ヒロアカaqua


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福岡の一件から2日後

帰宅した親父を出迎えたのは姉さん、夏兄、そして俺

「おつかれ」

「…久しぶりだな」

「焦凍はわざわざ外出許可いただいてね!先生にも上がっていただくつもりだったけど遠慮するって
とりあえず大仕事お疲れ様でしたってことで…ね!」

蕎麦を啜りながら親父をに目を向ければこの前の一件で脳無にやられた傷が左顔面に残っている

「傷跡…ひでぇな」

ただ黙って麺を啜りながら親父を見る夏兄と俺に姉さんが慌てる

「二人ともおつかれくらい言いなさいな!今日は労おうって約束でしょ!
せっかくお父さんが家族を顧みようとし始めてるんだから!嫌いだからって顔に出しすぎだよ」

「聞こえてるぞ」

小声でそう言った姉さん
けれど親父にはちゃんと聞こえていたようだ

しばらく考え込んだような顔をした夏兄が立ち上がる

「…姉ちゃんごめん、やっぱムリっぽい俺」

「なつーーー!」

姉さんの静止も聞かず出て行こうとする夏兄
けれどその肩に親父は手を置いた

「夏雄、言いたい事があるなら言え」

「言えって…目ェ合わせたこともないくせに急によく言うね」

いらっとした夏兄の声
蕎麦を啜りながら様子を見守る

「俺さ、焦凍がそば好きなんて初めて知ったよ
あんたが失敗作と関わらせないようにしてたから」

思い出したのは庭で遊ぶ兄たちが羨ましかった頃の俺

"焦凍見るな、兄さんらはおまえとは違う世界の人間だ"

冷たく、自分の子供をアレ呼ばわりしていた親父のことも

「夏兄…」

「お母さんも姉ちゃんも何故か許す流れなんだけどさ、俺の中じゃイカレ野郎絶賛継続中だよ
変わったようで全然変わってない…失敗作は放ったらかし、聞こえてくるお母さんの悲鳴、焦凍の泣き声
燈矢兄のこともさ…No.1になって強敵倒したところで心から消えるハズない
勝手に心変わりして!一方的に縒り戻そうってか!気持ち悪いぜ!そーゆーとこわかってんの!?」

怒鳴っている夏兄
けど親父は表情を変えない

「これから向き合い償うつもりだ」

「あっそ!!!悪い、姉ちゃん!ごちそーさま!!」

「なつー!!」

どたどたと姿を消して自室に戻った夏兄を姉さんが呼び止めようとするけど無理だったみてぇで顔を押さえため息をつく

「あーもう…やっぱりだめかなァ…焦凍が雄英入って…お母さんに会うようになって…
お父さんも歩み寄ってくれてさ、お母さん笑うようになって…うちも、うちだって家族になれるんだーって…
嬉しかったの姉さんはぁー!!!焦凍ーーーー!!!」

涙目で俺を揺らす姉さん

「姉さん…夏兄があんな感情むき出すところ初めて見た」

手元の蕎麦を啜りながらそう言えば、姉さんはハッとしたような顔をした
ちょうどその時テレビが先日の件を放送し始める

『あの戦いから2日、No.1ヒーローに対する評価が揺れ続けています』

『ああも辛勝だとねえ…大丈夫なの彼?血だらけだったじゃない』

『また連合逃したんでしょ?』

『そもそも脳無ってもういっぱい捕まえてんでしょ?そういうレベルのヴィランに苦られても…』

該当インタビューで口々に否定的な意見を述べる人たち

「消そ消そ」

「いや」

姉さんを止めテレビを見る

『不安の声は変わらず…その一方』

『おらん象徴の尾っぽ引いて勝手に絶望すんなや!今俺らの為に体張っとる男は誰や!!見ろや!!』

あの時テレビに向かってそう言った奴が映る
そして今度は肯定派が意見を述べて行く

『"見ろや君"の愛称で話題となっている少年、彼の叫びは多くの心をエンデヴァーへと引き寄せました!』

『いやーあの戦いね!エンデヴァーはもちろんだけどね、"見ろや君"そして何よりホークスの献身が大きかったよ
皆がね一丸となったもん、応援するんだって…向かい風はまだ止まないだろうけどね皆もう気づいたよ
エンデヴァーの時代だって、彼を支持する声は確実に拡がっているもの』

それを聞いて蕎麦を食べる手を止めた
親父に目を向けることはない
それでも親父に告げる

「ヒーローとしての…エンデヴァーって奴は凄かったよ、凄い奴だ
けど…夏兄の言った通りだと思うし、おまえがお母さんを虐めたこと…雫を許嫁なんてモンで縛ったこと…まだ許せてねェ
だから…親父としてこれからどうなっていくのか見たい」

"焦凍くん…炎司さんにお大事にって伝えておいて…"

寮を出る前にそう言った雫
いつの間にかあいつも親父を許している

「ちょっとした切っ掛けが人を変えることもあるって俺は知ってるから」

そうだ、知っている
親父が変わっていくように雫だってそうだ

だから俺はまだ言ってやらねェ

「(雫がお前を尊敬してるってことは知らねえフリをする)」

あいつは意外とわかりやすい
俺と同じくらい動揺していたあいつを見てればそんなこと簡単にわかる
きっと俺には言わないだろう、けど見てりゃわかる

「冬美、今まですまなかった
夏雄に掛ける言葉を間違えた」

そう告げて居間を出て行った親父
姉さんもそば湯を取りに行った

残された俺はこの前の雫を思い返す

"荼毘…っ"

恐怖したような顔をした雫
林間合宿で雫のビー玉を俺からかっさらった荼毘は言った

"悲しいなあ、轟焦凍"

雫のことを知ってる…それだけで荼毘を警戒するには十分な理由だ

そう思っていた俺はまだ知らない、あいつが何者かを









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