いているように見えるのは丸かじりして残されたリンゴの芯のように削り残された塔のような地面の上に檻が置かれている

「雫…っ!!」

「っ、お父さん!!!」

檻の中にいる保護者たち
お父さんの姿を見てヒュッと乾いた息を吸い込んだ
慌てて穴の淵まで行くけれど、穴にはガソリンが巻かれているようで匂いが立ち込めている

「なんだよこれっ?なんで親があんなとこ…」

「つーか相澤先生は!?」

「アイザワセンセイハイマゴロネムッテルヨ、クライツチノナカデ」

どこからか聞こえた声
その言葉の内容に動揺が走る

「暗い土の中って…」

「相澤先生やられちゃったってこと…?」

「嘘だよ!なんかの冗談だろ!?もうエイプリルフールは過ぎてんだぞ!つーかお前誰だよ!?姿を見せろ!!」

「サワグナ、ジョウダントオモイタイナラオモエバイイ
ダガ、ヒトジチガイルコトヲワスレルナ」

人質とは保護者のことだろう
檻の中にいるその姿にごくりと息を呑んだ

「この周りじゃない、声はあの檻の中からだ」

「中…?」

「ソノトオリ、ボクハココニイル」

保護者の背後から姿を現したのはフード付きの黒マントに黒いフルマスクをつけた人物
背の高い男を見た保護者たちは逃げ惑う

「サキニイッテオクガ、ガイブヘモガッコウヘモレンラクハデキナイノデアシカラズ
アア、モチロンソコノデンキクンノコセイデモムダダ」

「マジか、くそっ…」

「ニゲテソトニタスケヲモトメニイクモキンシダ、ニゲタラソノセイトノホゴシャヲスグニシマツスル」

各々の保護者が助けを求める
そんな姿に不安が広がっていった
相澤先生がやられたかもしれない、親が人質にとられている
これが現実だと

「なんで…なんでこんなこと…!?」

「ボクハユウエイニオチタ、ユウエイニハイッテヒーローニナルノガボクノスベテダッタノニ
ユウシュウナボクガオチルナンテ、ヨノナカマチガッテイル
セケンデハボクハタダノオチコボレ…ナノニキミタチニハアカルイミライシカマッテイナイ、ダカラ」

「要するに八つ当たりだろうがクソ黒マントが!!」

痺れを切らして叫んだ爆豪くん

「勝己!!!」

「めんどくせえ、今すぐブッ倒してやるよ!」

「ダメ!人質がいるから!」

今にも飛んで行きそうな爆豪くんを慌てて唄ちゃんが止めに行くけれど振り払って行ってしまいそうだ

「ソウダ、ヒトジチガイルノヲワスレルナ」

「キャア!」

「勝己ママ…っ!!!」

ゾッとした表情の唄ちゃん
幼少期のトラウマのせいか小さく手が震えている
そんな唄ちゃんと母親を見て爆豪くんも焦りが生まれている様子だ

「勝手に捕まってんじゃねえよクソババア!!」

「クソババアって言うなっていつも言ってるでしょうが!!」

先ほどまでの空気は何処へやら
爆豪くんのお母さんの叫びに全員がきょとんとした

「…すげー、さすが爆豪の母ちゃん」

「ヘンな感心してんじゃねえクソ髪!!」

「勝己ママってば…!」

幼馴染の唄ちゃんと緑谷くんが遠い目をしているので昔からこんな感じなんだろう
けれどおかげで全員が落ち着けた

「それで、あなたの目的は何ですか」

「モクテキハヒトツ、カガヤカシイキミタチノアカルイミライヲコワスコト
ソノタメニダイジナカゾクヲキミタチノマエデコワシテシマオウトオモッテネ」

「それだけのためにか!?」

「俺たちが憎いなら俺たちに来いよ!家族巻き込むんじゃねえ!!」

みんな家族のために怒りを堪え叫ぶがヴィランは動じない

「ボクガコワシタイノハキミタチノカラダジャナイ、ジブンヲキズツケラレルヨリ、ジブンノセイデダイジナダレカガキズツケラレルホウガキミタチハイタイハズダ、ヒーローシボウノキミタチナラネ」

「あなたもヒーロー死亡だったのならこんな馬鹿なこと今すぐやめなさい!」

「そうだよ!こんなことしてもすぐ捕まるんだからね!」

「ニゲルツモリハナイ、ボクニハウシナウモノハナニモナインダ
ダカラキミタチノクルシムカオヲ、サイゴニミテオコウトオモッタンダ
キミタチモダイジナカゾクノサイゴノカオヲ、ヨクミテオクンダナ…サア、ダレカラニシヨウカ?」

逃げ惑う親たち
その様子に青ざめる

「雫、落ち着け」

「大、丈夫…」

考えろ、どうにかしてお父さんを、保護者を助け出さないと
必死に頭を回す中、私の耳に届いたのは緑谷くんのブツブツ
こうなった時の彼がいいアイデアを出すかもしれないことはクラス全員が知っている

緑谷くんを隠すように焦凍くんと飯田くんと3人で前に立った

「緑谷、もっと声小さくしろ、気づかれる」

そう告げた焦凍くんにハッとした緑谷くんが顔を上げた

「あっ、ごめん、つい…」

「緑谷くん、何かいいアイデアが浮かんだの?」

「いやまだ…」

「そうか…みんな、犯人の気を逸らしてくれないか?気づかれないように」

飯田くんの言葉に切島くんと上鳴くんが前に出て数名の生徒が続いた
みんなの時間を稼ぐ様子に緑谷くんがギョッとする

「みんななんで…」

「今手も足も出せないのはみんなわかってる、お前の奇襲にかけるしかないんだ」

「奇襲って」

「そういうの得意だろ、どうにもならない何かをぶっ壊すのは」

「っ」

焦凍くんの言葉に泣きそうになっている緑谷くん
そんな彼の姿を見て焦凍くんと少し笑ってしまった
彼は本当に自分がどれだけ影響力のある人間か理解していない









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