ヒロアカaqua


▼ 110



「唄ちゃんと仲良くして…許せない!」

突然そんなことを言われて戸惑っていると、闇舞さんは近接へと持ち込んできた

「っ、はや」

唄ちゃんと同等かそれ以上の素早さ
それに動きが完全に近接戦闘を得意としている人のそれで冷や汗が伝う

「(距離を取らなきゃ)」

至近距離で放った大波
流されたであろう闇舞さんを探そうとするけれど、どこからともなく飛んできたのは勢いよく噴出された水

それが頭に直撃して再び吹き飛ばされる

「ぐ…っ」

「まさか自分が水系攻撃を食らうなんて思ってなかったでしょ?」

余裕そうな闇舞さんが馬乗りになってくる
腕も足も押さえつけられて身動きが取れない

「知ってるの、アナタ個性を使おうにもワンモーションいるものね」

私は焦凍くんみたいにノーモーションで攻撃を繰り出すことはできない
必ず腕を振りかぶるなんていう動きが必要だ
多分体内と空気中の水分をリンクづけるためだと思う

闇舞さんはそれを理解して動きを封じてきた

「よく…ご存じで…ッ!」

「そりゃあそうよ、アナタのことはとことん調べあげてるもの」

耳元に口を寄せた闇舞さんがカメラに拾われない小さな声で囁いた

「轟くんのことが好きだってこともね」

その言葉に苛つき、全身を液状化して拘束を振り解く

「私も知ってるよ、闇舞さん
個性は吸収&発散…便利だよね、人の個性を強化して放てるんだもん」

彼女の個性は人の個性を闇で吸収して強制的に威力を上乗せして放つというもの
所謂鏡みたいなものだろう
だから最初のスワロウストライクも、その後の焦凍くんの生み出した氷結も、今の大波も出せた

開始前にみんなと話したのは闇舞さんのこと
全部返されるんじゃ攻撃のしようがないと困っていると、尾白くんは「肉弾戦ならどうかな?」とアイデアをくれた

「(個性を使えば返される、肉弾戦を挑むしかない
けれど近接戦をやってみて分かったけれど間違いなく相手の十八番)」

これが実践なら死
圧倒的に力の及ばない相手を前にした時は増援を待つしかない
その増援を待つために時間稼ぎをする、これがこの試合での私の役割

「さっき氷結を消せなかったのは個性の影響?」

「そうよ、吸収したものに闇属性を強制付与して威力を底上げしてるの
その時点で水とも氷とも違う物質へとそれは変わる
ただの水でも氷結でもないならアナタにだって相殺できないでしょう?」

殴りかかってきた闇舞さん
唄ちゃん同様のパルクールを学んだその動きに翻弄されながら重たい一撃をクリティカルから外していく
避け切ることができないので体中ボロボロだ

と、その時熱風が押し寄せてきた

「(焦凍くん…っ!)」

さっきの場所からかなり離れているはずなのにここまで到達する熱風
エンデヴァーの火力に匹敵するそれに息を飲む

「よそ見してる暇あるの?!」

飛びかかってくる闇舞さん
けれどその拳も蹴りも全てを躱した
いいや、受けた箇所のみを液状化することでダメージを受けなくしていった

「いいの!?それ体力消耗するんでしょ?いつまで持つかしら!!」

不敵に笑う闇舞さんに2つ気がついたことがある

彼女の個性は身体変化系は吸収できないらしい
もしできるのなら私の液状化もとっくに真似されている

そしてもう1つは吸収した個性を発散するにはある程度のラグがあるということ
最初のスワロウストライクもさっきの私の大波も返すまでに少し間があった
焦凍くんの氷結はいつ取り込んだのかは定かじゃないけれど

「(それを悟らせないため…あくまで計算通りという風に見せるために位置もタイミングも計算されている)」

個性を放つ相手に自然と得意分野に持ち込めるように

「ねえ、どうして唄ちゃんに執着してるの?」

闇舞さんのことは前から知らなかったわけじゃない
唄ちゃんに憧れているという話も拳藤さんから聞いていた

「執着?違うわ、アナタはアイドルを見て執着する?
憧れるでしょう?自分とは違う世界の人と思うでしょう?
私は唄ちゃんにその感情を抱いてるの」

もう体内の水分が1/3を切った
ほぼノンストップで液状化しているんだから仕方ないのかもしれない
それにさっきは全身液状化もしてしまった、いくら冬でも減るものは減る

「…そっか、じゃあ私と一緒だ」

「え?」

痺れる指先をぐっと握って闇舞さんを抱え込む
絞め技はインターン中にギルティルージュから学んだ

「放し…っ!?」

私たちの周囲に冷気が漂っていく

「私もあの子みたいになりたい、憧れてる…だからこんなところで負けられないの」

闇舞さんが何かを告げる前に一斉に彼女を覆うように凍らせた
個性を発動する間も与えず、確実に動きを止める

息はできるように顔は出しているけれど至近距離からの大氷結の威力は凄まじいはずで闇舞さんはぐったりと意識を失っているようだ
体育祭の時に焦凍くんの大氷結を受けたことを思い出し懐かしくなる

『これは…!全員ダウン!!!?
一気に4名ダウン!!しかしまだ!牢に入るまでは戦線離脱にはならないぞ!!どうなる!!』

ブラドキング先生の偏向実況が聞こえたのでハッとし、目の前の闇舞さんを封じる氷結を解除しようと手をかざした

「(1人でもいい、投獄しなきゃ)」

そう思った私の足元に見えたのは闇

「え」

顔を上げた瞬間、見えたのはフッと笑う闇舞さんの姿

彼女は言った、私のことは調べあげていると
こうやって油断することも、個性の発動にラグがあると気がつくことも全部

「(くそ、ブラフ…っ!!)」

ハメられた、そう理解した時には既に全身を襲う痛みと冷たさで私の意識は暗転していた




ーーーーーーー
ーーー




はっと目を開ければおそらく保健室
起き上がった私にリカバリーガールがスニッカーズを手渡した

ベッドから降りてカーテンを開ければ、そこにいたのは闇舞さん

「あ」

思わず出てしまった声
闇舞さんもどうやら気絶していたらしい
最後の反撃はなけなしの力だったとか

「その…水で反撃した時、ちょっと勢いよくやりすぎて…ごめんなさい」

思い出したのは津波を返された時に頭に直撃したあれ
確かに範囲を絞った分勢いがやばかったのを覚えている

ホースを押さえると水の勢いが良くなるのと同じ感じだろう

「痛かったけど大丈夫だよ、私の方こそ氷結ぶっぱなしちゃったから…大丈夫だった?」

首を傾げれば、闇舞さんがムッとしたような表情になった

「べ、別に!!あれくらいどうってことないわよ!!」

「(わー、絵に描いたようなツンデレ)」

唄ちゃんも変な子に好かれたなあと思っていると、闇舞さんと共に保健室を追い出された
男女で部屋は違うのか、リカバリーガールはそのまま別の部屋に入っていく
ここにいても仕方ないので闇舞さんと一緒に運動場γへ向かえば第4チームは既にスタンバイに向かったらしい

「唄ちゃんの勇姿が見られる!!」

目を輝かせてる闇舞さんに苦笑いしていると、彼女はまたこちらを恨めしげに見てモニターを指差す

「ほら!海色さんもしっかり見なさい!!」

「あ、うん」

ずっと"アナタ"呼びだったのに名前を呼んでもらえた

「(ちょっとは認めてもらえた…かな?)」

変わった子だけれど唄ちゃんのことが本当に好きなんだろう
そんな彼女を嫌いになることはできなかった









prev / next



- ナノ -