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「授業参観かぁ、感謝の手紙どうしよ」
授業参観を聞かされた日の帰り道
いつものように焦凍くんと駅に向かっていると、緑谷くんと飯田くんもやってきて4人で帰ることにしていた
保須での一件以来何かと一緒にいることが増えたのはきっと秘密を共有した仲だからだろう
「どうもこうも書くしかねえだろ」
「最初は疑問だったが素晴らしい提案だと思うぞ、日頃から家族に感謝の気持ちはあるがこんな機会でもないと改まって言うことがないからな
そう言えば手紙に枚数制限はあるのだろうか?少ない枚数だと困るな、気持ちが書き尽くせないかもしれない」
「すごいね、そんなに書くことある?」
「僕、どう書けばいいのか何も浮かんでこないよ、ヒーローたちへHPからメッセージはよく送ってたけど手紙ってあんまり書いたことないし」
ノリノリの飯田くんに緑谷くんと眉を下げれば、彼は不思議そうな顔をした
「そうなのかい?僕はたまにお礼の手紙を出すが」
「「お礼の手紙!?」」
びっくりして緑谷くんとハモってしまった
「たまに道で救けたおばあさんなどがお礼の品を送ってくださることがある、その時には必ずお礼状を出すようにと両親の教えでね」
「さすがいいトコの…!」
普通だろうと問うてくる飯田くんに焦凍くんと私は首を横に振った
焦凍くんもいいトコ育ちだけれど家庭の事情的にあまり外出もしていなかったようだし、私も少し裕福なくらいの一般家庭だ
と、その時飯田くんが封筒を取り出した
「僕としたことがうっかり忘れるところだった!これ!」
「何だよ?」
「遊園地のチケットをいただいたんだ、ネイティブさんから僕たちにと」
封筒から出て来たのは遊園地のチケットが4枚
絶叫系好きな私は目を輝かせてそれを見た
「誰だ?」
「あのステインと戦った時にいたヒーローだよ!でもどうして?」
「お礼だそうだ
せっかくのご厚意だ、一緒に行かないか?」
飯田くんの提案にうんうんと頷く
「いいね!」
「まあ別に」
「行こう行こう!」
楽しみだーとにこにこしていると、飯田くんが申し訳なさそうに眉を下げた
「しかし期限が来週までなんだ、3人とも来週の日曜日は空いてるかい?」
来週の日曜日
そう告げられてハッとする
そう言えば先日お父さんから来週の日曜日を空けておくように言われていたなと
緑谷くんはヒーロー展、焦凍くんはお見舞いがあって行けないらしい
「私もその日はお父さんの職場のパーティに誘われてて…」
「「パーティ!?」」
ギョッとした緑谷くんと飯田くんに苦笑いしてしまう
「う、うん…年に何度かご家族の方もどうぞっていうものがあってね、それに参加する予定なんだ」
「前から思ってたけど海色さんってもしかして八百万さんみたいなお嬢様だったり…?」
「違うよ、普通の家庭
けどお父さんの会社がちょっと大きめのところだからイベントが多くて…それがきっかけで百ちゃんとも知り合ったの」
「なるほど…」
正直遊園地は捨て難いけれど両親最優先のためお断りさせていただく
うう…ジェットコースター…フリーフォール…!!!
「残念だが仕方がない、チケットを無駄にするのも悪いし他に誰か誘って行くことにしよう」
「そのうち4人で行こうよ…あっ、いや、行けたらいいな…と」
徐々に声が小さく、歯切れが悪くなっていく緑谷くんに首を傾げる
「何でそんな気弱なの?」
「3人はそうでもないのに僕だけ行く気満々だったらと思って…」
おどおどしている彼に3人で顔を見合わせ笑った
「ふふっ、緑谷くんらしいね」
「君はあんなにすごい力を持っているのに普段はからっきしだな!」
「本当だよ」
焦凍くんも飯田くんも緑谷くんに救われた
私だって彼のおかげで少しずつ自分らしくいることを受け入れているというのに当の本人が無自覚なんだから面白い
「…あっ、そういえば飯田くんのうちは授業参観誰が来るの?」
「母だ、父は仕事だろうからな
緑谷くんの家はどなたがいらっしゃるんだ?」
「ウチもお母さんだと思う、海色さんは?」
「うちはお父さんが来ると思うよ」
お父さんは昔からイベントには必ず休みを取ってくれて参加していたし、今回もそうなんだろうと予想した
「そっか、轟くんちは…」
「ウチは…誰も来ねえかもな」
焦凍くんの返答に3人でハッとする
体育祭の時に聞いてしまった複雑な家庭事情を思い出して目を伏せた
「あの、ごめん…」
「そうか、母上は入院中だったな、すまない」
「別に気にしてねえよ、謝ってもらうほどのことでもねえし」
そう言った焦凍くんに、もしかして今まで授業参観というものに来てもらったことがないのかもしれないと察して何も言えないでいると飯田くんが眉を下げた
この中で彼だけが焦凍くんの家庭事情を詳しく知らない
「しかし子供の晴れ姿が見られないのはさぞかし残念だろう」
「別に…それにあいつに観に来られたらゾッとする」
教室の後ろに立つエンデヴァーを想像して私も変な汗が出てしまった
それにお父さんも来るのにエンデヴァーまで来たらまさに地獄絵図だろう
「アイツ?エンデヴァーさんのことか?お父上のことをアイツというのは感心しないな、せめてお父さんと呼んでみてはどうだ?」
「クソ親父なんかアイツで十分だ」
食い気味に飯田くんが詰め寄るので緑谷くんと2人でオロオロしてしまう
止めるべきかソッとするべきか分からない
「お父さんと呼ぶのが嫌ならばパパはどうだ?」
「パ…?」
「もしくはダディとか?」
「ダ…?」
困惑している焦凍くんの表情が強張っていくので慌てて割って入った
「ま、まあ!呼び方は置いておいて、手紙頑張ろうね!」
強制的に会話を終了させて話題を変えれば、みんなが頷く
すると焦凍くんが足を止めた
「ちょい用事思い出した」
その様子を見てきっとお母さんのところに行くんだろうと悟った私は頷いた
「うん、じゃあここで」
「また明日」
「気をつけて!」
「ああ」
遠ざかる焦凍くんを見送って3人で駅まで歩く
彼がいない通学路なんて中学生以来で懐かしい気がする
「…ごめんね海色さん、轟くん嫌な思いしてないかな?」
「多分大丈夫だと思うよ」
焦凍くんにとって2人は大切な友達だろうから
そう付け加えれば2人は嬉しそうに、けれど照れ臭そうにはにかんだ
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