ヒロアカanother story


▼ あの子はお嬢様



6歳になった私はいつものように個性の訓練を行う

お父さんから私の個性は強力だから、正しい使い方をしなきゃと言い聞かせられているので別に訓練は嫌じゃない
むしろ力をちゃんと使いこなせるようになるとお父さんもお母さんも喜んでくれるからもっと頑張ろうと思える

「雫、今日はちょっとお出かけするからこっちにいらっしゃい」

「お出かけ?」

一体どこへ行くんだろうと思ってお母さんについて行くと正装に着替えさせられる
ああ、なるほど、正装ということはお父さんの会社関連のパーティだろう
今回が初めてじゃないので特に驚くこともなくタクシーに乗ってたどり着いた先には大きな豪邸
そこには私たちを待っていたであろうお父さんの姿がある

「お父さん」

「おお、来たか」

お父さんもいつもよりいいスーツに身を包んでて少し変な感じがする
うちはお金持ちという家じゃない、お父さんの勤めている会社がお金持ちの方と取引することが多くてこうやってパーティに呼ばれることがあるだけだ
お父さんだけが呼ばれることもあれば、今日のようにお母さんや私も呼んでもらえることがある

お父さんに連れられて豪邸に踏み入れれば、そこには絵に描いたような豪華絢爛な大広間が広がっている
この前読んだ小説でどこかのお姫様が舞踏会に行った場所のような光景に思わず背筋が伸びた

「八百万さんはうちのスポンサーでね、今日はわざわざ招いて下さったんだ」

大広間にはお父さんと同じ会社の人がたくさんいる
これだけの人数を招くなんて八百万さんという人はどれだけお金持ちなんだろうか

「お集まりの皆さん、ようこそ我が邸宅へ」

大広間の前の方にある壇上にいるのはお父さんと同じくらいの年齢の男の人
その横には奥さんであろう女の人と女の子がいる

「どうぞ今日は存分に楽しんで下さい」

少しの演説の後にそう締めくくった八百万さん
ぱちぱちと参加者が拍手を送るとメイドさんや執事の方々が入ってきてテーブルに料理を並べて行く

「わ…美味しそう…!」

食べ物に目が無い私は美味しそうな料理に目を輝かせる
あまりはしたないことをするわけにはいかないので堪えるけれどお腹が鳴りそう

「ふふ、雫のお腹がもう限界かしら」

「私は八百万さんに挨拶に行ってくるから先に食べているといい」

「そうさせてもらいましょうか、さあ雫こっちよ」

お母さんと共にテーブルへと行くとお肉にお魚、パンにスープ、デザートなどずらりと並んでいる
少しだけ取り分けてもらってお皿を受け取れば、いよいよお腹が鳴ってしまった
立食パーティなので椅子はない、立ったまま食べることも練習しているので不便はないけれど座って食べる方が好きだ

「いただきます」

もぐもぐと口に含んで味を堪能している私を微笑ましそうに見ているお母さん
本当は私とお母さんも八百万さんに挨拶に行った方がよかったんじゃないかと思うけど、大人数に囲まれている八百万さんを見てその考えを改めた

これは仕事関係でのパーティだからあまり部外者に割いてもらう時間もないだろう
機会があれば挨拶させていただくという方がいいのかもしれない

「あら、海色さんこんにちは」

「まあ、ご無沙汰しております」

同じようにお呼ばれした人の奥さんであろう方がお母さんに話しかける
以前のパーティでも会ったことがある人なので私もお皿を置いて挨拶をした

「雫ちゃんはとってもお利口さんね」

突然褒められて反応に困っていると、お母さんと女性が話し込みだす
会話を邪魔するのも良くないと思って大人しくよそってもらったご飯を食べていると、大広間の端っこの方にいる女の子が目に入ってきた

「(確か八百万さんの隣にいた…)」

お父さんたちと話し込んでいる八百万さんとその奥さん
きっとあの輪から抜け出してきたんだろう、女の子は口角を上げているもののそれが作り笑いだとすぐに見てとれた

私もお父さんとお母さんのためにいい子でいる努力をしている
時には笑って誤魔化すこともある、おかげで作り笑いは上達したし、それを見抜くこともできるようになった

何となくその子を放っておけなくてお皿を置いて近づく

「初めまして、八百万さんだよね?」

「え…あ、はい、私は八百万百と申します」

にこりと微笑む百ちゃん
でもやっぱり作り笑いのままでいる

「私は海色雫、百ちゃんのお家すごく立派だね」

「そう…ですか?これが普通とばかり…」

「私の家の何十倍も大きいよ」

「まあ…!」

どれだけ狭い家に住んでいるんだと思われたんだろう
驚いている百ちゃんの表情は作り物なんかじゃなくて素の表情のようだ
それが嬉しくて百ちゃんに微笑むと彼女も同じように微笑んでくれた

話して行く内に同い年であることがわかって仲良くなる
百ちゃんは生粋のお嬢様で、私の話す内容が新鮮なのか面白そうに話を聞いてくれた

どんどん彼女の表情が年相応になるのでついつい話こんでいると、いつの間にかパーティは終了していたらしい
両親が少し離れたところで私が来るのを待っているので百ちゃんへ目を向ける

「お話してくれてありがとう、百ちゃん」

「いえ、私の方こそとっても楽しかったですわ」

「じゃあまたね」

「ええ、また」

両親の下へ行ってからちらりと百ちゃんを振り返ると私を見て小さく手を振ってくれる
それが嬉しくて私も小さく手を振り返した

こうやって同年代の子と話すのは幼稚園以外では初めてなのですごく新鮮だった

「(また会えるといいな)」

そう思いながらタクシーに乗り込んだ私は揺れが心地良くて眠ってしまった

希望通り百ちゃんと再会するのは10年後のこと
成長した私たちは雄英高校で再び笑い合うことになる









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