ヒロアカaqua


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昨日ヒーロービルボードチャートJPで1位をとったエンデヴァー
今日は日曜日
どのテレビを見てもその話題で持ちきりだ

「ねえねえ、見た?」

「見た見た、ホークスやっぱかっこいいよなー」

共有スペースで何人かで一緒にテレビを見ていると速報が流れ画面が切り替わる

『臨時ニュースです、ただいま福岡市にてヴィランが発生!ホークスとエンデヴァーが戦っています!!』

映ったのは福岡の上空
空を飛んでいるエンデヴァーが交戦しているのは脳無
ホークスは救助活動中らしい

「えっ…」

「脳無っ…!?」

唄ちゃんが青ざめる
脳無ということはヴィラン連合が、死柄木が関わっているということ

「待って…エンデヴァー押されてねえ?」

上鳴くんの呟き通り中継では完全に脳無が優勢
ビルにエンデヴァーを押しつけ引きずり回っている

その衝撃で崩れそうになるビル
ホークスが剛翼の個性で次々と救助していく様はさすがNo.2
今日本のトップ2が共闘しているんだ

「やっぱ漢だぜホークス!!」

ホッとした時、エンデヴァーの炎が線状になり脳無をサイコロ状に焼き切った

「(私のスワロウストライクよりずっと細かいし早い)」

自分とプロとの差を痛感し拳を握る
焦凍くんだけじゃない、私にとっても人生を狂わされた相手であるエンデヴァー
職場体験で話してみてわかったけれど根っから恨むような人じゃない
でも焦凍くんや彼のお母さん、冬美さんたちにしてきたことも事実

「(それでも私は…)」

ヒーロー殺し事件の後、脳無に連れ去られかけた私を抱きとめた彼にホッとした自分がいた
あの瞬間から私はエンデヴァーを嫌いになんてなれなくなった
許嫁の件も承諾したわけじゃない、言いたいことは山ほどある…それでも

「(尊敬してる…なんて焦凍くんには絶対言えないなあ)」

もちろんエンデヴァー本人にも言うつもりはない

そんなことを考えている内に脳無が再生し攻撃をしかける

『ああ今!見えますでしょうか!?エンデヴァーが!!この距離でも眩しいほどに激しく発火しております!!』

大技のプロミネンスバーンが放たれる
焼けていく脳無

エンデヴァーが勝った、そう思った直後
体の一部を逃しておいた脳無の攻撃がエンデヴァーの左顔面を抉った

「…え」

おびただしい出血と共に地に落ち倒れるエンデヴァー
テレビから目が離せなくなっていた私の近くにいた唄ちゃんがハッとして振り返った

「轟くん…っ!」

その声に恐る恐る振り返れば、テレビを見て立ちすくんでいる焦凍くんがそこにいた

『繰り返しお伝えします!!
突如として現れた1人のヴィランが街を蹂躙しております!ハッキリと確認できませんが改人脳無も多数出現しているとの情報が…現在ヒーローたちが交戦・避難誘導中!』

テレビの中のリポーターの声が響く中、私の手が震える

『しかしいち早く応戦したエンデヴァー氏は』

画面が切り替わり映される地に伏すエンデヴァーの姿

『この光景、嫌でも思い出される3ヶ月前の悪夢』

瞬間、立ち上がったエンデヴァーが脳無に攻撃するも蹴散らされてしまう
戸惑う人々、パニック状態の中我先にと逃げ惑っている

『象徴の不在…これが象徴の不在…!!』

地獄絵図の光景
寮の扉が開き相澤先生が飛び込んでくる

「轟ッ…もう見てたか…!」

焦凍くんは立ち尽くしたまま眉間にシワを寄せる

「ふざけんな…」

と、その時戸惑う人々の中、1人の男の子が声をあげた

『てきとうな事言うなや!!どこ見て喋りよっとやテレビ!』

『やめとけやこんな時に!』

『あれ見ろや!まだ炎が上がっとるやろうが!!見えとるやろが!!
エンデヴァー生きて戦っとるやろうが!!おらん象徴の尾っぽ引いて勝手に絶望すんなや!
今俺らの為に体張っとる男は誰や!!見ろや!!!!』

その言葉に焦燥は引いていく
彼は…エンデヴァーは今No.1として戦っている

「エンデヴァー…」

祈るように両手を握った私の背に唄ちゃんが心配そうに触れた

『再び空からの映像です…あっ!黒のヴィランが………あっ!!!
避難先へ!!ああ!!追っています!しかし追っています!エンデヴァーーーー!!!!』

避難先へ、人の集まる方へ向かう脳無
それを追いかけるエンデヴァー
もう満身創痍だろうに彼を突き動かすのはヒーローとしての責務なんだろう

ぐっと構えたエンデヴァー
そんな彼の火力にホークスの羽が背中を押すように後押しし、スピードが上がる

脳無に放たれた拳
口内から灼いているのに倒れないどころか姿を変えた

『エンデヴァー…戦っています…身をよじり…足掻きながら!!!』

「親父…っ、見てるぞ!!!」

昨日のビルボードチャートでエンデヴァーは言った「見ていてくれ」と
今日本中の誰もがNo.1を見ている

どんどん上空に上がっていくエンデヴァー
被害の出ない空で再び放たれた大技、プロミネンスバーンは先ほどよりもずっと強力で福岡市を、画面を光が覆う

脳無と共に落ちてきたエンデヴァー
画面に映るのは煙のみ

静寂が共有スペースを、いいや日本中を包んだ

そして煙の中姿を見せたエンデヴァーは右手を上げ立っていた

『立っています!!スタンディング!!エンデヴァーーーーー!!!!!
勝利の!いえ!!始まりのスタンディングですっ!!!!』

安堵した焦凍くんがその場にしゃがみ込んだ
私も握っていた手を解いて彼に駆け寄ろうとする
けれど目に映ったのは青い炎

"お前のことはずっと前から知っている"

思い出したのは私を知っていると言った荼毘の姿

「荼毘…っ」

『ヴィラン連合!荼毘です!!連合メンバーが!!!
炎の壁を展開しエンデヴァーらを囲いこんでおります!!』

「あいつか…っ!堂々とどういうつもりだ…おい海色!お前は見るんじゃない!」

相澤先生は知っている
どうやら林間合宿で交戦した際に荼毘は「海色雫はどこだ」と先生に問うたらしい
そして彼が私を知っていることも共有した

唄ちゃんが慌てて私を連れて立ち上がろうとするけれど、首を横に振る

「嫌です…最後まで見ます」

エンデヴァーとホークスに向かって行く荼毘
けれどそこに乱入したのはミルコ

カメラが遠くて何を話しているのかはわからない、けれど荼毘の口からあの日私をワープさせたのと同じ黒い液体が飛び出した

「っ」

どんどん液体に覆われ姿を消した荼毘

『危機は…荼毘は退き…敵は消えました…!!っ、私の声は彼らに届いておりません…しかし!言わせてください!!
エンデヴァー!そしてホークス!守ってくれました!!命を賭して!勝ってくれました!!!
新たなる頂点がそこに!私は伝えたい!!伝えたいよあそこにいるヒーローに!!ありがとうと!!!!』

盛り上がる市民たち
けれど私はそんな気にはなれなくて…唄ちゃんの手をそっと握った

"都合のいい記憶だな"

頭の中の荼毘の声はまだ消えそうにない








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