ヒロアカaqua


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『続いては1年A組 海色雫さんです』

ステージに上がればとんでもないほどの人が集まっていて回れ右したくなるけれど、先ほどの唄ちゃんたちの笑顔を思い出して諦めた

ミスコンは何かしらアピールをしないといけないらしい
何も考えてなかったけれど観客の中に見えたエリちゃんが小さく手を振ってくれたので口角が上がった

「(エリちゃんが喜ぶもの)」

咄嗟に思いついたのが先ほどのシャボン玉を見て嬉しそうだった彼女の姿
くるりと回りながら氷でカボチャの馬車を作り上げて水で動物を生み出す

「シンデレラの馬車だ!」

「鳥やリスもいる!」

「綺麗!!」

自分の立ち位置は魔法使い
そんな魔法使いからプレゼント
客席へシャボン玉を飛ばせばそれは太陽光で様々な色へと変わった

『なんと美しい光景!まるでお伽話のような光景に目を奪われました!』

ぺこっとお辞儀をして下がれば、唄ちゃんがグッジョブ!と親指を立てている
それを呆れた目で見つつ着替えてみんなのところに戻れば囲まれた

「ミスコン出てたんやね!」

「海色お前すげェ人気だったぞ!」

「全部唄ちゃんのせいだよ…」

うなだれた私の傍で満足げな表情の唄ちゃん

「私の目に狂いはない」

「プロデューサーかよ」

ようやく解放されてホッとしていると、通形先輩とエリちゃんがやってきた

「海色さん、お疲れ様!見てたよ」

「あ、先輩…エリちゃんも」

波動先輩の演技がとっても素敵だったので優勝はできないだろうけどやれることはやったつもりだ

するとエリちゃんがてててっとこちらへ駆けてきたので屈む

「あのねあのね!ふわふわーって飛んできてぱちんっ!って消えるの!」

頬を染めて嬉しそうにそう告げる彼女に呆気に取られた
恥ずかしがり屋であんまり会話してくれなかったのに今はこんなにも嬉しそうに目を輝かせてくれている

「それでね…シャボン玉のおねえちゃんのお名前…知りたくて」

緑谷くんからずっと聞いていたエリちゃんの情報
どうやって笑うかがわからなくて、そんな彼女のために文化祭に呼んだという
目の前にいるエリちゃんがはしゃいでる姿に少し涙腺が緩んだ

「…泣いてるの?」

「ごめんね、何でもないよ」

慌てて涙を拭って笑顔を見せた

「私は雫、ヒーロー名はシャボンだよ」

「シャボン玉のシャボン?」

「そ」

ぱああっと顔を輝かせたエリちゃんが可愛すぎてにまにましていると、通形先輩が緑谷くんと合流して回るようだったのでお別れする
彼女とはきっとまた近い内に会える気がした

「雫」

「わっ!」

びっくりして振り向くと不思議そうな表情の焦凍くん
あ、そういえば一緒に回る約束してたんだった

「ごめんね、急にミスコン参加することになっちゃって」

「いや、お前もああいうの出るタイプなんだな」

「違う違う!唄ちゃんが勝手にエントリーしてたんだって」

「舞羽が…」

唄ちゃんは基本的には好きだけれどたまーにとんでもなく危ないから気をつけないといけない
ミスコンの衣装も用意してたなんて用意周到すぎる

「ダンスの衣装のままなんだな」

「うん、制服は教室だからね
あ、目立つし着替えてこようか?」

焦凍くんはA組Tシャツなのでそう提案するけれど、彼は首を横に振った

「似合ってるしそのままでいいだろ」

「に…あ…え?」

「お前が言ったんだろ、すぐ褒めろって」

"今度は照れないで会ってすぐに褒めてね"

それはI・アイランドでの一件の時に言った言葉
確かに言ったのは言ったけど改めて言われるととんでもなく恥ずかしい
それにダンスの衣装はなんというかそれなりに露出も多いので尚更

「ダンス楽しそうだったな」

あの瞬間のステージのことを思い出す
ずっと練習してきたことがああやって形になって、他科の人からも褒められたのは嬉しい

「うん!…でもわがままを言うなら焦凍くんとも踊ってみたかったかも」

「なら踊るか?」

「えっ?」

「誰も居ねえし」

ミスコンが終わってみんな他のお店を回っているのか確かに誰もいない
けれど目立ちそうなのでちょっと木陰に移動する

「じゃあせっかくだから」

重なる手
触れたところが熱くて恥ずかしい

「で、どうすりゃいいんだ」

「気にせず好きなようにやろう」

えいっと焦凍くんを引っ張るようにくるくると回ればびっくりしたような顔になったので思わず吹き出してしまった
日に日に表情豊かになる焦凍くんは見ていて飽きない

「あっ」

「おっ」

思わず遠心力で倒れ込んでしまった私達
倒れてからしばらくはポカンとしていたけれどこれもまた吹き出す

「あははっ!」

「よく笑うようになったよな」

「それは焦凍くんもだよ」

気づいてなかったのか首を傾げる彼に微笑む
無自覚でもいい、ゆっくり良い方向に進んでいることが嬉しい

「(形だけの許嫁…そのはずなのに)」

本当に恋人になりたいと思うのはダメなんだろうか
焦凍くんが望んでないのなら仕方ない、けれど私のこの気持ちを仕舞い込むのはもう難しいかもしれない

「焦凍くん」

「何だ?」

こちらをむいたオッドアイ
何度見ても整っている顔、それに落ち着いた声
優しくて友達思いで、試行錯誤しながらもちゃんと自分の過去と向き合おうとしている彼

気がつけば言葉が口から出ていた

「好きだよ」

そう告げた瞬間ミスコン会場の資材を撤収していた人が何かを落としたのか大きな音が響き渡った
どうやら私の言葉にかぶっていたようで焦凍くんは「悪ィ、聞こえなかった」と言う

「ううん、何でもない」

「そうか?」

そう、大丈夫だ
立ち上がって数歩先を歩いた私は振り返る

「大丈夫、また言うから」

私は我儘だからきっと彼を諦めるなんてできない
この気持ちを隠すことももうできない

にこっと笑った私を見た焦凍くんはまた首を傾げた










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