ヒロアカaqua


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11月中旬

文化祭が終わって数日



クラスメイトの視線の先には前後並びの自席に座っている爆豪くんと唄ちゃん

「唄、忘れてンぞ」

「あー、ほんとだ!ありがとう」

移動教室でペンを忘れた唄ちゃん、それを届けた爆豪くんはすぐに何でもなさそうな顔をしてあくびをしている
付き合ったと聞いた時はみんながあれやこれやと囃し立てたし、三奈ちゃんも大盛り上がりだったというのに蓋を開けてみれば2人の距離感は変わらない

授業でわからないところがあれば

「勝己、ここなんだけど」

「ちったぁ頭使えや」

と、口が悪い爆豪くんと全然気にしてない唄ちゃんだし
戦闘訓練の時は

「今日も俺の圧勝!!」

「悔しいいいい!!!」

なんていつも通りの戦闘狂2人でしかない
私としては幼馴染なんだし距離感は今更変わらないだろうと思うんだけど、三奈ちゃんは違うらしい

「もっとイチャイチャしてよ!!!!」

くわっと叫んだ三奈ちゃんに頷く切島くんや上鳴くん

「してたまるか」

「イチャイチャとは?」

ケッと吐き捨てる爆豪くんと、首を傾げた唄ちゃんに3人の期待は打ち砕かれたようでうなだれている

「俺らがどれだけバックアップしてきたと…」

「頼んでねェわ」

「舞羽!急に天然感出さなくていいから!!」

「えぇー…」

食い気味の面々に困っている唄ちゃん
そんな様子を眺めていた私の後ろでお茶子ちゃんが「何か大変そうやねえ」と呟いたので賛同した

ヒーロー科の面々は日頃忙しすぎて恋愛をしている余裕がないのが実情
そんな中まさかまさかの爆豪くんと唄ちゃんが付き合ったというのだからそりゃあもうお祭り騒ぎなわけで
爆豪くんがデレるんじゃないかとか、一同が期待していたんだけれどそれらしきものは一切ない

いたって普段通り

「(それにしてもいつの間に気持ちを認めたんだか)」

林間合宿の際にいじって遊んでいた爆豪くんが遂に自分の恋心に気がついたというのに、そんないじりがいのあるイベントを見逃してしまったことを悔やむ
はたと目が合ったのでにっこり微笑んだら中指を立てられた、ひどい

「なあなあ雫ちゃん」

ちょんちょんと突いてきたお茶子ちゃんがヒソヒソと語りかけてくる

「雫ちゃんもはよ轟くんと付き合ったら?」

「ちょ、お茶子ちゃん!?」

私も小声で制すけれど焦凍くんと目が合ってしまったので思いっきり逸らした
唄ちゃんたちが付き合ったことで一度解放されていたのに、あまりにも新鮮味がないのか結局私に「早く告白しちゃえ」と女子メンバーが囃し立てる騒ぎになっているのでつらい

文化祭で告白はした
けれど何の悪戯か聞き取れなかったという事態だったので今だ平行線のままな関係

「(また言うって言ったけど…よくよく考えれば結構思い切ったな私)」

好きという気持ちが溢れて止めておけなくてつい口から漏れた本音
言葉にしてみればたった一言なのになかなか言えないでいるのは弱虫だなあと自嘲してしまう

「(でも言わなきゃ伝わんないもんね)」

焦凍くんにはいつだって本心のままでいたい
そんなことを考えていた時、相澤先生が入ってきたので思考を中断した










その日の放課後、相澤先生に呼ばれたのはインターンメンバー
連れてこられたのは教師寮の一室

そこにいたのはビッグ3と、彼らに囲まれているエリちゃん

「雄英で預かることになった」

波動先輩に髪を結ってもらっているエリちゃんが顔を輝かせた

「デクさん、シャボンさん!」

「エリちゃん久しぶり」

「よろしくおねがいします」

唄ちゃんたちと駆け寄れば、どこか落ち着かないのかそわそわしている
けど少しは慣れたのか怖がっている様子はない
唄ちゃんの羽を興味津々に見ていたエリちゃんににこにこしてしまう

「どういった経緯で…!?」

「いつまでも病院ってわけにはいかないからな」

緑谷くんの問いにそう告げた先生は通形先輩と共に私たちA組メンバーを外に連れ出す

「エリちゃん、親に捨てられたそうだ
血縁にあたる組長も長い間意識不明のままらしくて現状寄る辺がない」

「そんでね、先生から聞いたかもしんないけど個性の放出口になってる角」

「縮んでて今は大丈夫って聞きました」

「わずかながらまた伸び始めてるそうなんだ」

それを聞いてフラッシュバックするのはエリちゃんの個性が暴走し苦しむ緑谷くんの姿

「じゃあ…またああならないように?」

私の問いに先生は頷く

「そういうことで養護施設じゃなく特別に雄英が引き取り先となった
教師寮の空き部屋で監督する、様子を見て…強大すぎる力との付き合い方も模索していく
検証すべきこともあるし…まあ…おいおいだ」

「相澤先生が大変そう」

「そこは休学中でありエリちゃんとも仲良しなこの俺がいるのさ!忙しいだろうけどみんなも顔出してよね」

「もちろんです!」

「エリちゃんが体も心も安定するようになれば…無敵の男復活の日っも遠くない」

「そうなれば嬉しいね」

通形先輩の肩に手を載せた天喰先輩
そう、通形先輩はあの一件で個性を失っている
もしエリちゃんの個性が使いこなせれば個性を失う前にまで戻せるかもしれない

「早速で悪いが3年、しばらく頼めるか?」

「ラジャっす!オセロやろっと!」

「僕らもいいですか!」

そう尋ねた緑谷くんに私も頷く
けれど相澤先生は首を横に振った

「A組は寮に戻ってろ、このあと来賓がある」

その言葉にみんなと顔を見合わせ不思議に思いつつも寮に戻った
飯田くんから聞いたところプッシーキャッツの面々が来てくれるらしい
みんな私服に着替え共有スペースに集まって談話しながら待つことに

「へっちょい!!!」

凄まじい勢いでくしゃみをした常闇くんにギョッとしたけれど、風邪ではないらしい

「噂されてんじゃね!?ファン出来たんじゃね!?ヤオヨロズー!みたいな」

「茶化さないで下さいまし、有難いことです!」

「確かに文化祭の時、百ちゃんファンいたよね」

「雫まで…!」

ぷりぷりと怒る姿が可愛くて上鳴くんとのほほんとしていると、傍にいたお茶子ちゃんが微笑む

「常闇くんはとっくにおるんやない?だってあのホークスのとこインターン行っとったんやし」

「いいやないだろうな、あそこははやすぎるから」

そう告げた常闇くんが唄ちゃんを見る

「舞羽、ホークスがお前に会いたがっていた」

その言葉に唄ちゃんが目を丸くして首を傾げた
けれど何か言うよりも早く寮の扉が開いたのでそちらへ目を向ける

「煌めく眼でロックオン!」

「猫の手手助けやって来る!」

「どこからともなくやってくる」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」」」

ジャーンとしっかり口上と共に登場したプッシーキャッツの面々、それに洸汰くんもいる

「プッシーキャッツ!お久しぶりです!」

「元気そうねキティたち!」

「あん時ゃ守りきってやれずすまなんだ」

ぬっと寄ってきた虎さんが私と爆豪くんにそう告げる

「ほじくり返すんじゃねェ」

「ちょ、爆豪くん!?…あの、大丈夫ですから、お気になさらないで下さい」

マナーもなにもない爆豪くんの代わりにぺこぺこと頭を下げれば虎さんがフッを微笑んでくれた
チラリとみんなを見れば、手土産に持ってきてくれたにくきゅうまんじゅうに夢中な様子

「しかしまた何で雄英に?」

「復帰のご挨拶に来たのよ」

「復帰!!?おめでとうございます!!」

「ラグドール戻ったんですか!?個性を奪われての活動見合わせだったんじゃ…」

オール・フォー・ワンによりサーチの個性を奪われたラグドール
それ以来ずっと活動休止していたけれど復帰するらしい

「戻ってないよ!アチキは事務仕事で3人をサポートしていくの!OLキャッツ!」

「タルタロスから報告はいただくんだけどね」

オール・フォー・ワン曰く個性を返そうにもタルタロスで個性を使う必要がある
と言っているらしい

あの日、神野で目の前で見たオール・フォー・ワン
圧倒的すぎる巨悪を前に全身が震えたことを思い出す

「どんな個性を内に秘めているか未だ追求してる状況
現状何もさせない事が奴をおさえる唯一の方法らしくてね」

「では何故このタイミングで復帰を?」

「今度発表されるんだけどヒーロービルボードチャートJP下半期、私たち411位だったんだ」

ヒーロービルボードチャートJP
事件解決数、社会貢献度、国民の支持率などを集計し毎年2回発表される現役ヒーロー番付
すなわち上位に名を刻んだ者程人々に笑顔と平和をもたらしたヒーローというものだ

「前回は32位でした」

「なるほど!急落したからか!ファイトっす!!」

「違うにゃん!全く活動してなかったにも拘わらず3桁ってどゆ事ってこと!!」

それを聞いて一同はハッとする

「支持率の項目が我々突出していた」

「待ってくれてる人がいる」

「立ち止まってなんかいられにゃい!!」

「そういう事かよ!漢だワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」

うおおおっと雄叫びをあげながら感動している切島くん
プッシーキャッツは女性グループだからね
虎さんも元女だからね…

「ビルボードかあ…」

「そういえば下半期まだ発表されてなかったもんね」

「色々あったからな」

「オールマイトのいないビルボードチャートかあ…」

「どうなってるんだろう、楽しみだな!」

はしゃぐみんな
そんな会話を聞きながらチラッと焦凍くんの顔を見れば案の定何か考え込むような表情をしていた

「(エンデヴァー…どうなるんだろう…)」









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