▼ 43
6月上旬
今日のヒーロー基礎学は救助袋を使用した降下訓練だ
たった今緑谷くんが降りて行ったので男子は終了
「よし、男子は全員終わったな
次は女子、八百万」
「はいっ」
ビルの下から相澤先生が名前を呼び、呼ばれた人から順に降りていく
百ちゃんが女子のトップバッターらしい
「ちょっと怖いかも」
「大丈夫大丈夫、浮遊感も一瞬だけだよ」
少し怖がっているお茶子ちゃんにそう言った唄ちゃん
普段から飛んでいるし浮遊艦はお手の物なんだろうなと考えていると、相澤先生が「舞羽」と呼んだので彼女が降りていく
その後私も名前を呼ばれたので降りていくと、何やら男子が騒がしい
騒ぎの中心にいるのは爆豪くんと飯田くん
人一倍正義感が強い飯田くんにとっては爆豪くんは理解しがたい存在なんだろう、逆も然り
爆豪くんに詰め寄ろうとする飯田くんを緑谷くんが押さえている姿を呆れた顔で見つめた
「まあ、向き不向きがあるのは確かだな」
騒がしい集団の傍にいた焦凍くんが口を開くので今度はそちらへ一同の目が向けられた
「爆豪が人命救助してるところは想像できねえ」
「…っんだとテメェ!!!」
「あーわかる!逆にケガさせそう!」
「テメェを先にケガさせてやろうか!!」
納得したような上鳴くんにブチギレている爆豪くんはまさにヴィラン
相変わらず人相悪いなと苦笑いしていると先生の冷たい声が響いた
「…おまえら、今何の時間かわかってんのか?」
その声に一同がピャッと姿勢を正す
怒気を含む先生の恐ろしさは身に染みているので静まり返った
「向いてるとか向いてねえとかさっき言ってたが、現場でそんな言い訳は通用しねえからな、やること当たり前にできてこそプロヒーローなんだよ
救助隊や警察が間に合わなかった場合、避難の誘導をするのも務めだ」
「誘導するくらいなら救出した方が早いんじゃ?」
そう言って挙手したのは透ちゃん
「誘導するくらい大勢の場合ということでは?」
百ちゃんの言う通りだったらしい、頷いた相澤先生が言葉を続ける
「そうだ、1人や2人なら救出は難しくないだろう
だが大勢いた場合は救助器具が大いに役立つ、いざその時になって使い方がわからねえんじゃ話にならないだろ
だから一通りの救助器具のカリキュラムがあるんだよ、わかったか爆豪」
「…っス」
名指しされた爆豪くんはまだ不服そうで納得はしていないようだけれど相澤先生を前に下手なことはしないらしい
と、突如上空からヘリの轟音がした
「空から…私が来たー!!」
ズシンッと大きな音を立てて着地したのはオールマイト
突然すぎてギョッとしてしまう
「やあ遅れてすまないね諸君!
ちょっと出がけにヴィランを捕まえて来たものでね!」
「まったくですよ、本当ならあなたの担当時間だったんですから」
呆れた様子の相澤先生を他所に緑谷くんはオールマイトの登場に興奮して饒舌になっている
「緑谷少年、賞賛はありがたいがもうおなかいっぱいさ
ヘリをいつまでも待たせておくわけにはいかない」
「ヘリ?オールマイトを運んできただけじゃ…」
「緊急時でもあるまいし、私の登場だけで使うワケないだろう?
さ、これからヘリによる救助訓練さ!アーユーレディ!?」
楽しそうなその訓練にそわそわした唄ちゃんに微笑んだ
ーーーーーーー
ーーー
授業が終わり、教室へと帰って来た一同
HRのため相澤先生が入って来た
「はいおつかれ、さっそくだが再来週授業参観を行います」
「「「「授業参観ー!!?」」」」
毎度のことだけれど突然すぎるイベントに驚く一同
「ヒーロー科でもそういうのあんだな」
切島くんの言う通りで中学の頃までは当たり前だったそれもヒーロー科という特殊な学科である以上ないとばかり思っていた
配られたプリントには授業参観のお知らせと書いている
「プリントは必ず保護者に渡すように
で、授業内容だが保護者への感謝の手紙だ、書いてくるように」
「まっさかー、小学生じゃあるまいし!」
「俺が冗談を言うと思うか?」
シーンと静まり返った教室
先生が冗談を言うようには思えないけれど…両親のことが好きだとは言え公開で朗読なんて正直嫌だ
「いつもお世話になっている保護者への感謝の手紙を朗読してもらう」
「マジでー!?冗談だろ!!」
「さすがに恥ずいよねえ…」
動揺しざわつくクラス
目の前でバッと立ち上がった飯田くんはいつものように腕を動かしながら叫んだ
「静かにするんだみんな!静かに!静かにー!!」
「飯田ちゃんの声が一番大きいわ」
「ム、それは失礼
しかし先生、みんなの動揺ももっともです
授業参観といえばいつも受けている授業を保護者に観てもらうもの
それを感謝の手紙の朗読とは納得がいきません!もっとヒーロー科らしい授業を観てもらうのが本来の目的ではないのでしょうか!?」
飯田くんの指摘にクラス中がいいぞいいぞと心の中でエールを送る
正直手紙を朗読するなんて拷問に近いかもしれない
「ヒーロー科だからだよ」
「それはどういう…」
「お前達が目指しているヒーローは救けてもらった人から感謝されることが多い
だからこそ誰かに感謝するという気持ちを改めて考えろってことだ…ま、プロになれるかどうかまだわからないけどな」
「なるほど!ヒーローとしての心構えを再確認する、そしてヒーローたる者、常に感謝の気持ちを忘れず謙虚であれということを考える授業だったのですね!納得しました!!」
納得が早い飯田くんに苦笑いしつつもみんな諦め承認ムードだ
嫌だけれどそれはみんな同じ、だったらやるしかないんだろう
「ま、その前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だが」
「むしろそっちが本命じゃねえ!?」
全員を代表して叫んだ上鳴くんに相澤先生は静かに「座れ」と告げた
prev / next